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「フェリックスさん! 見てこれ、畑に芽が出てる!!」
早朝に薪割りをしていると、畑にやって来たカイルが大声を上げた。
畑の前で薪割りをしているから芽が出ていることはすでに知っていたが、嬉しそうなカイルを立てて俺も驚いてみせる。
「本当だな! カイルが毎日、水をあげてくれたおかげかもな!」
「へへっ。ケニーが起きたらケニーにも教えてあげよっと」
「ところでカイルはどうしてこんな朝早くに起きたんだ? いつもより大分早いぞ」
「なんか目が覚めちゃって。最近お店が楽しいから、楽しみで起きちゃったのかも」
お客さん第一号がやって来てから、口コミのおかげなのか、町での宣伝が効いたのか、店に毎日お客さんがやって来るようになった。
そしてカイルは接客をこなすうちに、お客さんとのお喋りが上手になっていった。
今では「男の娘店員」という自分の立ち位置を理解し、あえて可愛い仕草をしながら接客をするまでになっている。
もとからカイルは要領の良いタイプではあったが、ここまで「男の娘」属性を自分のものにするとは思っていなかった。
「今日もいっぱい可愛いって言われようっと!」
「カイルは可愛いって言われるの、嫌じゃないのか? あの制服を着せてる俺が言うことでもないが」
「うーん。最初は男なのに可愛いって言われるのが恥ずかしかったけど、チヤホヤされるのは悪い気がしなくてさ。馬鹿にしながら可愛いって言ってるやつらも、オレが可愛いことは認めてると思うと面白いんだよな」
そう言ってカイルがケラケラと笑った。
「よく分からないが、カイルが楽しんでくれてるなら良かった」
「おう。今日も頑張って働くぞー!」
カイルが元気にそう言いながら、もう一度小さな芽の出た畑を見てガッツポーズをした。
* * *
男の娘カフェが開店すると同時に、二十代くらいの女性二人がやって来た。片方はショートカットで、片方はロングヘアだ。
確かロングヘアの方の女性は、数日前にも店に来ていた人だ。
「いらっしゃいませー!」
「カイル君、また来ちゃった。相変わらず可愛いねっ!」
店に入るなり、ロングヘアの女性がカイルに話しかけた。
「だろ? この制服が似合う時点で、オレって神に選ばれし可愛さだよな!?」
「うん、最高に可愛いっ! 今日はカイル君のことを友だちにも教えたくて連れてきちゃった」
「本当に可愛い制服なんだね」
ロングヘアの女性に連れて来られたらしいショートカットの女性が、物珍しそうにカイルと、店の奥にいるケニーを眺めた。
「店を友だちに広めてくれるなんて、お姉さんは最高のお客様だな。ありがとう!」
「私、もうカイル君にメロメロだよ」
「じゃあ、もっとメロメロになってもらうために、ウインクをプレゼントしちゃうよ!」
カイルがロングヘアの女性に向かってウインクを飛ばした。
するとロングヘアの女性は嬉しそうに黄色い声を上げた。
「キャーッ! カイル君、可愛い!」
「知ってる!」
とても働き始めて数日とは思えないカイルの手慣れた接客を見て、ケニーは若干自信を喪失しているようだった。
「……フェリックスさん。僕もカイル君みたいに振る舞った方が良いんでしょうか?」
「あれはやろうと思って出来るものでもないと思う。俺は接客の化け物を目覚めさせてしまったのかもしれない」
「あはは……確かにあの接客は僕には難しそうです」
「落ち込むな。この町のほぼすべての人にとってあの接客は難しいから。ケニーは無理せず普通に注文を聞いて料理を運んでくれればそれで十分だ」
「ここか。変な制服を着た店員がいる店は」
カイルに見とれているうちに新たな客が来店した……が、来店早々に厄介そうな雰囲気を醸し出している。
何事も起こらなければいいが。
「いらっしゃいませ」
「おっ、本当に男なのに女みてえな服を着てるんだな」
「あ、あはは。これがこの店の制服なんです。お水をどうぞ」
「なあ、お前って本当に男? 実は女だったりしねえ?」
「僕は男ですよ。えっと、本日のメニューは……ひゃあっ!? 何するんですか!?」
いきなりケニーの身体を触ってきた男性客に、ケニーが驚いた声を出す。
「何って、本当に男か確認しようと思って」
「お兄さーん、この店はお触り厳禁なんだ。見るだけにしてくれよな」
ケニーの声を聞いてカイルがフォローに入った。
しかし男性客はカイルの制止を聞こうとしなかった。
「男か女か確かめるだけだって言ってるだろ。避けたから分からなかったじゃねえか」
そう言って男性客がもう一度ケニーの身体を触ろうとした。
しかし男性客よりも先にカイルがケニーを自分の後ろに隠すことで、男性客の手からケニーを逃がした。
「お兄さん。ここは料理を食べる店で、店員を触る店じゃないよ」
「はあ!? 俺は男に興味なんてねえ。そういう目的で触るんじゃねえよ。勘違いするな!」
「どんな目的だとしても、触るのは禁止なんだよ」
「ああん? お前、生意気だな!?」
男性客が立ち上がり、カイルに掴みかかろうとした……ところを、キッチンからホールにやって来た俺が腕を掴むことにより防ぐ。
「お客さん。申し訳ありませんが、この店は彼が言ったようにお触り禁止です。店員に触りたいなら、そういう店に行ってください」
「離せよ! 俺にお触り禁止って言うくせに、お前は客に触って良いのかよ!?」
「すみません。お客様がうちの店員に乱暴を働くのではないかと不安だったもので、腕を押さえさせていただきました」
「謝れば何をしても良いと思ってんのかあ!? つーか、こんな制服を着てたら触っても良いと思うだろ!? こんな制服を着てる方が悪い!」
いや、触る方が悪いに決まっているだろう。
それに近づいたことで分かった。まだ昼間だと言うのに、この男性客からは酒の臭いがする。酔いも手伝って迷惑行為に走っているのだろう。
もちろん酔っているからと言って、甘い対応をするつもりはないが。
「お客様……いいえ。あなたはもう、うちの客ではありませんね。店員を触り、店員を怖がらせてるんですから。お帰りください」
「なんだとお!?」
「聞こえませんでしたか。お帰りください。他のお客様の迷惑にもなりますので」
「おい、ちょっと体格が良いからってコノヤロウ。俺のことを舐めてんのかあ!?」
どうやらこの男は口で言っても聞いてはくれないらしい。
仕方がないから男の首根っこを掴んで身体を持ち上げる。
「なっ!? おい、離せ!!」
「ご自身でお帰りいただけないようですので、帰宅のお手伝いをさせていただきます」
男を持って店の外に出た俺は、男を力いっぱい投げ捨てた。本当に、力いっぱい。
すると男は綺麗な曲線を描いて遠くまで飛んでいった。
「さて、と」
俺が店の中に戻ると、カイルとケニーに加えて女性客二人が俺に拍手をしてくれた。
かなりやりすぎた自覚はあるが、彼らには俺が店長として適切な対応をしたように映ったらしい。
さすがにあの男性客も死にはしないだろうが、若干の罪悪感が…………ここは現代日本じゃないし、まあいっか!




