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「親公認のアルバイトとはいえ、貴族の令嬢も忙しいんだな。稽古がたくさんあるからって理由で、勤務日は増やしてもらえなかった……」
俺は独り言を呟きながら、今日一日でたまりにたまった洗い物を眺めた。
ダイアナがいない日に洗い物をためても平気なように皿やグラスを買い足したため営業中は問題ないのだが、営業後に大量の洗い物を片付けなければならない。
さらに最近のダイアナは、サラダを盛り付けたりパンケーキのシロップを用意したりと、簡単な調理補助もしてくれるから、より一層ダイアナがいない日との仕事量の差が明確になっている。
だからダイアナのいる日よりも疲れた後に、ダイアナのいる日には無い大量の洗い物をすることが、憂鬱で仕方がない。
「洗い物の前に少しだけ休もう。少しだけ、少しだけ……」
「店長、お願いです! 給料を前借りさせてください!!」
懇願する声にハッとして振り返ると、いつの間にかキッチンにやって来ていたエヴァンが、俺に向かって深々と頭を下げていた。
給料の前借りか。この店はカツカツな財務状況で営業しているわけでもないから可能ではある。
ただしエヴァンの雇用主として、前借りの理由は聞いておかなければならない。しっかりしているとは言え、まだエヴァンは子どもだ。何らかのトラブルに巻き込まれている可能性もある。
「お願いします、店長! 全額がダメなら半分だけでも、どうか!」
「そうだな。エヴァンはよく働いてくれてるから前借りは構わない。だが、前借りをしたい理由は聞かせてくれないか?」
「それは……」
「もしも誰かに金品を要求されてるようなら、雇い主として見過ごせない。エヴァンを働かせて給料を横取りするような行為は俺が許さない」
「そういうのじゃねえんです。そういうのじゃなくて……」
「そういうのじゃなくて?」
エヴァンは意を決したように息を吸い込むと、悲壮感のあふれる声で、すぐにお金が欲しい理由を告げた。
「妹が病気で、薬代が必要なんです」
「エヴァンの妹、か」
前にエヴァンの家は貧乏だと言っていた。きっと日々生活することがやっとで、薬代に回す金が足りないのだろう。
「妹さんは重い病気なのか?」
「詳しい病名は分からねえですが、ずっと寝込んでて、薬が必要で……医者の先生に診てもらったんですが、薬を飲み続けるしかねえって言われて。でも先生に払った診察代と薬代でうちにある金が尽きてしまって、今ある薬が無くなったら次の薬が買えねえんです。しかも一般流通してねえ薬らしく、高くてもあの先生から買うしかねえんです」
「妹さんは昔から病気持ちだったのか?」
「いえ、この前までは元気いっぱいでした。でも先週、家の近くで倒れてて、それからずっと起き上がることも出来なくて……」
子どもは突発的な病気にかかることもある。原因不明の突然死をすることもある。
だが問題は、ここが「魔法の存在する世界」だという点だ。
魔法を使うことで、相手を寝込ませることも可能なのだ。
エヴァンの妹の症状が魔法によるものなのかは分からないが、エヴァンの話を聞く限り、極めてきな臭い。
「なあ、エヴァン。エヴァンの妹さんのお見舞いがしたいから、エヴァンの家に行かせてくれないか?」
「店長が?」
俺が会ったこともないエヴァンの妹のお見舞いをしたいと言ったことに対して、エヴァンは疑問を感じているようだった。
しかし妹が病気ではないかもしれないと変に期待をさせた後に本当に病気だと判明すると、エヴァンをより一層落ち込ませてしまうため、俺は妹を見たい理由を告げないことにした。
「そうだ。見舞いに行った結果、薬が必要だと判断したら、給料前借りじゃなくて見舞い金をやろう」
「見舞い金って何ですか?」
「貸すんじゃなくて、金をあげるってことだ。ただし妹さんの見舞いには、俺だけじゃなくて同行させたい人物がいる。それでもいいなら、だが」
エヴァンは俺の申し出に一瞬顔色を明るくしてから、だんだんと気まずそうなものへと表情を変化させた。
「えっと、今のところ家族の誰にも移ってはいねえですが、家に来たら店長にも妹の病気が移る可能性があります。一応、医者の先生は伝染病じゃねえとは言ってますが……」
「大丈夫。移ったら自己責任と思っておくから」
「それならいいんですが……いつ来れますか?」
「ちょっと待ってくれ。あいつの予定を確認するから」
俺は大量の洗い物を放置して、目的の人物に繋がる通信鏡を取りに行くために自室へと向かった。
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