●35
「観念しろ! あたしの新作魔法の邪魔をする悪党め!」
ロジーナが詐欺師と奴隷商に杖を向けながらアジトに突入した。
詐欺師と奴隷商は、まずアジトに乗り込んできた俺たちに驚き、続いて身に覚えのない罪状にさらに驚いていた。
「ロジーナ、私怨が前に出すぎ」
「えっと、じゃあ……子どもを寝込ませて金を吸い取る悪党め!」
「そう、それ」
すると固まったまま俺たちのことを見ていた詐欺師と奴隷商は、自身の罪が俺たちにバレていることを知るや否や臨戦態勢を取ってきた。
詐欺師は魔法の杖を俺たちに向け、奴隷商は短剣を手にしている。
「じゃあロジーナ、手分けして……」
「あたしが二人まとめて相手してやるわ!!」
そう言うなりロジーナが杖から魔法を放った。
ロジーナの放った魔法は、即座に男たちの武器を吹き飛ばした。
男たちが急いで落ちた武器を拾おうとするが、それを許すロジーナではない。
ロジーナが杖をひと振りすると、小屋の屋根から木材が剥がれ落ち、剥がれ落ちた木材が男たちの手足を縫うようにして壁にめり込み、男たちを磔にした。
「木材をちょっといじるのは、家をめちゃくちゃに破壊したとは言えないわよねー?」
「ちょっと……屋根が剥がれ落ちてるんだが……まあロジーナにしたらちょっとか」
ロジーナは約束を破っていないことを俺に確認させた後、にっこりと笑った。
「暴れたかったのに、相手が弱すぎて一瞬で決着がついちゃった。消化不良だから別のことでストレス解消しよっかな。ねえ、フェリックス。小屋に隠されてる証拠を魔法で見つけるのも良いけど、彼らを拷問して聞き出すのも良いと思わなーい?」
いやいや。そんな「このブラウスにあわせるスカートは、赤も良いけど青も良いと思わなーい?」みたいなテンションで聞かれても。
「ロジーナが拷問する間、俺は外で待ってても良いか? 俺、そういうの好きじゃないんだよ。触り程度なら見れるが、エグいのが始まったらもうダメだ」
「変わってないわねー、フェリックスは。やっぱりフェリックスには、可愛い男の娘に囲まれてカフェをやってるのが似合ってるわ。王都になんて来ないで、のんびりカフェを経営してて。これは皮肉じゃないわよ?」
可愛いものが好きな俺は、血生臭いものが好きではない。
魔王討伐の旅は仕事だから仕方なく従っていたが、天職は男の娘カフェの店長の方だ。
「王都では血生臭い事件が多いのか?」
「そりゃあ人が多いから事件も多いわねー。この町みたいに平和じゃない……って、この町の平和を壊してた悪党が目の前にいるんだけどー」
ロジーナが壁に張り付けにされている男たちを見た。
ロジーナに見つめられた男たちの喉から、ヒュッと息を飲む音が聞こえてくる。
男たちは一瞬でロジーナとの力の差を感じ、これから行なわれる拷問に怯えているのだろう。
「……殺すなよ?」
「分かってるってー」
「拷問が目的じゃなくて、証拠を出させることが目的だからな? 拷問はその方法だぞ?」
「分かってるってばー」
ロジーナは手に持った杖をくるくると回しながら、俺に向かって可愛くウインクをした。
「あたしは拷問のプロよ? 相手を死なせないギリギリはわきまえてるわ」
正直ロジーナは見た目だけなら小さくて可愛い。しかし性格がまるで可愛くない。
今のロジーナの姿は、カフェの男の娘たちにはとても見せられない。ダイアナに見せた日には泡を吹いて倒れてしまいそうだ。
「まずは定番の爪剥がしから始めよっか。この小屋に爪を剥がせるような道具は無いけど、なんとあたしは爪剥がしの魔法が使えちゃうんだー。もちろん爪剥がしの魔法の考案者は、あ・た・し」
そう言って微笑んだロジーナが、何の躊躇もなく魔法で男たちの爪を一枚ずつ剥いだ。
「うああああっ!!」
「ぎゃあああーー!!」
「大袈裟ねー。たかが爪の一枚じゃない。悪党なら、爪を剥がされる痛みくらい真顔で耐えてみなさいよ」
楽しそうに口角を上げているロジーナは、早くも目的を忘れているようだ。
俺は遠慮がちにロジーナの肩を叩くと、目的を思い出させることにした。
「ロジーナ。そういうのは、情報を吐かなかった場合にやるものだと思うぞ。今あいつらに、証拠になる品がどこにあるのか、聞きもしなかっただろ」
「あっ、忘れてた。久しぶりの戦闘だからつい」
「戦闘は開始五秒で終わってるだろ。まったく。いつもは可愛いのに血生臭い案件になった途端にこうなんだから」
「わあ、ありがとうフェリックス。可愛いものに敏感なフェリックスに可愛い認定されるのは、素直に嬉しい!」
「いつもは、だってば。今のロジーナは少しも可愛くないぞ」
俺は男たちに近付くと、ロジーナの代わりに男たちに質問をした。
「子どもたちを魔法で寝込ませて、医者のフリをして金品を巻き上げた証拠を出せ。あとそっちのお前は、さらってきた人間を奴隷として売ってた証拠も、な」
「偉そうに。自分だって奴隷を買ってたくせ、にいいいっ!?」
突如として、奴隷商の顔が歪んだ。
すぐに原因に気付いた俺は、振り返ってロジーナを見る。
「ロジーナ、会話中だぞ」
「ごめーん。生意気な口をきいてたから、ついついもう一枚剥いじゃった。てへっ」
「そんな凶悪な『てへっ』があるかよ……」
「だってそいつ、ムカつくんだもーん。いっそ上唇と下唇を縫っちゃう?」
「縫ったら、いよいよ情報を吐けなくなるだろ」
「この小屋に隠した証拠の在り処くらい、顔の動きだけで分かるんじゃなーい?」
俺たちがそんな会話をしていると、不穏なやりとりを聞いて抵抗する気を完全に失ったのだろう詐欺師が、震えた声を出した。
「詐欺の証拠、全部渡します。だから助けてください」
「はあ!?」
詐欺師の態度に反応したのは奴隷商だ。彼はまだ完全には心を折っていないらしい。
「だ、だって、考えてもみてよ。詐欺の容疑で捕まったとしても、こんな拷問は受けないはずだよ!?」
この詐欺師は詐欺だけではなく、子どもに魔法を掛けた罪でも裁かれる。
確かに禁固刑でも極刑でも、拷問を受けることはないだろうが。
「俺たちは何もやってねえ。やってねえんだから捕まることもねえんだよ!」
「そんな言葉をこの異常者たちが信じてくれるわけがないでしょう!? 僕は降りさせてもらうよ」
「ねえ、フェリックス。異常者って言われてるよー?」
「俺じゃなくてロジーナのことを言ってるんだろ」
「両方ですよ!? 嬉々として拷問をするのもおかしいですし、その様子をいつものことか程度の顔で見てるのも異常です!」
まさか詐欺師に異常者扱いをされる日が来るなんて。
異常なのはロジーナだけなのに。




