●34
「まさか連絡した翌日に来るとは思わなかった。おかげで店は臨時休業だ」
ロジーナに詐欺師の医者と共犯の奴隷商のアジトを見つけたと報告をした俺は、報告の翌日にはロジーナとともにアジトに乗り込むことになった。
詐欺師の医者……いや、ただの詐欺師か。
その詐欺師のせいで寝込んでいる子どもがいることを考えると早く動くに越したことはないのだが、あまりにも動きが早い。
「フェリックスがいないと店が回らないのは問題よ。そろそろ調理スタッフを雇いなさいよねー?」
「ごもっともです」
これから悪党のアジトに乗り込むと言うのに、俺たちの間にはまるで緊張感が無い。
それもそのはず。町の小悪党など、魔王討伐の旅をしてきた俺たちにとっては、アリを踏み潰すような感覚なのだ。
「ねえ、まだアジトに着かないのー?」
「我慢してくれ。森の中にあるから、歩くしかないんだ」
「森じゃなければ、空を飛んでビューンって着いたのにー」
ロジーナが文句を垂れながら歩いている。
ロジーナは魔王討伐の旅の間、力仕事は全面的に拒否していたものの、自力で歩くことだけはしてくれていた。そのためロジーナは意外と健脚なのだ。
「あっ、ようやくアジトの登場だ」
喋りながら歩いていると、昨日見つけたボロ小屋が見えてきた。
「どれどれ。ふーん。もっと怪しい建物を想像してたんだけど、ただの粗末な小屋ね」
「怪しかったらすぐにアジトだってバレちゃうだろ」
「それもそっか。じゃああたしは念のためアジトの周りに逃走防止用の魔法を掛けるから、ちょっと待ってて」
アジトの前に着いたロジーナは、何やら複雑な呪文を唱えた。
するとアジトの周りに、筒状の透明な塀のようなものが出現した。
「これ、あたしが生み出した魔法なの。便利でしょー? 防音効果もあるからこうやって塀の外で会話も出来ちゃうの」
「便利だが、悪用されたら危険なんじゃないのか? 監禁に使われたりさ」
「その辺は心配ご無用。塀の継ぎ目が一箇所あって、そこから左右に開くようになってるの。雨戸みたいな感じにね。鍵は閉められない仕様よ」
「鍵は掛かってないが、初見では継ぎ目が見つけられずにすぐには出られないってことか」
「これならたとえ監禁されたとしても、自力で脱出できるでしょ? 悪事に使用できないようにちゃんと考えたんだから!」
そう言ってロジーナが誇らしげにしているが、いろいろと問題のある魔法の気がする。
「この塀って継ぎ目から開けない限りは密閉空間なんだよな? 殺人に利用されそうじゃないか?」
「その辺のことも考えて、天井は作ってないわ。天井があったら酸素が無くなって死んじゃう恐れがあるからねー」
「それだけじゃなくて、殺したい相手を中に閉じ込めて火を放ったら……そして犯人が扉を押さえてたら……」
「うわあ。フェリックス、嫌な想像をするわね」
ロジーナが惨状を想像したのか、顔をしかめた。そして大きな溜息を吐く。
「この魔法は公開しないで、あたしだけが使うことにするわ」
「その方が良いと思う。悪いやつらは、どんなに便利なものも悪事に活用するからな」
「はあ。悪いやつらがいなかったら、悪いやつらのことを考えずにどんどん新作の魔法を公開できるのに。何だか悪者に対する怒りが増してきたわ。大暴れしちゃおうかな」
それは本当にそう。
悪いやつらがいなかったら、世界はもっと繁栄しているに違いない。
しかし実際には悪いやつらがいるから、悪用されそうなものは軽率に作ることが出来ないのだ。
「暴れるのは構わないが、炎魔法だけは使わないでくれよ。塀の中が大変なことになりそうだから」
「大丈夫。炎魔法以外にも、悪者を懲らしめる魔法は大量にあるから」
俺は旅の中で見たロジーナの凶悪な魔法を思い出して身震いをした。
「分かってると思うが、あいつらが悪事を働いた証拠を確保しないといけないから、家をめちゃくちゃに破壊するのはナシだぞ」
「まったく。制約が多いわねー」
「制約と言うほどのものじゃないだろ。家を破壊するなって言うのは」
ロジーナは機嫌を損ねた様子で頬に空気を溜めている。
……あまりにもロジーナがやりすぎるようだったら、俺がストッパーになる必要があるかもしれない。
悪者を助けるのは癪だが、ロジーナを前科者にするわけにはいかないから仕方がない。




