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「フェリックスって、あたしのことを便利屋だと思ってなーい?」
「思ってないって。ほら、ロジーナの都合に合わせて今日行くことにしただろ?」
「呼び出す以上、それは最低限の礼儀よ。さ・い・て・い・げ・ん。分かる? フェリックスは最低限のことしかしてないのよ?」
お見舞いに同行させたい人物ことロジーナを連れて、俺たちはエヴァンの家へと向かっていた。
だが、今日のロジーナはとても不機嫌そうだ。
「忙しいって言ってるのに、あたしをこんな田舎に呼び出すなんて。あたしの無駄遣いは社会的損失だわ!」
「どうしたんだよ。今日はやけにツンツンしてるな」
「いろいろあるのよ、魔法使いにも! 魔法使いたちが力持ちじゃないって分かってるくせに力仕事を押し付けやがって、あの古狸がッ!」
どうやら王都で、ロジーナに力仕事を押し付けた人物がいるらしい。
ロジーナの機嫌を損ねたら魔法で何をされるか分からないのに、恐れ知らずな人もいたものだ。
「でも力仕事は弟子がやってくれてるんだろ? ロジーナは力仕事がからっきしだから」
ロジーナは女性の中でも小柄で、手足が細くて、少し力を加えたらすぐにでも折れてしまいそうなほどなのだ。
魔王討伐の旅でも、ロジーナは一切の力仕事を拒否することを、パーティーを組んだときに宣言していた。
勇者パーティーの中には勇者も俺もいたから、ロジーナ自身が拒否しなくても自然と俺たちが力仕事をする係になっていたとは思うが。
「あたしの弟子たちも力持ちじゃないの。全員、魔法使いなんだから。きっと今頃あたしの悪口を言ってるわよ。師匠は力仕事から逃げるために田舎へ出かけた、って」
「でもここへ来なくても、ロジーナは力仕事なんてしないだろ?」
「もちろんしないわよ。でも呼び出されなかったら、わざわざこんな田舎に来ることもなかったわ。その場合、師匠は正々堂々と力仕事をしない、って言われてたでしょうね。逃げたと思われるよりはずっとマシだわ!」
その感覚は、俺にはよく分からないが……。
一つ言えるのは。
「ロジーナ、『こんな田舎』によく来てるじゃないか」
「自分から来るのはいいの! 呼び出されたってのが気に食わないのよ! 古狸だけじゃなくてフェリックスまであたしのことを便利に扱おうとして!」
ああ、今日のロジーナはとことん虫の居所が悪いようだ。
こういうときのロジーナにはひたすら下手に出るに限る。そのことは魔王討伐の旅で学んだ。
「ごめん、ロジーナ様。忙しいのに呼び出して悪かったよ。謝るから機嫌を直してくれ。な?」
俺はロジーナに向かって手を合わせながら、ペコペコと頭を下げた。
「どうしてもロジーナ様の力が必要だったんだよ。俺だと病気と魔法の区別が付かないから。俺にはロジーナ様のような魔法を視る目が備わってないんだ。これは、ロジーナ様のような天才じゃないと解決できない問題かもしれないんだよ」
「……フェリックスが天才魔法使いのあたしを頼りたくなる気持ちは分からなくもないけどさー」
よし、ロジーナの機嫌が少し良くなった。畳みかけよう。
「いつもありがとうございます、ロジーナ様。ロジーナ様がいなかったら、俺は今頃、店を開店することが出来ずに野垂れ死んでたよ。ロジーナ様、最高! ロジーナ様、万歳!!」
「そう。フェリックスがあたしに感謝してることは分かったわ。とはいえ、これから視に行く子がただの病気だったらすぐに帰るからね、あたしは」
「それで構わない。病気を治せとまでは言わないよ」
「治せって言われても治せないからねー。病気の回復はあたしの専門外。外傷を治癒魔法で治療する程度なら出来るけど、そうじゃないものはルシアに頼んでよね」
ルシアは勇者パーティーに所属していた回復術師の女性だ。彼女は回復分野に特化しており、怪我だけではなく病気まで回復させてしまう医者泣かせの人物なのだ。
しかしいくらルシアが驚異的な回復術師だとしても、一瞬で病気を治すことは出来ない。毎日少しずつ病気を取り除くのだ。
そのため王都にいるルシアのもとには毎日多くの患者が通い詰めているらしい。
せっかく魔王討伐の報酬で大金をもらったのに、ルシアはそのすべてを各地の病院に寄付して、自身は毎日働き続けている。そういった清らかな心の持ち主でなければそもそも強力な回復術師にはなれないそうだが、難儀な性格だ。
「今日は、魔法と病気のどっちなのかが分かるだけで十分だ。まずは治療方法が知りたいから」
「はいはい。それで今から行くのはその子の家? その子、フェリックスの店の従業員よね。なんて名前だっけ?」
ここまで黙って自宅までの道を先導していたエヴァンが、ロジーナに頭を下げた。先程からちょこちょこロジーナに挨拶をするタイミングを計っていたが、ロジーナの虫の居所が悪すぎて挨拶をすることが出来なかったのだろう。
「お久しぶりです、ロジーナさん。エヴァンです。寝込んでるのは俺の妹なんです。あの、エイプリル……妹は、病気じゃねえ可能性があるんですか?」
「視てみないことには分からないわ。逆を言えば、あたしの目で視れば分かる。もしも魔法を掛けられたせいで寝込んでるなら、薬を飲んでも根本からの解決にはならないから、あたしが呼ばれたってわけ」
「エイ……妹をよろしくお願いします!」
「安心して。来たからにはちゃんと視るつもりだから。天才魔法使いに視てもらえるんだから、感謝してよねー」
機嫌が良くなった様子のロジーナを見て、俺とエヴァンはホッと胸を撫で下ろした。
誰だか知らないが、ロジーナに力仕事を押し付けた古狸とやらが、足の小指をぶつけて痛い思いをしますように。




