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魔王を倒したので、男の娘カフェを経営します!  作者: 竹間単
【第四章】 ケニーの戦い

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「大変だー! 魔物が出た! みんな、早く逃げろ!!」


 ある日、いつものように男の娘カフェで働いていると、客の一人が窓の外を見て大声を上げた。

 魔物か。遭遇するのはずいぶんと久しぶりだ。

 魔王がいなくなってから、魔物は人の住む地域へ降りてくることがかなり減ったのだ。

 とはいえゼロになったわけではない。単騎で人間の住む町へ攻撃を仕掛けてくる気合いの入った魔物もいる。

 そのガッツには称賛を送りたいところだが、人間に危害を加えられるのは普通に困る。

 しかもここはうちの店だ。客と従業員は俺が責任を持って守らなくてはならない。


「ちょっと外に行ってくる」


 俺はダイアナにキッチンをまかせると、指をポキポキと鳴らしながら外へと向かった。


 外に出ると、一匹の魔物が店に近付いてくるところだった。中型の魔物だ。すぐにケリがつくだろう。


「キシャアアアーッ!!」


 俺の姿を観測した魔物が、俺に向かって走ってきた……ところに、拳を叩きこむ。

 拳は魔物にクリーンヒットし、そのまま魔物を空の彼方へと弾き飛ばした。

 今の一撃で倒せたかどうかは分からないが、ここまで痛い目を見ればもうあの魔物はこの店には近づかないだろう。


 数秒で魔物を退治した俺が店内の中に戻ると、店からは大きな拍手が起こった。

 どうやら多くの客が、窓や店の入り口から今の俺と魔物の戦闘を見ていたらしい。

 誰も彼もが歓声を上げている。


「すごい! 店長さんって何者!?」

「今回だけじゃなくて、私は前に店長さんが迷惑客を飛ばしてたのも見たことがあるわ!」

「店長が何者かは分からないが、ただ者じゃないことは分かる」

「可愛い男の娘が従業員だからちょっと心配だったんだけど、店長さんがこんなに強いなら迷惑客なんて怖くないわね。魔物相手でああなんだし」

「もしかして店長って名のある格闘家だったりして」

「あり得る。店長さんはいつの間にかこの町にいたしな。以前の活動は不明だ」


 こんな田舎の町で俺が勇者パーティーの一員だったことを把握している人間はいないだろうが、格闘家としての実力を見せることは今後自重した方が良いかもしれない。うわさは尾ひれが付くものだから。俺が勇者パーティーに居てもおかしくない実力だといううわさが回りでもしたら、真実に気付く者が現れるかもしれない。

 そうしたら勇者パーティーの一員だった俺が男の娘カフェという特殊な店をやっていることが周囲にバレて、勇者の評価が下がってしまう。

 勇者は信じられないほどに清廉潔白で、自分に厳しく決して努力を怠らず、それでいて他人に対する慈悲深さも持っている。そのため俺はそんな勇者に同じ男として憧れている部分も多い。だから彼の評価を下げることは俺の本意ではないのだ。


 俺はあえてへらりと笑うと、客に向かって述べた。


「ラッキーなことに超弱い魔物だったみたいです。無事に飛んでいきましたので、みなさんは引き続きお食事をお楽しみください。あと俺は、ただの男の娘カフェの店長です。それ以上でもそれ以下でもありません」


 俺の言葉を聞いた店内に、また拍手が起こった。





「フェリックスさん。あの、お願いがあるんです」


「どうしたんだ、ケニー?」


 営業時間も終わり店内の後片付けをしていると、ケニーがおずおずと話しかけてきた。


「僕のことを鍛えてはもらえませんか?」


「鍛える? キッチンにも入ってみたいとか?」


「いえ、そうではなく……フェリックスさんは魔物を一撃で倒してしまうくらい強いので、僕もそうなりたいと思いまして」


「魔物がやって来ることなんて滅多に無いと思うぞ?」


「えっと、魔物は関係ないんです。僕は、強い人間になりたいんです」


 なるほど。俺には無い考え方だが、強い男になりたいと願う人は多い。

 この世界での俺の父も兄も、そういった考え方の人だった。

 この世界で生まれ育ったケニーが彼らと同じような考え方をしていたとしても、何ら不思議ではない。


「新メニューも開発したし、新たな従業員も入れたから、最近は余裕が出てきたんだよな」


 特にダイアナが、出勤日に町で買い出しをしてから店に来てくれることがありがたい。

 馬車とはなんて便利なものなのだろう。大量の荷物を一度に運べるため、かなりの時間節約になる。

 最近店が繁盛しているおかげで、買い出しの量が増えていたから実に助かっている。

 そのため最近は、定休日に俺が買い出しのために町を往復する必要が無くなっているのだ。


「じゃあ明日、朝からトレーニングをしてみるか?」


「ぜひ! よろしくお願いします!」


「カイルも一緒に特訓するか?」


 試しに店内を掃除しているカイルに尋ねると、あからさまに肩をすくめられた。


「可愛いオレが鍛える必要なんてある? 鍛えたせいで可愛くなくなったら嫌だから、オレはパス」


 最近、カイルの自画自賛が進んでいる気がする。

 自分に自信を持つのは素晴らしいことだが、変な方向に導いてしまった気がしないでもない。

 ……まあ、いっか。



   *   *   *




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