●3
「うん、スッキリしたな!」
綺麗に洗われた二人は、新品の服にそわそわしながら立っている。
「普通の服だ……」
「どんな服を着せられると思ってたんだよ!?」
「口では言えないような服」
一体どんな服を想像していたのだろう。
誤解が解けて良かった。
「ええと、僕たちは何をすればいいんでしょうか」
「実はまだ店を開店する準備が整ってなくてな。その準備を手伝ってほしいと思ってる。とはいえ、今日のところは飯を食って寝よう」
俺は大量の肉を焼き、魚を焼き、サラダも用意して、それらを夕食とした。二人の歓迎会と称して、いつもの夕食よりも豪勢にしたつもりだ。
いきなりの豪勢な食事に二人は驚いたようだったが、美味しそうに食べていた。
ただこれまでの質素な食事のせいで食が細くなっていたのか、二人とも肉も魚も食べきることは出来なかったようだ。
歓迎会だと張り切らずに、もっと消化に良いものを用意するべきだったのかもしれない。
明日からは気を付けよう。
「一人部屋が良い? 二人部屋が良い?」
俺は部屋を案内しながらカイルとケニーに尋ねた。
二人は、一人暮らしには似つかわしくない部屋の数に驚いているようだった。
「ここはもともと宿屋だったんですか?」
「いや、新居なんだが……そのうち従業員をいっぱい雇って社員寮にしようかなと思って用意したんだ。まだ従業員は俺たち三人だけだが」
「気が早いですね」
「金持ちはやることが違うな」
机やベッドまで用意された部屋を見てカイルもケニーも若干呆れているようだった。
確かに店が繁盛せずに従業員を入れることが出来なかったら、この部屋は無駄になる。
そのときは本当に宿屋を始めることになるかもしれない……ううん、男の娘カフェは絶対に流行る! 確信がある。根拠は無いが、確実に流行る!
……繁盛してくれないと店が潰れちゃうから流行ってほしい。
「それで、どうする? せっかくだから一人ずつに部屋を割り振ろうか」
俺の言葉を聞いた二人は顔を見合わせて、二人同時に首を横に振った。
「俺たちは二人部屋が良い」
「僕もカイル君と一緒の部屋が良いです」
「じゃあそうしよう。この部屋が良いかな」
俺はベッドの二つ置かれた部屋を二人に与えると、俺自身も自室に戻ってぐっすりと眠った。
* * *
翌朝、二人の部屋のドアを開けると、二人はベッドの上に座って二人でお喋りをしていた。
もしかするとカイルとケニーは夜のうちに家から逃げ出しているかもしれないと思っていたのだが、そういったことはしなかったようだ。
「おはよう。朝食を作るから準備が出来たら下に降りてきてくれ」
「「ありがとうございます!」」
「えっ、なに。どうしたの?」
俺の姿を見たカイルとケニーが、いきなり深々と頭を下げてきた。
「温かいご飯とふかふかのベッドで眠ったのなんて初めてです!」
「頑張って働くので、これからもよろしくお願いします!」
ケニーだけではなくカイルまで敬語で喋っている。
そんなにベッドの寝心地が良かったのだろうか。
「ケニーはともかくカイルまで殊勝な態度なのは変な感じだな」
「変な感じって、まだ半日しか一緒に過ごしてないのに。オレって感じ悪い?」
「感じが悪いと言うか、年相応? こういうお礼とか言えないタイプだと思ってた」
「オレだって礼くらい言えるよ。特に待遇の良い相手の前では」
なるほど。
孤児としてひもじい思いをしたり、ここよりも待遇の悪い主人の元へ行くことが嫌だ、ということだろう。
そういった思惑のために、俺に気に入られようとしているのだ。
なかなか頭が回ると言うか、何と言うか。
「別に年相応の態度のままでいいぞ。それに敬語キャラはケニーと被っちゃうから、敬語は使わなくていい。いろんなタイプの男の娘がいた方が店のためにもなる」
「は、はあ」
カイルは俺の言葉の意味がよく分かっていないようだったが、とりあえず頷くことにしたようだった。
「さて、と。腹がいっぱいになったところで……店を何とかしないとな!」
新築のため店内は綺麗だが、綺麗なだけでは駄目だ。
テーブルには可愛らしいテーブルクロスを掛けたいし、カーテンも店に合うものを選びたい。それに店を彩るぬいぐるみなどの小物も置きたい。
「と言うことで、二人の意見を聞かせてほしい。ここを可愛らしい店にするなら、どんなテーブルクロスが良いと思う?」
「可愛らしいと言えばピンクじゃないですか? 女の人のドレスでも多いですよね、ピンク色」
「うんうん。やっぱり可愛いと言えばピンクだよな」
「待てよ。ここ、飲食店にするんだろ。テーブルクロスは清潔感のある白の方が良いんじゃない?」
「そっか、清潔感も大事だよな」
可愛らしい店にするならピンク色が良いが、飲食店では清潔感が欠かせない。
両方とも納得の意見だ。
うーん…………そうだ!
「テーブルクロスは白にして、代わりにカーテンをピンク色のものにしよう!」
「良いですね。きっと可愛い店になりますよ!」
「……やっぱりそういう店なの?」
「違うからな!?」
まだカイルの誤解は解けきってはいないらしい。
仕方がない。サプライズで見せようと思っていたが、先に従業員の制服を見せた方が良いかもしれない。
「ちょっと待ってろ。二人が着る予定の制服を持ってくるから」
俺は階段を上って一着の制服を手に取ると、また階下へ降りた。
そして制服を二人に向かって見せる。
「じゃーん! これが二人に着てもらう制服だ!!」
俺の持ってきた制服の可愛らしさに、カイルもケニーも言葉を失っているようだった。
それもそのはず。この制服は特注の可愛らしさ百点満点の代物だ。
黒ベースの服に白のフリフリエプロン。スカートは抵抗があるだろうから短パンだ。短パンも短パンでものすごく可愛いから問題無し!
「ええと……なんだかフリフリしているように見えるんですが……それを、着るんですか? 僕たちがスカートを?」
「スカートじゃないぞ。短パンだ! フリフリはしてるがな!」
俺は満面の笑みでカイルの方を向いた。俺が二人にいかがわしいことをさせようとしていると誤解中のカイルに。
「ほら、露出が少ないだろ? 短パンだけどハイソックスを着用予定だから、足だってちょっとしか出さないぞ!」
「そういうのは、オレたちじゃなくて女の子に着せた方が良いんじゃない?」
「そんな店はごまんとある。少年が着るからこその隙間産業だ!!」
それに少年が着るからこそ、可愛らしい服を着たいと思っていた少年時代の俺の願望を昇華できるというものだ。
「……オレ、キッチンで働くのじゃダメ?」
「キッチンは俺が担当する。まさかカイルは、ケニー一人にお客さん全員を任せるつもりか?」
「それは……分かったよ。服を我慢するだけでこの生活が続けられるなら、そのくらいは我慢する……本当に性接待は無いんだよな?」
「無いって何度も言ってるだろ!」
ケニーも何か言ってやってくれよ、とケニーの方を見ると、ケニーもケニーで不安そうな顔をしていた。
「昨日カイル君と話したんですが、この家にベッドの用意された部屋がたくさんあるのって……」
「違うからな!?」
否定はしたが、確かにあんなにベッドの置かれた部屋が用意されていたら、邪推をするのも仕方の無いことかもしれない。
まさか早め早めの行動が仇になるとは思わなかった。
早く健全な店を開店して、二人の不安を払拭しないと!
* * *




