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自己紹介

「いい加減離せよ! 恥ずかしいだろ!」


 あれから村まで戻ってきたのがすれ違う人からの視線が恥ずかしい。普段なら話しかけてくるのにドロシーが居るせいで見るだけで終わってるし、コソコソ話をしてくるのも辛い。


「ダメだ、もう少しだから我慢しなさい」


「んー! んー!」


 さっきからめちゃくちゃ力を入れているのにドロシーの腕はびくともしない。


「ぐ、グレンあまり暴れない方がいいよ……」


「お前は担がれてないからそんな事が言えるんだ! この恥ずかしさ分かるか!」


 12歳にもなって大人それも女の人に担がれてるなんていい笑い者だ。村の連中になんて言われるか分かったもんじゃない。


「そ、そんな事僕に言われても……」


 そんな話をしているとドロシーはある店に入って行った。

 俺の行きつけでもあるレオンおじさんの店だ。


「いらっしゃい! 好きな席に……ってドロシー様!? それにグレンとサムまで」


 レオンおじさんは俺達を見ると驚いていた。そして店の中の喧騒も消え突然静かになった。


「そんなに驚かなくてもいいんじゃないかい? 私はここに泊まっているんだよ。となれば当然戻ってくるに決まっているだろう?」


「す、すみません。まだ慣れてなくて……」


「まあいいけどね。できればテーブル席がいいんだけど……」


 ドロシーは俺を抱えたまま辺りを見渡したが、残念ながら席を満席だった。

 おじさんの店がこの時間から繁盛しているなんて珍しい。普段この時間はあまりお客さんもいないのに。


「あ、あの! 良かったらこの席使ってください! ぼ、僕達食べ終わったんで!」


 そう話しかけてのはこの村で1番の力持ちであるバグーだった。

 いつもは偉そうにしてる癖に今日はヘコヘコしている。


「本当かい? ありがとう、助かるよ」


 ドロシーが微笑みながら返すとバグーの顔は真っ赤になった。


「は、はぃ……」


 バグーは取り巻き達を立たせると「ドロシー様と喋っちゃった!」と嬉しそうに自慢しながら店を出て行ってしまった。


 ……誰だ、アイツ。お前はもっと偉そうにしてろよ! たかがドロシー如きに媚び売ってんじゃねぇぞ!


「さっ、席が空いたんだ。座らせてもらおうじゃないか」


 そしてようやく俺も解放された。

 よし逃げよう。そう思っているとサムに肩を掴まれ逃げないでと強い目で訴えてきた。


 ……仕方ないか。サムを置いてはいけないし。


 仕方がないので俺はドロシーの対面に座った。


「いらっしゃいませ……で、その……なんでグレンを抱えていたんですか?」

 

 水を持ってきたレオンおじさんが恐る恐ると言った感じでドロシーに質問した。


「いやぁ、いきなり襲われてね。逃げられても面倒だからああしたのさ」


 すると店内の時間が一瞬にして止まってしまった。


「すすす、すみませんでした! こいつ昔から馬鹿だったんですけど、ドロシー様に殴りかかるだけに飽き足らず襲うとは思っていませんでした! どうか命だけは助けてください! お願いします!」


 そして一番最初に動き出したのはレオンおじさんだった。


「これくらいのことで子供の命を取るわけないだろう? 私はこの子達に聞きたいことがあったから連れてきたんだ」


「そ、そうだったんですか? よ、よかったぁ……」


「それで注文したいんだけどいいかな?」


「は、はい! 勿論です!」


「私はエールと何かつまめる物を……君達は何がいい? 私の奢りだ。好きな物を頼むといいよ」


 なーにが、なんでもだ。偉そうにしやがって……あっ、いいこと思いついた!


「じゃあ俺はこの店でいーっちばん高い物で!」


「おいこらこの馬鹿! 何考えてるんだ!」


 レオンおじさんに怒られてしまった。


「だってドロシーがなんでもいいって……」


「ふふ、私は構わないよ。君はどうする?」


「ぼ、僕はオレンジジュースで……」


「そんなのいつでも頼めるだろ? どうせならサムも一番高いやつを」


「大丈夫、僕は大丈夫だから! グレンは余計なこと言わないで!」


「よ、余計なことって……」


 こっちは好意でやってるのに……


「じゃあそれで頼むよ」


「か、かしこまりました。グレン! くれぐれも迷惑がかかることだけはするなよ!」


 そういうとレオンおじさんは厨房の方へと戻っていってしまった。


「さて、まだ自己紹介をしていなかったね。私の名前はドロシー・アンバー。あらゆる魔術を極めた者、人呼んで叡智の魔女だ」


 こいつに名乗ってやるのは癪だが、自己紹介されたのに名乗らないのはダメだろう。


「俺はグレン冒険団の隊長グレン。で、こっちがグレン冒険団の参謀サムだ」


「よ、よろしくお願いします」


「グレンにサムだね。短い間だけどよろしくね」


 けっ、誰がお前となんかよろしくするかよ。


「グレンは私とあんまり話したくないみたいだから単刀直入に聞くけど」


「ちょっと待って!」


 話を始めようとしたドロシーに待ったをかける。


「ん? なにかな?」


「話ずらいんだけど……」


 店内の全員がこっちを見てきている。それもチラ見じゃないガン見だ。そのせいで話しずらいったらない。

 

「いつものことだから慣れていたけど、2人は話しずらいかもね」


「いつものこと?」


「うん。ほら私って人類最強だからさ、私を見るために人が沢山集まっちゃうんだよね」


 まさに強者の余裕って感じでムカつく。でも強いから見てみたいって理由だけで人があつまるなんて……すげ


「凄いだろう?」


「別に凄くない!」


「ふふっ、そうかい。で、話の続きだけど、私が聞きたいことというのは勇者モニカについてだ」


「……モニカ?」


 その名前を聞いた俺は思わず反応してしまった。


「おっ、急に食いつきが良くなったね」


 どこか茶化す様に言うドロシーにイラつくが今はそれどころじゃない。


「モニカのことってアイツに何かあったのか!?」


 モニカが王都に行ってしまったのは2年前だ。

 なのに今になってそんなことを聞いてくるのはモニカに何かあったかも知れないということだ。


「さあ? 最後に会ったのは1年前だしその後のことは知らないなぁ」


「良かった……って1年前にあった!?」


 俺らより後にドロシーはモニカと会ったってことか!?


「グレン、君も忙しい子だなぁ」


「お、教えてくれ! その時のモニカはどんな感じだったんだ!」


「こっちが質問していたはずなんだけど……まあいいか。と言っても二、三言葉を交わしただけだから詳しいことはわからないけど……」


「分からないけど?」


「終始笑顔だった。けど……彼女、とても思い詰めてたみたいだったね。しかもそれを周りに悟らせない様にしているみたいだったね」


「…………」


 父さんと母さんには成人するまでモニカを追いかけたらダメだって言われていたけどやっぱり今からでも俺が行って……


「……とはいえ、そこまで心配する必要はないよ。彼女の周りには王国直属の優秀な騎士や教会で選ばれた聖女もいるからね。並大抵のことはどうにかなるだろう」


「そ、そっか……」


 そんな凄そうな人達がいるなら少しは安心だ。


「じゃあ次は私の番だ。聖剣を抜く前と抜いた後の勇者モニカについて詳しく教えてくれないかい?」


「ん? あぁ……」


  それから俺とサムはモニカについて知っていることをドロシーに話すのだった。


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