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「今日の営業は終了ですよ、っと」
客全員が帰ったことを確認したエヴァンが『営業中』の札を『準備中』に替える。
するとエヴァンの後ろにロジーナが現れ、俺たちに向かって大きく手を振った。
「やっほー。みんな、元気にしてたー?」
「すみません。もう今日の営業は……と言いますか、どこから入ってきたんですか!? 店内にお客さんがいねえことは確認したはずなんですが!?」
いきなり店内に現れたロジーナに、エヴァンがぎょっとした顔を向けた。
しかしロジーナのことを知っている、俺、カイル、ケニーは平然と閉店作業を進めている。
「ロジーナ、久しぶりだな。もっと頻繁に来るものだと思ってたんだが」
「前にも言ったけど、あたしは弟子がいっぱいで忙しいのよー。ここは王都から遠いし」
「遠いって言っても、ロジーナなら魔法ですぐに移動できるだろ?」
「移動魔法は高度なのよ。旅の間に何度も説明したでしょ。ポンポン使えるわけじゃないの!」
俺たちのやりとりを眺めていたダイアナが、こてんと首を傾けた。
「フェリックスさん。そちらの女性はフェリックスさんのお知り合いですの?」
「ああ。彼女はロジーナ。従業員の制服を作ってくれた人物だ」
ロジーナはぴょんと飛び跳ねるようにしてキッチンまでやって来ると、ダイアナの身体を上から下まで眺めた。そしてダイアナの真似をして首を傾げる。
「エプロン姿ってことは、あなたはキッチンスタッフ?」
「はい。わたくしはダイアナと申します。ここの可愛い制服に釣られて働き始めたんですの」
「それなのにキッチンスタッフにされちゃったのかー。フェリックスも悪い男ねー」
ロジーナがニヤニヤしながら俺のことを見上げた。
待ってくれ。悪い男と言うのは聞き捨てならない。
「仕方ないだろ。ここは『男の娘カフェ』なんだから」
「それもそっか。女の子がホールにいたらコンセプトがブレちゃうかー」
ロジーナが、店内の掃除をしているカイル、ケニー、エヴァンを眺めた。営業終了直後のため、三人ともロジーナの作った制服を着用している。
ロジーナは三人の制服姿を見て、満足気に頷いた。
そんなロジーナに、ダイアナが緊張した面持ちで話しかける。
「あの、あの、ロジーナさん! わたくし、いつかこのお店の制服を作った方とお会いしてみたいと思っていたんですの。ロジーナさんは素晴らしいセンスと裁縫技術をお持ちなのですね!」
そう言って、ダイアナが握手を求めて右手を伸ばした。
褒められて嫌な気はしないらしく、ロジーナはご機嫌な様子で、差し出されたダイアナの手を握った。
「ありがとー。魔法を駆使して作ってるから、あたしにあるのは裁縫技術じゃなくて魔法の技術だけどね。それに制服のデザインを考えたのは、あたしじゃなくてフェリックスよ」
「フェリックスさんがこの制服を考えたんですの? この可愛い制服を?」
ダイアナが目をぱちくりとさせながら、俺のことを見た。澄んだ綺麗な瞳だ。偏見ではなく、純粋に驚いているだけなのだろう。
この世界では俺のような大男が可愛い制服を考えたなんて言ったら普通は軽蔑の視線を向けてくるものだが、どこぞの令嬢であるダイアナはそういった「普通」を知らないのかもしれない。
「あれ。あなたはフェリックスの趣味を知らない感じ? もしかして新しい従業員には隠してた? ごめーん。言っちゃったわ、フェリックス」
そう言って手を合わせるロジーナに、その必要はないと合図を出す。
「気にするな。隠してたつもりはないから別に良い。でも、そうか。特に言ってなかったか」
「もしかしてフェリックスさんも、プライベートではああいった服を着用なさるんですの?」
「いや、俺は着ない。似合わないからな」
俺が苦笑しながら答えると、ダイアナが不思議そうな顔をした。
「服は、似合うか似合わないかではなく、着たいか着たくないかで決めるべきではありませんこと?」
「あなた、良いことを言うじゃない!」
ロジーナが、一度離したダイアナの手を再び握り、ぶんぶんと上下に振った。
しかし、それはどうだろう。
「さすがに俺みたいな筋肉男がフリフリの服を着るのはダメだろ。そんなの可愛くない。みんなのトラウマになる」
「……でも、フェリックスさんも本当は着たいと思ってるよね?」
俺たちの会話を聞いていたらしいカイルが、話に混ざってきた。
カイルは察しが良くて困る。いつもはその察しの良さがありがたいのだが、今は発揮しないでほしい。
「そうだったの、フェリックス? フェリックス自身が着たいって言うのは知らなかったわ。それなら今度……って、あたしはお喋りをしに来たわけじゃないのよ!」
ロジーナは飛び跳ねるようにキッチンから出て行くと、黙々と店内の掃除をしているエヴァンの肩を掴んだ。
エヴァンはどう対応したものかと困惑した顔で、キッチンにいる俺のことを見つめた。
「今日はね、新しい従業員の制服を調整しに来たの。あらかじめ用意しておいた制服はサイズが雑だからねー。ってことで、この子をちょっと借りるわよ」
「エヴァン。店の掃除は俺たちだけでやるから、ロジーナに協力してくれ」
「は、はい」
「じゃあしばらく空き部屋を借りるわよー。エヴァン、一緒に来て。制服のサイズ調整をするからー」
うっかりしていたが、これでようやくエヴァンも自分の身体にピッタリの制服を着ることが出来る。
サイズが合っていない制服は、それはそれで「着せられている感」が出て良かったが、やはり制服はサイズピッタリで動きやすいに限る。
なんだかんだこの店は、大きな問題が無いどころか、どんどん改善されていっている。
迷惑客や魔物は来たが、あんなものは追い払えば解決だ。
このまま平和な日々がずっと続けばいいなあ。
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