●11
慌てて庭に向かうと、そこには畑を見て呆然としているカイルが立っていた。
もしかすると魔物がやって来たのではないかと焦っていた俺は、怪我一つ無い様子のカイルを見て胸を撫で下ろした。
「どうしたんだ、大声を出して」
「畑が、オレたちの畑が……!」
言われて畑を見ると、畑は動物に荒らされているようだった。
まだ何の実も成っていないと言うのに、気の早い動物もいたものだ。
「動物除けの柵はもう少し後に作れば良いと思ってたが、先に作っておくべきだったな」
「せっかく元気に育ってたのに、めちゃくちゃだ……」
カイルがへなへなとその場に崩れた。
俺はカイルの肩に手を置き、悲しんでいるのはカイル一人ではないことを伝えた。
「落ち込むな、って言うのは無理かもしれないが、苗は全滅したわけじゃない。それに散らばってる苗も、植え直せば間に合うかもしれない」
畑が踏み荒らされたせいで苗が土の上に散らばっているが、植物の生命力は強い。きちんと植え直すことで復活する可能性がある。
畑は昨日の夜から今朝までの間にめちゃくちゃにされたのだから、まだ間に合うはずだ。
「今から畑を修復しよう。散らばった苗を元の位置に植え直すんだ」
俺はカイルの肩を軽く叩くと、作業を開始した。
カイルも涙目になりながら苗を植え直し始めた。
ケニーも一緒になって畑の修復作業をしてくれた。
「植え直すだけじゃなくて、急いで動物除けの柵を作らないとだな。木は自分で調達するとして、ロープとネットを買ってこないと」
まだ二人におつかいをまかせるのは不安がある。
店の宣伝で町に行ったことがあるとは言え、町へ行ったのは一度だけだから迷子になる可能性がある。
それに二人がこれまでどのような人生を送ってきたのか知らないため、買い物が出来るかは未知数だ。
商品を得るためにお金を払うことは知っているだろうか。金貨、銀貨、銅貨の価値は理解しているだろうか。
…………俺が行くべきだな。
俺は立ち上がると、二人に声を掛けた。
「俺はこれからロープとネットを買ってくる。二人は畑の修復と留守番を頼むな。腹が減ったら家にあるものを適当に食べてくれ。すぐに食べられるパンとか果物があるし、料理が出来るなら何か作って食べてもいいから」
俺の言葉にカイルとケニーが頷いた。
* * *
「これでよし、と」
無事にロープとネットを購入した俺は、次は森で木を切り倒し、畑まで運んだ。
かなりの重量だが、俺にとってはどうということはない。
まさか男の娘カフェを経営してからもこの筋肉が役に立つとは思わなかった。
「何だかんだよく力仕事をしてるから、全然筋肉が萎まないんだよな」
俺は自身の盛り上がった筋肉を触りながら苦笑した。
今回もこの前の迷惑客のときもこの筋肉が役立ったから、最近は筋肉があっても良いかと思い始めているくらいだ。
「柵、今日出来上がる?」
「そのつもりだ。また畑を荒らされることは避けたいからな。お前たちが穴を掘ってくれたおかげで早く出来上がりそうだ」
俺が木を用意している間に、二人には柵の柱を立てる部分に穴を掘ってもらっていたのだ。
その穴に切り倒してきた木を突き立て、スコップで上から叩いて地面に埋めた。
急ごしらえのためそこまで深い穴ではなかったが、あとは力でゴリ押した。
俺が柱を立て、カイルとケニーが柱の周りの隙間を土で埋めていく。なかなかに良い連携だ。
これなら、きっとすぐに出来上がる。
「ふう。柱にネットを掛けて……完成だ!」
汗を拭いながら完成品を見た。
急ごしらえにしてはまずまずな動物除けの柵が出来上がった。
「これでもう畑は荒らされない?」
「動物除けの柵を作ったのは初めてだから絶対とは言い切れないが、何も無いよりはずっとマシなはずだ」
「……植え直した苗は復活するでしょうか」
「それも初めてのことだから、絶対に復活するとは言い切れないな。初めてやることは、こういった試行錯誤で上達していくものだ。でももしも苗が復活しなかったとしても、今日の出来事は俺たちの糧になってる」
だから同じようなことが起こった場合に、きっと俺たちは今日よりも上手く対処することが出来る。
今日の悲しみも、努力も、無駄にはならない。
「さあ、二人とも。お風呂に入って身体を綺麗にしよう。綺麗になったら夕食だ。俺はもう腹ペコだ!」
「僕もお腹が空きました。お昼にパンを食べましたが、もう夕方ですからね」
「オレも腹減ったー!」
俺たちは泥だらけの身体で風呂場へと向かった。
全員泥まみれだから、今日は念入りに洗いっこをする必要がありそうだ。
* * *




