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「ここまでの意見をまとめると……まずはサンドイッチを用意する。サンドイッチの中身のバリエーションでメニューの数を多く見せる。それとデザートを用意する。これ以外のメニューの数を増やすのは、お客さんが増えて材料を無駄にしない算段が付いてから」
「うん、それが良いと思うわ。たくさんのメニューを用意すると、それだけ材料が必要になるからね。廃棄は少ないに限るわ」
「材料の問題はその通りだな。現に今日はサラダ用の野菜と豚と魚が余ってしまった」
「少しも売れてないからねー」
さすがにこの量は、俺とカイルとケニーだけでは食べきることが出来ないだろう。
オープン初日はお客さんがたくさん来ると思って、材料を多めに買ってしまったから。
「じゃあ今日は開店パーティーをしましょうよ! あたしが調理してあげる」
「確かに開店パーティーもアリか。客が来なくとも、開店初日は開店初日だからな!」
ロジーナの料理は久しぶりだ。
旅の中では、ただ焼いた肉やただ焼いた魚を食べることが多かったが、実のところロジーナは料理上手なのだ。
魔王討伐という目的がある以上、料理に時間をかけることが出来ずに素材を焼くだけで食べることが多かったが、町で否応なく足止めを食らっている間に振る舞ってくれた料理は絶品だった。
町では食堂で料理を食べることが多かったが、俺はロジーナが料理を作ると言い出してくれないかとこっそり期待をしていたものだ。
「なあ、ロジーナ。ここで料理を作るつもりはないか?」
試しに提案をしてみると、ロジーナはナイナイと顔の前で手を振った。
「馬鹿を言わないでよ。あたしはこんな小さな店で働くような人間じゃないの。もう何十人もの弟子がいるんだからね」
「弟子がいるのか!? 何十人も!?」
「そりゃそうよ。あたしは魔王を討伐した勇者パーティーの魔法使いなのよ? 弟子入り志願者が百人規模でやって来たから選抜試験を開いたくらいよ。学校じゃないんだから、百人も面倒を見きれないもの」
どうやらロジーナは王都で高名な魔法使いとして活動をしているらしい。
客の一人も来ない店を経営している俺とは違って。
「フェリックスも王都にいれば、弟子入り志願者がわらわら集まってくると思うわよー」
「嫌だよ。どうせ俺の周りに来るのは筋肉ムキムキの暑苦しいやつばっかりだろ」
「そりゃあ格闘家志望の人は筋肉ムキムキだろうね。毎日筋トレをしてるだろうからねー」
「俺は可愛いのが好きなんだよ。この二人みたいに!」
そう言って俺がカイルとケニーを指し示すと、二人は何とも言えない表情をしていた。
「どうかしたか?」
「いえ……」
「別に……」
俺から顔を背ける二人のことを不思議に思っていると、ロジーナがやれやれと肩をすくめた。
「年頃の男の子としては複雑よねー。可愛いって褒められ方をするのは」
「えっ、そうなのか? 俺は可愛いって言われたら嬉しいが」
「あんたの趣味嗜好は変わってるの。そのことを責めるつもりはないけど、自覚はしておきなさいよ」
「そうか……ごめんな、二人とも」
「いいえ。僕はフェリックスさんが楽しいなら、それで良いです」
「オレもフェリックスさんが楽しいなら、それで。良い暮らしをさせてもらってるんだから、フェリックスさんの趣味嗜好に付き合うのは妥協点だと思ってる。むしろそこの妥協だけで今の暮らしを得られるのはお釣りが来る」
俺がしょんぼりとすると、すぐにカイルとケニーが俺のことを励ましてくれた。
「二人とも大人だねー」
俺たちの様子を見て、ロジーナがくすくすと笑った。
* * *
「やっぱり閑古鳥なんだよな」
今日も今日とて誰もいない店内を見て溜息を吐く。
「考えてみたら、メニューは店に入った後の話だった。集客はメニューの前の時点の話だよな」
メニューをワイルドなものからカフェ用のものに変えることは必要な措置だったが、それ以外にもこの店には何かいけない点があるはずだ。
「結局、この三日間で来店したのはロジーナさんだけでしたね」
「そうだな」
「そういえばオレ、気になってたことがあるんだけど」
「何だ、カイル?」
「ロジーナさんは勇者パーティーの一員だったって言ってたよな。それに弟子が何十人もいるって。ロジーナさんにお客さんを呼んでもらったら、店に来てくれる人がいるんじゃない?」
確かにロジーナはたくさんの弟子を持っているらしい。それに元勇者パーティーのロジーナがおすすめする店という宣伝文句があれば、店が繁盛する可能性もある。
だが、大きな問題がある。
「ロジーナが住んでるのは、ここからかなり離れた場所にある王都なんだ。だから弟子たちもきっと王都に住んでる。この店に来るやつはいないだろうな」
「そうなんですね……ところでフェリックスさんは、王都に住んでいる元勇者パーティーの魔法使いであるロジーナさんとどうやって知り合ったんですか?」
「えっ!?」
どう説明をすればいいのだろう。
俺がロジーナと同じ勇者パーティーに所属していたことは隠したいし…………そうだ!
「俺、昔は王都に住んでたんだよ。ロジーナとはそこで仲良くなったんだ。えっと、近所に住んでた、とかで?」
「わあ、王都に住んでいたなんて、フェリックスさんは都会人だったんですね! すごいです! 王都にはオシャレな人が多いんでしょう!?」
「あー、えっと、そうかもな」
正直なところ、俺が王都に滞在していた期間は短い。
俺はもともと村生まれで、王都には勇者パーティー選抜のときと魔王討伐後の凱旋パレードの期間中にいただけだ。
思い返せば、俺は嫌だと言ったのに父親に無理やり勇者パーティー選抜で王都に連れて来られたのが運の尽きだった。
あのときもっと抵抗をしていれば……いいや、抵抗をしていたら店を買うような大金を得ることは出来なかっただろうから、結果オーライかもしれない。




