●12
あれから畑は動物に荒らされることがなくなり、植え直した苗のいくつかは復活もしてくれた。
残念ながら枯れてしまった苗もあるが、それでも多くの苗は今も元気に育っている。
このまま収穫まで元気に成長してくれることを祈ろう。
「じゃあ今日こそは新メニューを考案するぞ!」
「「おおーっ!」」
前回の定休日を動物除けの柵作りで消費した俺たちは、次の定休日を使って改めて新メニューの考案をすることにした。
「と言うことで、町へ行こう!」
「……へ? どういうことだよ?」
「新メニューを考案するんじゃないんですか?」
不思議そうに首を傾げるカイルとケニーに向かって、チッチッチっと指を振ってみせる。
「新メニューを考案するために、他店のメニューを見に行くんだ。朝食も昼食も、今日は町で食べよう。ついでに買い出しもしなくちゃな。俺の買い物の仕方をよく見ておくんだぞ。今後、二人におつかいを頼むこともあるかもしれないからな」
「「はーい!」」
元気よく返事をした二人を連れて町までの道を歩く。俺がいなくても町まで行けるように、目印や曲がり角を説明しながら。
そうしてしばらく歩いた俺たちは、無事に町に辿り着いた。
「それで、どの店に入るんだよ?」
「定食を出してる感じの店はダメだな。俺では難しい料理は再現できないから。もっと作るのが簡単そうな料理を出してる飲食店が良いな」
「それならあの店はどうですか?」
ケニーが甘い香りを漂わせている店を指差した。
「朝から甘い物を食うのかよ」
「カイル君は嫌ですか? 僕はいい匂いがするので気になってしまって」
「いや、目の付け所は良いかもしれない。ものすごく!」
そうだ。パンケーキがあった!!
すっかり忘れていた。
パンケーキならシロップをかけて甘くも出来るし、日本ではあまり一般的ではないがハムや目玉焼きを乗せて食事としても提供できる。
「ここに入ろう。この店の佇まいから考えて一品くらいは甘くない料理もあるはずだ」
そう言ってカイルへのフォローをしつつ、三人で店の中に入った。
店内は質素だがオシャレな内装になっていた。
そのせいかカイルとケニーは落ち着かない様子だ。
「メニューは……ああ、二人にはそのうち文字も教えないとだな。少なくともメニュー名は覚えてもらわないと」
「文字ってオレでも覚えられるものなの?」
「勉強し始めは難しいだろうが、諦めずに続けてればいつかは身に付く。投げ出さずに続ける根性があれば、きっと大丈夫だ」
「僕、頑張ります。実は文字を習ってみたいと思っていたんです」
「じゃあ俺も頑張って教えないとだな!」
そう気合を入れつつ、メニュー表を開く。
うちの店とは違って、この店には数多くのメニューがあるようだ。
「三人で別々のメニューを頼んで、三人でシェアしよう。食べたい物の希望はあるか?」
「僕は何でもいいです。何でも食べられますので」
「オレはしょっぱいものが良いけど、そういうのある?」
「じゃあ一品はしょっぱいもの、一品はシロップをかけたもの、一品はフルーツを乗せたものを頼もう」
俺はさっさと注文をすると、二人に小声で囁いた。
「美味しかったとしても、食べ過ぎないようにな。数時間後には別の店に入るつもりだから」
「少し早めのお昼にするんですね」
「ああ。今日は飲食店を三つ回って、二時頃にはカフェに戻って新メニューを作ってみたいんだ」
俺の発言を聞いたカイルが驚いた様子で目を見開いた。
「二時までに三つ!? すごいスケジュールだな。それなら一つの店で料理三品は、腹の容量的に無理なんじゃない?」
「俺が多めに食べれば平気だろう。俺は無駄に身体がデカいからな。それに食事と食事のインターバルで買い出しをするから、歩いてカロリーを消費できるしな」
「カロリーって何ですか? カロリーナさんの略ですか?」
「あはは。いっぱい歩けば腹が減るって意味だ」
とはいえ二人が苦しそうだったら、料理の品数を減らしたり、店を二件までに絞っても良いかもしれない。
これは、せっかく町まで来たからまとめて調査を済ませたい、という俺の都合なのだから。
「美味しかったですね! 食べ過ぎないようにしないとって思ってたのに、ついたくさん食べてしまいました」
どうやらケニーは甘党らしい。シロップのかかったパンケーキと、フルーツの乗ったパンケーキばかりを食べていた。
逆にカイルは目玉焼きの乗ったパンケーキばかりを食べていた。
「もしかしてカイルは甘い物が苦手なのか?」
「そんなことはないけど、甘い物はあんまり食事って気がしなくて。選べるならしょっぱい方が良いなって……オレ、いつの間にか贅沢になってるな!?」
カイルは自分で自分の発言に驚いているようだった。
きっと俺の元に来る前は食料を選べるような環境ではなかったために、このような食事の好みは考えたこともなかったのだろう。
「そんなのは贅沢ってほどのものじゃないさ。たくさんの料理を一口ずつ食べたいとか言い出したら贅沢だがな」
「さすがにそんなことは言わないよ。食料の大切さは知ってるつもりだから」
「僕もです。食べ物は粗末にしちゃダメですよね」
ケニーもカイルの意見に同意した。
「ちなみに僕は食事に甘い物が出てくるのは大歓迎です。さっきの果物の乗ったパンケーキが食事として出てきたら、大喜びしちゃいます」
「パンケーキにフルーツを乗せるだけなのはお手軽で良いよな。その割に見栄えがするから、ぜひうちの店のメニューにしたい。まったく同じパンケーキにしたら怒られそうだからアレンジを加えないとだが……ただフルーツは長持ちしないから、出すとしても買い出し直後だけだな」
「畑で果物が実ったら、毎日出せるようになるかもよ」
「新鮮な作物が手に入るのは畑の利点だよな。上手く育つと良いんだが」
そんな会話をしながら町を歩きつつ、買い出しに使っている店を二人に伝えていく。
「この店にある、赤いラベルの瓶に入ってる紅茶が、いつも店で出してるやつだ。銀貨一枚で買える」
「紅茶って、そんなにするの!?」
「こら、声がデカい。これだけで何十杯分にもなるんだ。こんなもんだろ」
俺は紅茶の購入方法を二人に見せながら、店員にもいつかこの二人がおつかいで来店する可能性がある旨を雑談として話しておいた。




