●13
「さて、次はパン屋だな。トーストとサンドイッチに使うパンを買わないと。新メニューを考案したからと言って、明日すぐに出せるわけじゃないからな」
しかしパン屋に近付くにつれ、カイルの足取りが重くなっていった。
「カイル、どうかしたのか? 歩きすぎて疲れたか?」
「そういうわけじゃないけど……」
「あっ、えっと、それならカイル君にはパン屋の近くで休んでもらったらどうでしょう。パン屋で買うものは僕がしっかりと確認をしておきますので」
俺とカイルのことを見比べたケニーが、慌てた様子でカイルをフォローし始めた。いつもとは逆の光景だ。
「それは別に良いが……大丈夫なのか、カイル? 具合が悪いならもう帰ろうか?」
「ううん。パン屋にさえ入らなければ大丈夫」
「そうなのか? よく分からないが、分かった。じゃあ俺たちがパン屋から出てくるまで近くで待っててくれ」
その後、無事にパン屋で目的のパンを購入し終えた俺たちは、カイルをピックアップすると二件目の飲食店に入った。
そしてさらに買い出しをしてから三件目の飲食店に入り、腹をぱんぱんに膨らませながら家に帰った。
そして目的だった新メニューは、パンケーキとフレンチトーストとフルーツサンドを日替わりで提供することに決めた。
これで甘い食べ物がプリンだけの状況から脱却することが出来そうだ。
* * *
「目玉焼きベーコンパンケーキを一つ。それと紅茶も」
「かしこまりましたー!」
「私にはお絵描きシロップパンケーキをちょうだい。あと牛乳」
「かしこまりました! 僕がシロップで可愛い絵を描くので、楽しみにしていてくださいね!」
新しく追加したメニューは大人気商品となった。
ただし具を挟むだけのサンドイッチと違ってパンケーキは焼く工程があるため、提供に時間が掛かる。
そのことを客に伝えると「待っている間は男の娘店員とお喋りが出来るから、提供が遅くても別に良い。むしろ遅い方が良い」という意見が何人もから返ってきた。
まさか男の娘というコンセプトがこんなところで役立つとは思わなかった。
「僕たち、最近フェリックスさんに文字の読み書きを教えてもらっているんです。これは『オレンジジュース』で、こっちは『リンゴジュース』です」
「ケニー君、すごーい!」
「えへへ。まだ店のメニューしか読み書き出来ないんですが、それ以外の読み書きも出来るようになりたいです」
「頑張り屋さんだね! お姉さん、応援してるからね!」
最初から客とのお喋りが得意だったカイルはもちろん、最近ではケニーも上手に客との雑談をこなすようになっている。
キッチンは俺一人のため大忙しだが、ホールにはお喋りが出来るくらいの余裕があって、今がちょうどいい混雑具合なのかもしれない。
さすがに調理が間に合っていないため、グラスにジュースを注ぐ程度の簡単な飲料の準備は、最近ではカイルとケニーにまかせている状態だが。
「おうおう、ここで働いてるってのは本当だったんだなあ!?」
そのとき、店の入り口から嫌な声が響いてきた。
また迷惑客かとうんざりしつつキッチンから出て行った俺を待っていたのは、カイルをにらみつけている男と、気まずそうな顔をしているカイルだった。
「こんなところで働いてたとはなあ、この泥棒!!」
「…………」
「何とか言えよ! うちの損害がどれだけあったと思ってるんだあ!?」
「…………」
カイルの様子を見る限り、どうやら彼はただの迷惑客ではないらしい。
今ここで彼を無理やり追い出すことは簡単だが、それでは根本の原因は解決しないだろう。
俺はケニーを呼ぶと、他の客の対応をケニー一人にまかせてから、男とカイルに近付いた。
「申し訳ございません。他のお客様のご迷惑になりますので、詳しいお話は二階でさせていただけませんか? カイルもそれでいいよな?」
「……分かった」
「俺も従ってやる。俺の評価が下がるのは得策じゃねえからな」
男は自分たちのやりとりを眺めている他の客を見てから、大人しく指示に従った。
先程の発言とこの態度を考えると、この男は客商売をしているのかもしれない。それにこの男は話の分からない人というわけではなさそうだ。じっくり話し合えば、分かり合えるかもしれない。




