第93話 秘密の地下隠し部屋
商業ギルドでの契約を終えてカギを受け取った私たちは、再度新しい住まいになる場所を訪れた。
「さて、もう少し詳しく確認しておきましょう」
「私は、間取りすら忘れているから案内はできんぞ」
「それは、構いませんよ。さっき来た時に気になる場所があったので……」
1階のリビングに入る。がらんとしておりかなり広い。一部は吹き抜けになっていて、北側の部屋にも関わらず明るい。そして、リビングの端に扉があり、そこを開ける。
「この先に下に降りる階段があるんですよね、階段の先まではわからなかったけど……ここは他より綺麗ね、メンテナンスがされてる?」
「ほう、私はこの部屋自体を使ってなかったからな……こんな場所入ったこともなかったわい。物置があるのは知っとったが……」
ここから先は暗いので《ライト》を使う。階段を下りていくと小さな部屋があり、扉が2つあった。階段を下りた正面の扉を開けると廊下が真っすぐ続いており、先の方は暗くて見えない。10m程度進んでみると廊下がなくなり、その先は洞窟のように土の壁がむき出しになっていた。
「この方向に真っすぐって……ヴェンティスの屋敷までつながってるんじゃない?」
「距離を考えるとそうじゃろうな」
「何のためにここにつないだんだ?緊急時の脱出経路?それとも逆に侵入経路?」
「わからんな……あの屋敷を建てたのは先代領主じゃ、今の領主が理由を知っているかはわからん」
「そうなると、今まで借り手がつかなかったのはこれのせい?」
とりあえず地下の小部屋に戻り扉を閉めた。もう1つの扉は地下の浄化施設につながっており、特におかしな場所はなかった。もちろんスライムはいない。
「ん?誰か家に入って来たぞ……これは監視員のうちの1人じゃの」
「何か用かしら?直接接触してくるなんて」
「失礼します。ヴェンテ……ヴェニカ様に領主様より手紙を預かっております。下に降りてもよろしいでしょうか?」
階段の上から声をかけてきた。一応、《装填:近》を使用して警戒はしておく。
「かまわんぞ」
監視員がランプを手に階段を下りてきた。冒険者に見える普通の人種の青年だった。
「失礼します。ヴェニカ様がこの場所を発見された場合に、この手紙を渡せと命令を受けています。特に返事などは必要ないとのことです。私はこれで失礼します」
そういうと監視員の人は、ヴェニカに手紙を渡して階段を上がっていった。そのまま外に出ていったようだ。
「逃げられたか、伝言を頼もうかと思ったのじゃが、察知して早々に退散しよった。伊達に監視員はやってないのう……」
そう言って、ヴェニカは手紙を開き読み始めた。最初はげんなりしていたが、読み終えるとその顔は呆れてるように見えた。
「くだらんのう。ほれ」
「読んでいいの?」
「かまわんかまわん」
ヴェニカから手紙を受け取り読んでみる。時候の挨拶から入り、ぐちゃぐちゃと回りくどく文章が続いている。内容を要約すると、「領主がお忍びで街に出る時に使用する通路だから埋めないで」、「使用料は払うから、1階に直接外に出る普通の扉を用意して」の2点が書かれていた。
「そうですか……なんといえば良いのやら……」
「まあ昔、世話になったのも確かじゃ、この程度のことは許可してやるぞ」
「なら、リビングからの扉は潰して、外からのみ入れるようにしよう。浄化設備の点検は外から回って入れば良いからね」
「そうじゃな、そうするか」
思ってもいないところから情報が入ったので、謎はすんなり解決してしまった。少々肩透かしな感もあるが、これで誰も借りない理由がわかった。借りないと言うより貸さないに近い。まあ持ち主だから下手に探られるよりは、普通に貸してしまって理由を言った方が良いと判断したんだろう。
階段を上がり物置から外に出る扉を探す。ぱっと見わからないようになっているが、取っ手のようなものがある。そこに手をかけて引いてみると扉が開いた。隠し扉になっていた。
「なるほどね、ここを通って出てたのか……他と比べて物置と地下室は綺麗だったから、ちゃんとメンテナンスしているのね……リビングからの扉を潰すなら、この扉は言われた通り普通の玄関扉に変えないと変ね」
「それでいいじゃろう。まあ、何か必要なら言ってくるはずじゃ」
物置の確認ができたので、キッチンから庭に出てみる。キッチンを出てすぐに井戸があった。生活用の水はここから汲むのだろうが、私たちには必要がない。庭は雑草が生い茂っていた。その先の塀の向こうにお屋敷が見えた。
「あれが、ヴェンティスの屋敷……ちゃんと管理されているようね」
「そうじゃな、一応私がいつ住んでも良いようになってるはずじゃ」
「1回くらい泊まってみたら?」
「嫌じゃ」
あの規模だと使用人もいるだろう。そんな中で暮らすのは私も気が進まない。家は自分の居場所であり落ち着く場所だ。恋人か家族以外の人と一緒に住むつもりはない。ヴェニカやフェシーはもう家族のようなものだから。




