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「俺は、えーっと」
「フェリックスさんは、旅をしていたんですよね?」
俺が何と答えようかと迷っていると、ケニーがにこにこしながら口を開いた。
「店長は旅人だったんですねえ。一人旅だったんですか?」
「旅人と言うか、何と言うか。まあ旅はしてたな。四人で」
「なんだか歯切れが悪いですねえ。もしかして旅をしながら盗賊稼業でもしてたんですか? 一緒に旅をしてたのは盗賊仲間とか?」
「まさか! 逆だよ逆。みんなのために働いてたんだよ!」
俺の言葉を聞いたカイルが、不思議そうに首を傾げた。
「旅をしながらみんなのために働く……って、何? ボランティアの旅ってこと?」
「まあ! ノブレスオブリージュですわね!?」
「ノブ……なんだそれ?」
「貴族には民のためになることをする義務がある、という考えですわ」
「店長って、貴族だったんですか?」
「違うぞ。俺は貴族でも何でもないただの格闘家だった」
俺がノブレスオブリージュで行動していたわけではないと聞いてダイアナが若干がっかりする一方で、ケニーは目を輝かせた。
「格闘家だったからフェリックスさんは強いんですね! 僕、格闘家に稽古をつけてもらっていたなんて。あれは普通なら僕が受けられるはずもない、すごい稽古だったんですね!」
「ケニーに教えたのは基礎の基礎だがな。まずは身体を作るところからやらないと、怪我をするから」
それに最後にケニーに教えたのは、うちの格闘家の流派の技ではなく、動画で見た合気道だ。
結果として上手くいったから良かったが、相手に効かなかったらどうしよう、と俺もヒヤヒヤしていたのだ。
「基礎の基礎だったとしても、格闘家の稽古を投げ出さずに続けたケニーはすごいよ」
そう言って、カイルがケニーの頭を撫でた。
ケニーは恥ずかしそうにしつつも、甘んじてカイルのなでなでを受け入れていた。
「ケニーさんは、今も稽古を続けているんですの?」
「いいえ。フェリックスさんの貴重な休日を、僕にばかり消費させるわけにはいきませんから。ですがランニングとか筋トレとかの、一人でも出来るトレーニングは続けていますよ」
「へえ。ケニーは努力家なんですねえ」
今度は魚を食べながら、エヴァンが言った。
今まで知らなかったが、エヴァンは大食いなのかもしれない。これからはエヴァンのまかないの量を増やそう。
「ダイアナ、どうかしたのか?」
ダイアナが複雑そうな表情をしていることに気付いたカイルが質問をした。
「……前から思っていたのですけれど、どうしてエヴァンさんは同期であるわたくしのことだけではなく、カイルさんやケニーさんのことも呼び捨てなんですの? お二人はわたくしたちの先輩ですのに」
「あっ!? すみません。お二人が年下に見えたもので、つい」
無意識でカイルとケニーのことを呼び捨てにしていたのだろうエヴァンが、食事の手を止めてカイルとケニーに謝罪をした。
しかしカイルもケニーも、怒るどころかケラケラと笑っていた。
「別に良いよ。年上と先輩のどっちが偉いかなんて、オレはよく知らないし」
「僕も今のままで良いですよ」
「助かりましたあ。優しい先輩に恵まれて良かったです!」
カイルとケニーが怒っていないことを確認したエヴァンが、ふうと胸を撫で下ろした。
その様子を眺めていたダイアナが、こてんと小首を傾げた。
「実際のところは、みなさん何歳ですの?」
「年齢順は、俺、ダイアナ、エヴァン、カイルとケニーだな。たぶん」
ダイアナの質問には俺が答えた。
全員の年齢を知っているのは俺だけだから……カイル以外の、だが。
「たぶんって何ですの?」
「オレは自分が何歳か知らないんだよ」
俺がどう濁そうかと考えていると、カイルが自ら真実を告げた。
カイルの言葉を聞いたダイアナは、ハッと息を飲んでから、カイルに向かって深々と頭を下げた。
「わたくし、配慮が足りませんでしたわ。申し訳ありません」
「そのくらいで謝らなくてもいいって。オレみたいなやつは世の中にいっぱいいるし」
「でも配慮が足りないのは、そうですねえ。顔の似てない三人で暮らしてるなんて、訳アリ感満載ですからねえ」
また料理を食べ始めたエヴァンが、俺とカイルとケニーに順番に視線を走らせた。
「余った食材を毎日持ち帰ってるエヴァンも、なかなか訳アリっぽいけどな」
「俺のところはただ貧乏なだけです。よくある家ですよお。貧乏すぎて子どもが働きに出る感じの」
「みなさん、苦労をしていますのね」
カイルとケニーとエヴァンを見て、ダイアナが悲しそうな顔をした。
ちなみに俺も結構な訳アリだ。異世界転生に、勇者パーティーの一員としての魔王討伐。とはいえ、奴隷だったカイルとケニーに比べれば、苦労と言うほどの苦労では……まあ、俺は俺でかなりの苦労をして魔王討伐の旅をしたのだが。
「苦労はしてますが、ここで雇ってもらえたのはラッキーでした。きちんと給料をもらえますし、休みだってありますし、慣れちゃえば簡単な部類の仕事ですしねえ。制服はちょっとアレですが」
「はい。ここはかなり良い職場だと思いますよ。僕が前にいたところは……うっ、思い出したくもないです」
過去に引き取られた先での扱いを思い出したのだろうケニーが、嫌な思い出を振り払うように頭を振った。
そんなケニーの肩に手を置きつつ、カイルが俺に向かって歯を見せて笑った。
「オレも、いつもフェリックスさんに感謝してるんだ。ありがとう!」
「あはは。あらためて礼を言われると照れるな」
「僕も感謝しています。僕たちを引き取ってくださって、ありがとうございます!」
「俺もここで雇ってもらえて、余った食材までもらえて、すごく助かってますよお。ありがとうございます!」
「わたくしのことも、明らかに何も出来なさそうなのに、雇ってくださってありがとうございます!」
気付くとこの場の全員が、俺に向かって感謝の言葉を述べていた。
「なんだなんだ、みんなどうした。そんなに褒めても何も出ないぞ!?」
「これ以上料理を出されたら、お腹が爆発しちゃいますよ」
「確かに!」
あんなにエヴァンが食べていたのにまだまだ大量に残っているテーブルの上の料理を見て、俺たちは全員で大口を開けて笑った。




