●22
俺は町へ行くケニーのあとを、こっそりつけていた。
身体が大きいせいで上手く隠れられないため、ケニーからはかなり距離を取っての尾行だ。
とはいえ問題は無い。俺はかなり聴力が良いから。それもこれも、子どもの頃から数百メートル離れた場所で落とした金貨の枚数を当てる作業が訓練の中に組み込まれていたからだ。同じような理由で、視力もかなり良い。
この訓練に何の意味があるのだろうと思ったことは一度や二度ではないが、何がどこで役に立つかは分からないものだ。
「見ろよ、オトコオンナが来たぞー!」
「町に来るなよ、オトコオンナが移るだろー!?」
ケニーが町に入るなり、三人の子どもたちがケニーに近付いてきた。そして嫌な笑いを浮かべながらケニーに絡み始めた。
「…………」
「おい、挨拶くらいしろよ。オトコオンナのくせに生意気だぞ!」
三人を無視するケニーのことを、一人の少年が強く押した。殴ったと言ってもいいくらい、その押し方は強かった。
そのせいでケニーは地面に倒れてしまった。
「押しただけで倒れてるー! ダッセー!」
「オトコオンナのくせに、女くらい弱いよな、お前!」
「じゃあオトコオンナじゃなくて、ただのオンナだー! ぎゃははは!」
「…………」
ケニーは三人のことを無視したまま、立ち上がって砂埃を払うと、無言で歩き出した。
そんなケニーに三人はまた絡む。
俺は、今すぐケニーを助けに行きたい衝動に駆られた。
俺にはケニーを助けることが出来るから。
だが……今、俺がケニーを助けても、それは一時的なものだ。俺に叱られた報復として、俺がいない場でのいじめが激しくなる恐れがある。
だから俺は、歯を食いしばって、ケニーの元へ駆け出したい衝動をこらえた。
今一番悔しいのはケニーのはずだ。俺が俺の感情で勝手に動いてはいけない。
ケニーは自分でいじめに立ち向かおうとしているのだから。
* * *
「あのさ、ケニー。キッチンスタッフをやってみないか? ホールにはカイルとエヴァンがいるし、ダイアナが制服を着てホールスタッフをやってみたいって言ってたから、ケニーの仕事をキッチン補助に変えることも出来るぞ?」
あの場では耐えたものの、やはりケニーのために何か出来ないかと悩んだ俺は、こんな提案をケニーにしてみた。
この店の制服を着なくなったら、ケニーへのいじめが減るかもしれない。そう思ったのだ。
「僕、ホールスタッフだと迷惑ですか?」
しかし俺の言葉で何かを勘違いしたケニーが、悲しそうな顔を俺に向けてきた。
「違う。そういう意味じゃない! その、なんだ。もしもあの制服を着るのが嫌なら、あの制服を着ない別の仕事もあるってことだ。今のケニーは文字の読み書きが出来るから、キッチンでも余裕で働けるはずだ」
「フェリックスさんがそうしろと言うのなら従います。僕は従業員で、ファリックスさんは店長ですから」
何だか俺の意図が上手く伝わっていない気がする。
「ええと、なんて言えばいいのかな。俺としてはケニーにはホールスタッフでいてほしい。常連にケニーのファンが何人もいるしな。だが、無理にとは言わない。嫌なら配置を変えることも出来る、って話だ」
ケニーは俺の目をしばらく見てから、薄く笑った。
「……そういうことですか。町で僕がいじめられているところを見てしまったんですね」
「えっと、それは……ごめん」
「フェリックスさんが謝ることは何もありません。悪いのはあいつらです」
確かにいじめをするやつらが悪い。
ただ、俺にも大きな責任がある。
「この店の制服を着てることでいじめられてるなら、俺にも責任がある。とんでもなく責任がある。ケニーに制服を着せてるのは俺だから」
「それは店を繁盛させるための工夫でしょう? いわゆる営業努力、営業戦略です。悪いことではありません」
いや、かなり趣味が先行している。
むしろどうすれば合法的に男の娘を生み出せるか考えた結果が、この男の娘カフェだ!
……今がそのことを伝える雰囲気ではないことは分かるから、黙っておくが。
「それにフェリックスさんが僕のことを引き取ってくれなかったら、きっと僕はあのかび臭い倉庫の中で死んでいました。フェリックスさんは僕の恩人です。感謝こそすれ、いじめられた責任を取れなんてことは考えるはずもありません」
「だが……」
なおも責任を感じている俺の手を、ケニーがぎゅっと握った。
「フェリックスさん。そんなものを感じる必要はないですが、もしも責任を感じてしまうようなら、一つ僕からお願いをしても良いですか?」
「ああ、なるべく善処する。それで、ケニーのお願いって何だ?」
「それは……」
* * *




