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魔王を倒したので、男の娘カフェを経営します!  作者: 竹間単
【第五章】 ダイアナの事情

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 案内された応接室で、マーシャル子爵とダイアナを待つ。

 ダイアナの暮らす子爵邸は、貴族の屋敷だけあってとても広かった。今、俺が座っているソファもふかふかだ。ふかふかすぎて身体がめり込んでいる気もするが、それも含めて高級なソファに座っている気分に浸れてとても良い。


 俺がソファの柔らかさに感動していると、ダイアナが勢いよく応接室に入ってきた。


「フェリックスさん! 来てくださったのですね!」


「ダイアナ、はしたないぞ。もっと優雅に歩きなさい」


 ダイアナの後ろからマーシャル子爵がやって来た。マーシャル子爵を追い抜いて入ってくるとは、この前も思ったが、ダイアナはマーシャル子爵から溺愛されており、かなり甘やかされているらしい。


「そこのお前。ここに来たからには、それなりの覚悟があってのことだろうな?」


「はい」


 俺がしてきたのは、ダイアナと交際する覚悟ではなく、ダイアナの外出禁止を解く覚悟だが。

 しかしこの場で交際の話を出さないのは印象が悪いだろう。マーシャル子爵はダイアナが俺と交際していると思い込んでいるのだから。


「このたびはダイアナ嬢の自宅謹慎を解いていただきたく……俺との交際を認めていただきたく、参りました」


 俺はマーシャル子爵の勘違いを訂正することはせずに切り出した。訂正するとまた面倒くさい話になりそうだからだ。


「ダイアナはわしの決めた相手と結婚させる。お前のような、店で働く凡人とではなく。この前は勢いでデパートの経営者なら可のようなことを言ってしまったが、デパートの経営者であろうと、商人などにダイアナはやらん。商人風情ではダイアナを幸せにすることも、ダイアナを守ることも出来んからな!」


 マーシャル子爵はそう言って鼻を鳴らした。


「お父様。わたくし、あの方との結婚は嫌ですわ」


「ダイアナは黙っていなさい。わしは今、この男と話をしているのだ」


「フェリックスさん……」


 ダイアナが救いを求めるような目で俺のことを見た。

 ダイアナ的には外出禁止を解くだけではなく、マーシャル子爵の決めた相手との婚約話も壊してほしいのだろう。

 ……うーん。さすがにそこまでは難しい気がする。だって俺はしがない男の娘カフェの店長だ。マーシャル子爵が溺愛する娘の交際相手として認めるとは思えない。

 だから俺は、俺に出来る最善をしよう。その結果がダイアナの期待に添えなかった場合は……ごめん!


「マーシャル子爵。ダイアナ嬢の自宅謹慎だけでも考え直してはいただけませんか? 年頃の令嬢に外出禁止は少々厳しいのではないかと」


「その辺の家でなら、な。この屋敷にはすべてが揃っている。外出せずとも不便を感じることはない。屋敷の中で幸せに暮らすことが出来る」


 屋敷の規模を見る限り、マーシャル子爵の言葉は事実だろう。

 しかしすべてが揃っているからと言って、本人が幸せとは限らない。

 ダイアナは、自分が何も出来ない箱入り娘であることに引け目を感じていた。何も出来ない自分から脱却したいと考えていた。そしてそれは、ダイアナに何もさせないことが徹底されているこの屋敷の中では、果たすことの出来ない望みだ。


「マーシャル子爵。ダイアナ嬢は、現在出来ることを増やそうとしてる最中です。いわば飛び立とうとしてる雛です。彼女の成長を見守ってはもらえませんか?」


「ふん。ダイアナが成長したいと思っていたとして、下働きのような真似をする必要はない。出来ることを増やしたいのなら、未来の夫の補佐が出来るように、領地経営の術を学んだ方がずっといい!」


