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眼鏡を手に入れたケニーは、それはそれはテキパキと仕事をこなしてくれた。
そのテキパキ具合は、俺よりもカイルを驚かせたようだった。
カイルはケニーの世話を焼けなくなって少し寂しそうにも見えたが、ケニー自身が嬉しそうにしているためそのことは口にしなかった。
「カイル君、ヘッドドレスがズレてますよ」
「マジ? じゃあこんな感じでどう?」
「はい、直りました!」
「うんうん。ピンクのカーテンに白いテーブルクロス。そして可愛い男の娘!」
フリフリの制服を着たカイルとケニーを見て、俺は満足気に微笑んだ。
「……この格好、変じゃないですか?」
「変じゃない! 最高だ!!」
「最高……この格好が、ですか?」
「無駄だ、ケニー。フェリックスさんの感覚は人と違う」
そう言ってカイルが首を横に振った。
まだカイルもケニーも男の娘の良さを理解していないようだが、じきに分かるはずだ。そのときを楽しみにしよう。
「さあ、いよいよ男の娘カフェの開店だ!!」
俺は店にかけていた『準備中』の札を『営業中』に裏返した。
「……誰も来ないな」
「誰も来ませんね」
「客はゼロ人だな」
意気揚々と開店したは良いものの、何時間経っても客が一人も来ない。
「こんなに可愛い店なのに! こんなに可愛い店員なのに! なぜだ!?」
悔しい。どうしてこんなにも可愛いものの揃った店に一人の客も来ないんだ!?
俺が悔しみの雄叫びを上げようとしたそのとき、店のドアが開いた。
「「「いらっしゃいませ!!」」」
「いらっしゃったわよー!」
「……なんだ、ロジーナか」
来店した人物を見て、俺のテンションは一気に下降した。
「なんだとは失礼ね!? あたしがどんだけあんたに協力したと思ってるわけー?」
ロジーナは元勇者パーティーの中で唯一俺の趣味嗜好を知っている人物だ。
そしてフリフリの制服を作ってくれた人物でもある。
「そろそろ従業員も決まっただろうし、制服の微調整をしようと思ってこんな寂れた場所まで来てあげたのよーー?」
「それはありがたい。ロジーナ様が来るのを待ってたんだ。よろしく頼む、ロジーナ様」
「変わり身早っ!?」
一目で俺の知り合いだと分かる振る舞いをしているロジーナに、カイルとケニーは接客をするべきか否か迷っているようだった。そのためロジーナに接客をする必要はない、とジェスチャーで二人に伝えた。
「まあいいわー。で、この二人が従業員ね!? かんわいーい! でもやっぱり制服のサイズが若干合ってないわね」
困惑するカイルとケニーを見て、さらに店の中を見てから、ロジーナは俺のことを見た。
「今日って定休日? 今から制服の微調整をしてもいい?」
「定休日に制服を着てるわけがないだろ。営業中だよ、営業中」
「営業中……お客さんがいないじゃない」
それを言われると辛い。
しかしこれでもれっきとした営業中の状態なのだ。
「営業中とはいえ、一人ずつなら制服の微調整をしても構わないでしょ? 客が来たとして、従業員が一人いれば問題無いはずよ」
「そりゃあ一人いれば問題無いな。この状態なら」
ロジーナはカイルに近付くと、懐から針を取り出した。
針という鋭利なものの登場にカイルがぎょっとしていたため、俺から二人にレジーナの説明をする。
「この人は俺の知り合いで、今お前たちが着てる制服を作ってくれた人だ。お前たちの体格に合わせて制服を微調整してくれるそうだ」
「本当は従業員の採寸をしてから制服を作りたかったのに、この馬鹿が先に制服を作ってくれって聞かなかったのよ、まったくもう」
「悪かったって。早く見たかったんだよ、ロジーナの作る可愛い制服が!」
「服を褒めればあたしが許すと思ってるんでしょ!?」
そうは言いつつもロジーナの顔はニヤけている。ロジーナとしても良い出来の制服だったのだろう。
「ってことだから、まずはカイルが休憩がてらロジーナに協力してくれ」
カイルが素直に頷き、ロジーナの隣に立った。
「ロジーナ。二階の一番手前の部屋は空き部屋だから、好きに使っていいぞ」
「りょうかーい!」
階段を上って行くロジーナとカイルを見ながら、俺とケニーは誰もいないカフェに残ってひたすら客が来るのを待つのだった。
「よーし! 制服の微調整、終わり! ……って、まだお客さん来てないの?」
二人分の制服の微調整を終えたロジーナが、店内を見渡して苦笑した。
「なあ、ロジーナはどうしてこの店に客が来ないんだと思う? こんなに可愛いのに」
「そんなことを聞かれても、あたしはカフェを経営したことなんてないからなー。うーん……メニューはどんな感じ?」
「焼いた肉と焼いた魚とサラダ」
俺の言葉を聞いたロジーナが、額に手を当てて大きな溜息を吐いた。
「サラダはともかく、焼いた肉と焼いた魚って何なのよ。どうせサラダも、レタス丸々一個むしっただけとかなんでしょ!?」
「ロジーナも旅の間によく食べてただろ」
「旅の間は、ね。でもカフェで出すメニューじゃないでしょ!?」
「……ああーーーっ!!」
俺は元日本人なのに、この世界での旅生活が長すぎたせいですっかり忘れていた。
カフェでは、旅の間に食べるようなワイルドな料理は出てこないのだ。
「うっかりしてた。カフェってサンドイッチとかの軽い食事をする場所だったな……」
「うっかりしすぎでしょ。可愛いコンセプトの店で豚の丸焼きが出てきたらぎょっとするわよ」
確かに。そして今日は豚の丸焼きを用意していた。
あやうく客にぎょっとされるところだった。
セーフ。今日のところは店に客が来なくて良かったかもしれない。
「せっかく来たことだし、服を直したついでにメニュー考案もしていこうかなー」
「助かる! 男の意見だけじゃなくて女性が食べたいメニューも用意したいから。カイルとケニーも意見を出してくれると嬉しい。いろんな意見が欲しいんだ」
俺たちはうんうんと頭を捻りながら、メニューを考え始めた。
しかしカイルとケニーはこれまで良いものを食べてこなかったらしく、カフェに相応しいメニューの案を出すことが出来ないようだった。
これからは二人にこれまでの分を取り戻すくらい良いものを食べさせてあげよう。貴族の食べるような料理は無理だが、少なくとも普通の飲食店で食べるような物くらいは。




