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「こんにちはー」
「「「いらっしゃいませ!」」」
翌日。ついにお客さん第一号がやって来た。三十代くらいの男性だ。
俺とカイルとケニーが一斉に声を掛けると、お客さんは多少ビックリしたようだったが、そのまま店内に入ってきてくれた。
「お水をどうぞです。えっと、本日のオススメは卵とハムのサンドイッチです。それ以外のメニューはあちらです」
お客さんに水を運んだケニーが、メニューの書かれたボードを指し示した。
するとボードを見たお客さんが困ったような顔をした。きっとあのお客さんは文字が読めないのだろう。
俺と同じくそのことに気付いたのだろうカイルが、すかさずフォローをした。
「卵とハムのサンドイッチの他は、卵と野菜のサンドイッチ、ハムチーズトーストがある。デザートにプリンもあるよ。まだ開店したばっかりだからメニューが少ないんだ」
「ふむふむ。飲み物は?」
「オレンジジュースと紅茶、それに牛乳があるよ」
「じゃあオススメの卵とハムのサンドイッチをもらおうかな。あと飲み物は紅茶で、デザートにプリンも頼む」
「「かしこまりましたー!」」
お客さんが一人のためここまでのやりとりは俺にも聞こえているが、カイルとケニーがキッチンまでオーダーを伝えに来てくれた。
二人ともお客さんの注文内容を間違えることなく俺に伝えてくれた。
「ありがとう。俺が料理を作ってる間、カイルはお客さんとお喋りをしててくれ。お客さんが迷惑そうにしたら戻ってくるんだぞ」
「分かった」
カイルは空気や状況を読む力があると判断した俺は、お客さんの対応をカイルにまかせて紅茶を淹れ始めた。
紅茶が用意できたら、まずは紅茶だけをキッチンの前にいるケニーに運んでもらおう。
「お客さんはどうしてこの店に来てくれたの? 実はお客さんが、来店第一号なんだ」
「昨日、町で宣伝をしてただろ。だから興味本位で覗きに来たんだ。本当にその制服で接客してるんだな」
「あー、うん。フェリックスさ……店長の趣味なんだ。オレとしてはフリフリしてて落ち着かないんだけど」
「店長ってもしかしてキッチンにいる大男?」
大男って言うな! 確かにゴツイが、ゴツイことを気にしているんだから!
「店長、ああ見えて可愛いものが好きらしいよ。人は見た目によらないよね」
「あっはっは。良い体格なのにもったいない。僕があの身体なら、格闘家を目指すんだがなあ!」
大正解。格闘家として勇者パーティーで活躍させてもらっていましたとも。
「どうやったら店長みたいに筋肉が付くんだろう。オレはひょろいから、羨ましいんだよな」
「毎日筋トレをするしかないんじゃないか?」
「店長、毎日筋トレはしてないよ? ああ、でも薪割りをしてるからそれが筋トレになってるのかも?」
「薪割りは力がいるらしいからなあ。トレーニングにはなると思う」
「オレも薪割りしようかな」
「君はやめておいた方が良い。薪割りはもっと筋肉がついてからじゃないと、怪我をするよ」
カイルがお客さんと会話をしている間に、紅茶が入った。
紅茶を乗せたトレイをケニーに渡し、お客さんの元に運んでもらう。
ケニーが紅茶の乗ったトレイを慎重に、とても慎重に、慎重すぎるくらいの速度でお客さんの元に運んだ。
「お待たせしました。紅茶です。熱いのでお気を付けください」
やや時間は掛かったものの、ケニーは転ぶことなく紅茶をお客さんの元に運ぶことに成功した。
その間、カイルもお客さんと仲良く会話をしていたみたいだし、二人とも接客に向いているのかもしれない。
二人の様子に満足しつつ、次はサンドイッチの作成に入る。
と言っても、パンを切って下ごしらえをしておいた卵とハムを乗せるだけの簡単調理だ。
すぐに出来上がったサンドイッチを、キッチンに戻ってきたケニーに手渡す。
ケニーはまた慎重にお客さんの元までサンドイッチを運んだ。
デザートのプリンはサンドイッチを食べ終わった頃に提供をした方が良いだろう。テーブルの上に置いたままではせっかくのプリンが生温くなってしまうから。
なおこの世界には冷蔵庫が存在する。
と言っても日本にある冷蔵庫とは違って電力で中の食材を冷やすわけではなく、冷蔵庫に冷却魔法を掛けることで食材を冷やす代物だ。
俺は格闘家ではあるものの、多少は魔法も使える。
……多少は、は言い過ぎた。俺が使えるのは冷却魔法だけだ。
魔王を討伐してから王国に帰るまでの道中で、ロジーナに無理を言って教えてもらったのだ。ロジーナ曰く、こんなに出来の悪い弟子を教えることは二度とないだろう、とのことだった。
俺は格闘家としての才能はあるものの、魔法はからっきしだったのだ。その俺が魔法を使うこと自体が無茶な話だったらしい。その無茶を可能にするためにロジーナは相当頭を悩ませることになったのだとか。
こう考えるとロジーナにはかなりの協力をしてもらっている。もしも今後ロジーナに何かを頼まれたら、内容が何だったとしても即答で力を貸そう。
「そろそろプリンを用意しても良いかも」
手持無沙汰になった俺がぼーっと考え事をしていると、キッチンにやって来たカイルが俺にそう進言をした。
どうやらお客さんがサンドイッチを食べ終わったらしい。
「じゃあ今度はカイルが運んでくれ」
俺はプリンをトレイに乗せてカイルに手渡した。
カイルはトレイを受け取ると、お客さんの元へと運んだ。カイルも転ぶことなく無事にお客さんの元にプリンを届けることに成功した。
「ここ、町からちょっと離れてるから来るか迷ったんだけど、来て良かったよ」
「本当ですか!? 良かったです!」
「料理の味は可もなく不可もなくだけど、店員さんの感じが良いのが加点要素だね。また気が向いたら来るよ。頑張ってね」
「ありがとうございます!」
こうしてお客さん第一号は帰っていった。
料理は可もなく不可もなくと言われてしまったが、カイルとケニーの接客は高評価のようだ。
お客さんが帰った後、俺とカイルとケニーは、三人でハイタッチをした。