「おそれながら申し上げます、マーシャル子爵。領地で暮らしてる多くは、子爵の言う『下働き』をしてる者たちです。彼らの仕事を学び、経験することは、決して無駄にはなりません。その経験は領地を治める上で、とても重要なものだからです。民のことを見ない領主の治める領地は、決して繁栄しません」


「分かったようなことを言うでない! 珍妙な飲食店の店主風情が!」


 分かったようなこと、ではない。

 俺は旅の中で、多くの領主と領地を実際に見てきた。一人や二人ではない。様々な国の様々な領主を、だ。それゆえに領地を見ればどのような領主が治めているのか大体予想が出来てしまうくらいだ。


「俺は、今はしがない店長ですが、カフェの経営を始める前は旅をしてました。そのため旅の中で多くの領主を見てきたんです。そして民のことを考えない領主が、その領地が、どうなったのかも」


「…………」


 マーシャル子爵の顔が険しくなった。貴族同士のコミュニティでそういった話を聞く機会もあるのだろう。


「……しかし。だからと言って、ダイアナを飲食店で働かせるのは危険すぎる。ダイアナはこの通り、世間知らずの箱入り娘だ。客商売で変な虫が付いたらどうしてくれる!?」


「それに関しましては、ダイアナ嬢はキッチン担当のため客の前に出ることはありません。それでも、もしもダイアナ嬢を狙う悪い虫が現れた場合は、俺が全力でダイアナ嬢を守ります!」


「フェリックスさん……!」


 マーシャル子爵と俺のやりとりをハラハラした顔をしながら見守っていたダイアナが、希望に満ちた声を出した。


「ふん。口では何とでも言える。お前如きに、本当にダイアナが守れるのか!?」


「はい。絶対にお守りします!」


「いいだろう。そこまで言うのなら、その実力を見せてもらおう。うちの護衛と警備兵たちを全員倒したら、ダイアナとの交際を認めてやってもいい! 全員を倒せるものならな!」


「えっ、いや、俺はダイアナ嬢に店に戻ってきてほしいだけで、ええー……」




 訳も分からないうちに庭へと連れ出され、ズラリと並んだ屈強な男たちと戦わされてしまった。

 なお男たちが剣を武器としているため、俺にも剣と盾の使用が認められた。だが俺は剣の扱いに慣れていないため、盾のみを借りることにした。本当は格闘家用のグローブがあれば良かったのだが、子爵邸にそんなものは置かれていなかった。

 俺は盾で男たちの剣を防ぎつつ、男たちの身体に拳を叩きこんだ。

 一対一の決闘形式だったが、すぐに屈強な男たち全員が地面に倒れることとなった。


「まあ! フェリックスさんは、こんなにお強かったんですのね!」


「ほう。その体格は伊達ではなかったということか」


 一人で屈強な男たちを全滅させた俺を見て、マーシャル子爵が見直したと言わんばかりの表情を浮かべている。


「分かった。約束通り、ダイアナとの交際は認めてやる。ただし、認めるのは交際までだ。婚約や結婚はまた別の話だ!」


「交際……ええと、ダイアナ嬢が店で働くことは」


「ここまでのものを見せられては、仕方がない。ダイアナに変な虫が付かないよう、お前がダイアナから目を離さないと約束するのなら、許可しよう」


「ありがとうございます、お父様!」


 マーシャル子爵の言葉を聞いたダイアナが、子爵の胸に飛び込んだ。

 嬉しそうにするダイアナのことを、マーシャル子爵が温かい目で見つめている。


「いつの間にか成長していたのだな、ダイアナ。根っからの箱入り娘が、自分から箱を飛び出そうとするなんて」


「お父様が愛情を込めて育ててくださったおかげで、わたくしは成長することが出来たのです。愛していますわ、お父様」


 ああ、なんだか父娘の良い話にまとまったな。

 ……と思ったところで、俺はマーシャル子爵がダイアナを抱きしめながら倒れた男たちを蹴っていることを見逃さなかった。

 きっと彼らにはこの後、厳しい罰と特訓が待っているのだろう。

 なんか、ごめんな?




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