●33
その後エヴァンに例の医者が家に来る日を教えてもらい、俺はエヴァンの家から帰る医者の後をつけることにした。
なおエヴァンとエヴァンの家族には居留守を使ってもらった。魔法を掛けたはずのエヴァンの妹・エイプリルが元気になっているところを見られたくなかったからだ。
エヴァンの話によると、今のエイプリルは病気のフリをするにしても血色が良すぎるらしい。無事に回復したようで良かったが、病気のフリをするには向かない状態ではある。
そのため「医者の来訪日を忘れてエイプリル以外は仕事に出ている。そしてエイプリルは寝込んでいて対応できない」という設定にしてもらったのだ。
病気のエイプリルを置いて仕事に行くのは多少違和感があるかもしれないが、この家の状態と併せて考えて、薬代を捻出するために仕事を増やしたと思ってもらえるに違いない。
「こんにちは。エイプリルさんの状態を確認に来ました」
医者らしき男が、エヴァンの家に向かって何度も呼びかけている。しかし応答は無い。
あとから聞いた話だが。どうしてこの医者を頼ることになったのかと言うと、エイプリルが倒れて焦っていたところに偶然この医者が通りかかったから、とのことだった。
うん、胡散臭いことこの上ない。
しばらく医者らしき男を尾行していると、男は森の中にある粗雑な小屋の中に入っていった。
小屋にある窓はふさがれており、窓から中の様子を窺うことは出来ない。
そのため俺は窓からではなく、小屋の隙間を探すことにした。こういった粗雑な作りの小屋は、板と板の間に隙間が出来ていることが多いからだ。
そうして小屋を確認し、無事に隙間を見つけた俺は、隙間から小屋の中を覗いてみた。
すると小屋の中では二人の男が椅子に座っていた。
「医者って儲かるなあ」
「医療行為なんて出来ねえくせに」
「そりゃあ僕は医者じゃなくて魔法使いだからね。渡した薬で症状が良くなったように見せかけてるけど、魔法を使って一時的に症状を緩和してるだけだよ。魔法を掛けたのは僕だから、そういった小細工をするのは簡単なのさ」
「じゃあ、あの薬は何なんだ?」
「野菜の屑を乾燥させて粉にしたものだよ。飲んでも何の効果も無い」
「ふーん。それにしても、最初からこうやって適当な子どもを魔法で寝込ませて稼げば良かったぜ。この方法なら、奴隷みたいに捕まえてきたり、飯を与えなくてもいいんだからな」
奴隷という単語を聞いて、ハッとした。
会話をしている男の片方は、あのときとは口調こそ違うが、カイルとケニーをかび臭い倉庫に閉じ込めていた奴隷商だ。
「でも君、奴隷商も続けてるんだろ?」
「お前が分け前を多めに持って行くからだろ!?」
「そりゃあこの詐欺の要は魔法使いの僕だからね。嫌なら君は降りても良いんだよ? 僕だけでもこの詐欺は続けられるからね」
「一人になりがちな子どもを探してきてるのは俺なんだぞ!?」
「だから君にも分け前を与えてるじゃないか。だけど子どもはもっと選別してほしいものだよ。貧乏な家から搾り取れる金なんてたかが知れてるんだから」
「そんなことまで調べてたら、俺の働きと報酬が合わねえんだよ!」
男たちは会話に夢中で、俺が隙間から覗いていることにはまったく気づいていない。
なお隙間から小屋の中を覗いている俺は第三者から見たらものすごく怪しい人物だが、この小屋が人目に付かない森の中にあるため、まず誰かに見つかることはないだろう。
きっと人目に付かないからこそ、彼らはこの小屋をアジトにしているのだ。
それにしても。
「詐欺師の医者が奴隷商と繋がってたとはな。奴隷商のことはどうにかしないといけないと思ってたから、勇者まかせにしてないで、この機会に俺が叩いた方が良いな」
だが今ここで俺が突入しても、この場であいつらのことは倒せるが、証拠が足りずに捕まえてもすぐに釈放されてしまう。
「……ロジーナに協力を頼むか。暴れたいって言ってたし」
ロジーナの記録魔法を使って彼らの会話を記録すれば、多少の証拠にはなるだろう。
それに魔法を使ってアジトに隠されているだろう被害者リストを見つけ出すことが出来れば、さらなる証拠が得られる。
……つくづく魔法って便利だな。
せっかく異世界転生をしたのだから、俺も魔法使いに生まれたかった。
まあ贅沢を言っていたらキリがない。異世界転生できただけで儲けものだ。俺は俺に出来ることをしよう。




