●17
「カイル、ケニー! 新しい従業員が来たぞー!」
二階に向かってそう叫ぶと、すぐに二人がパタパタと一階に降りてきた。
新たな従業員に期待の眼差しを向けているカイルとケニーに、エヴァンとダイアナを紹介する。
「こっちがホール担当のエヴァン、こっちがキッチン担当のダイアナだ。ダイアナは毎日じゃないが、エヴァンは営業日には毎日働けるらしい。エヴァン、ダイアナ、この二人が現在うちで働いてる従業員だ。赤髪がカイル、眼鏡を掛けてるのがケニーだ」
「「よろしくお願いします!」」
「エヴァンは会計が、ダイアナは文字の読み書きが出来るらしい。即戦力になる理想的な人材だ!」
理想を言えばダイアナにも毎日来てほしいところだが、そこまでは望めない。
この町で文字の読み書きが出来る人はそう多くはないのに、文字の読み書きが出来るダイアナが来てくれただけで喜ぶべきだ。
「さすがに最初から上手く仕事が出来るわけはないから、しばらくはカイルとケニーがエヴァンのフォローをしてくれると助かる。俺は料理を作るのに忙しすぎて細かいところまでは見てられないから」
「分かりました。エヴァン君、分からないことがあったら気軽に聞いてくださいね」
「オレたちは先輩ってことか! 何かあったら先輩を頼るがいい!」
「頼もしいですねえ……あの、やっぱり俺もあの衣装を着るんですよねえ?」
「あれがうちの制服だからな! 大丈夫だって。すぐに慣れる。それにチヤホヤされるから楽しいよ」
客からチヤホヤされることを気に入っているらしいカイルが、ニコニコしながら言った。
「エヴァンの制服はちょっとサイズが合わない可能性もあるが、そのうち制服を作ってくれたロジーナが直してくれるだろうからそれまでは我慢な」
「は、はあ」
「あの、わたくしの制服は……」
「ダイアナはエプロンだな。俺と同じような格好だ」
「そ、そうですわよね。キッチンであの制服を着たらすぐに汚れてしまいますものね」
まだあの制服を着ることを諦めていなかったらしいダイアナが、しゅんとした様子で述べた。
なんだか少し可哀想になってきたかもしれない。
「あー、その、あれだ。もしかするとホールスタッフ全員が熱を出したら、ダイアナにあの制服を着てホールに立つことを頼む日も、来るかも、しれない……?」
「ホールスタッフ全員が熱を出したなら、店をお休みにした方が良いんじゃないですか?」
「しーっ。ケニー、しーっ」
正論を述べるケニーを、カイルが制した。
「二人とも通いの従業員だから、勤務時間が終わったら自分の家に帰る。営業中は店が忙しすぎてなかなかゆっくり話す機会が無いかもしれないが、仲良くしてくれ」
「はい。僕としても仲良くしてくれると嬉しいです」
「これからよろしくな!」
四人はそれぞれ握手をした。
お互いに第一印象は良好な様子だ。
これで店での仕事が楽になると良いが……さて、どうなるか。
* * *
「んまあ。あなた、新しい店員さん? 可愛いわあ」
「可愛っ!? ……ありがとうございます」
客に褒められたエヴァンが複雑そうな表情で礼を述べた。
「うふふふ。可愛いって言葉を受け入れがたいのだろうその反応、新鮮だわ。それに制服にも抵抗感があるのに、それでもフリフリの制服を着るしかない状況だなんて、最高のシチュエーションだわ!」
客の反応を見るに、フリフリの制服を着させられて恥ずかしそうにしているエヴァンは、需要があったらしい。
確かにカイルとケニーは慣れもあってあの制服に何も思わなくなっているようだから、二人との差別化が出来ているかもしれない。
そこまでは考えていなかったが、俺は結果的に新たな属性の男の娘を雇うことに成功していたらしい。
「店長! 二番テーブル、オレンジジュースとフレンチトーストが入りましたよお!」
「了解。オレンジジュースは冷蔵庫にあるものをグラスに注いで渡してくれ。それでオレンジジュースを渡す際、フレンチトーストはしばらく時間が掛かることをお客さんに伝えてくれな」
「分かりました!」
可愛いと言われた際の反応に困っているようだが、それ以外の点ではエヴァンは優秀だった。
考えようによっては、可愛いと言われて反応に困るのも、それはそれで優秀ではある。カイルとケニーとは属性的な差別化が出来るから。
「店長! 七番テーブルは、ハムチーズトーストとサラダですよお。飲み物は紅茶でお願いします!」
「オッケー」
「エヴァン君、五番テーブルのお会計をお願いします」
「はーい。今行きまーす!」
エヴァンは会計もそつなくこなしているようだ。
キッチンから確認をしていたが、間違えることなくお金を受け取っていた。
エヴァンは問題なさそうだ。問題は…………ダイアナだ。
「サラダ用の野菜を綺麗にしないと。こうやって洗って」
「待て待て。そんなにゴシゴシ洗ったら、レタスがくたびれちゃうぞ。優しく洗ってくれ」
「優しく洗ったくらいで汚れは落ちるものですの?」
「落ちるから心配するな。あー、レタスを洗うのは一旦もういい。その代わりに卵二個を割って混ぜておいてくれ。そこにボウルがあるから」
「卵を割る、割る……卵はどうやって割るんですの?」
あちゃー、そこからか。
だが考えてみれば、勤務初日から調理補助をさせようとした俺も悪い。
もっと簡単なところから始めるべきだった。
「じゃあダイアナは汚れた皿とコップを洗ってくれ」
「分かりましたわ」
これでよし、と思ったのも束の間。
流しの近くからガチャンと嫌な音が響いてきた。
「申し訳ございません、フェリックスさん。手が滑って、お皿を割ってしまいましたわ」
「待て待て。俺が片付けるから触るな! 皿の破片で怪我をする!」
急いで箒と塵取りを持って来て、皿の破片を片付ける。
その間、ダイアナは泣きそうな顔で俺のことを眺めていた。




