第92話 賃貸借契約
商業ギルドで紹介された4件目の物件を借りることに決めた。ヴェニカの持ち物なので、改築などは本当の意味で自由にできることになる。
「ところで家賃は、どのくらいなのですか?」
「ああ、そうでしたね、えっと……1か月大銀貨3枚ですね、普通なら金貨1枚でも問題ない物件ですけど、修繕のこととお隣がヴェンティス様のお屋敷なのでこの値段なのだと思います。それから、大工は商業ギルドの方から紹介させていただきます」
「わかりました。賃料はそれで問題ありません。大工とは一度物件内を見ながら相談したいので、都合の良い日を知らせてください。えっと、宿は……」
「翡翠風詠館じゃ」
「翡翠風詠館の212号室です。フロントに知らせてもらえれば対応します」
(……あの宿そんな名前だったのか、てかヴェンティスのためにあるような名前じゃない……)
「わかりました。大工の手配をしておきます。他は見なくても大丈夫ですか?庭もありますが」
「今日はこれで大丈夫です。ヴェンティス様の屋敷は裏側ですか?」
「はい、裏手の庭の先になります。小さな堀と塀があるので、土地の境界はしっかりしています」
「そうですか、他の場所は今度来た時に見ておきます。図面から広さは問題ないと思っているので」
「わかりました。では、商業ギルドに戻って賃貸借契約を行います。契約終了後にこのカギをお渡しするので物件の方はご自由にしていただいて構いません。支払方法や細かな注意点があれば契約時にお話しします」
商業ギルドに戻るために、馬車に乗った。
『あんな物件も持っていたのね』
『あれは、屋敷を貰う前に住んでいたのじゃ。ちと長い時間ここに滞在する要件があってな、その時に空いてたあの物件を買ったのじゃ』
『で、住む必要が無くなったから商業ギルドに預けて放置してたのね?そこに住んでた経緯があったから裏に屋敷を用意したんじゃない?』
『領主は私がこの街に住み続けるとでも思ったのかもしれん……もう何年も前の話じゃから覚えとらん』
商業ギルドに到着したので、馬車を降り商談ブースへ戻った。ニルスさんが4件目の図面を広げて、契約の準備のため裏に下がっていった。
「ねえ、どうする?修繕しても良いけど、全部建て替えてしまわない?」
「私はそれでもいいぞ、間取りはどうするんじゃ?」
「間取りは今のままでいいわ。1階にあるこの広い部屋を工房にして、1階の一番小さな部屋をお風呂にしよう」
「なるほど、悪くないのう」
図面を見ながら相談をしていく。土地に余裕があるので外に小さな倉庫を建てても問題ない。家具なども揃えないといけないのでお金がかかりそうだ。ここは頑張ってポーションや薬を作ろうと思う。
「お待たせしました。こちらが契約の書類になります。家賃は1か月大銀貨3枚です。支払の方法はいかがいたします?ギルドカードからの引き落としが便利ですが……」
「ギルドカードにそんな機能がついているんですか?」
「ええ、ギルドカードに入金をしておいていただければ、そこからの引き落としが可能になります。入出金は商業ギルド、冒険者ギルド、役所など様々な場所で可能です。私はどのような仕組みになっているのか詳しくはわかりませんが、月々の引き落としは、お持ちのギルドカードに登録され、自動的に行われます。どうやら古代文明の技術らしいのですが……私にはさっぱりですね」
ギルドカードには金融の仕組みも備わっているようだ。確かに自分の情報を表示すると、「【預金】0シル」と表示されていた。あまり大量に預ける気はないが利用しない手はないだろう。
『フェシー、この預金額ってギルド側に知られることはあるの?』
『ないと思われます。ギルドで確認できる情報は、名前、性別、種族、所属の4項目なので、知られることはまずありえないかと』
『なるほど、ありがとう。でも最低限の金額にしとくべきね、一応1年分の家賃くらいを入れておくのが良さそうね』
「わかりました。ギルドカードからの引き落としでお願いします。最初の引き落としはいつになりますか?」
ニルスさんは契約の書類を読んで確認している。
「たぶん今月の末日だとは思いますが……あ、契約の特記事項がありました。『修繕の期間を考慮し、契約月を含めた3か月間は、家賃を免除する』だそうです。とすると、今月が芽吹の月なので、慈雨の月の月末に烈陽の月の分の家賃が引き落とされることになりますね」
「わかりました。それまでにギルドカードにお金は入れておきます」
「よろしくお願いします。他に契約に関する特記事項はありません。これで問題ないのであれば内容を確認して、この契約書にサインをお願いします」
契約の書類を渡されたので中身を確認する。物件の場所や家賃、先ほど出てきた特記事項などを確認していく。ただ、貸主が商業ギルドになっていた。たぶん本当の貸主の名前を出さないようにするためだろう。聞けば答えてくれるかもしれないが、あえて聞かないことにしておいた。
ヴェニカにも内容を確認してもらい、問題ないとのことなので、私は契約書にサインした。




