第83話 魔導回路と魔導具
今回は、《エングレイブ・サーキット》を使用して個人認証用の魔導具を作ってみる。以前作ったときは、カードに回路を彫り込んで、魔導インクを定着させることで個人認証用の魔道具を作った。だが、《エングレイブ・サーキット》を使えるようになったのであれば、それを使った方が効率よく作れる。
個人認証用の仕組みは自分で回路を設計したので、イメージは簡単だった。今回はヴェニカ専用なので前と同じ作りにするが、回路の修正をすることでグループの認証回路も作れそうだ。今のところ使い道はないが、構想として持っておくのも悪くないだろう。
炭化ケイ素。ダイヤモンドに次ぐ硬度を持ち、高耐熱性、耐薬品性、耐酸化性をもつ高性能セラミックスだ。だが割れやすいという弱点もある。今回は鞄の中の空間で使用するため衝撃は一切ない。まあ、鉄板でも構わないと言ったヴェニカの言葉はすごく正しいのだが、これは私の自己満足でもある。
「エングレイブ・サーキット」
炭化ケイ素の板に魔導回路を定着させた。ポーチから自分の作った個人認証用の魔道具を取り出し、見比べてみる。
「回路はほとんど同じね、でも魔法で作った回路の方が綺麗で、紋様も洗練されているように見えるわね」
「ほう、それが魔法で作った魔導回路か、私も詳しく見たことはないが、美しいものだな。確かに言っては悪いが、ミオの手作りの方が粗い感じに見える」
「気にしなくていいよ、実際に作りは粗いわ。動作しているから使っているだけ、今回作ったものが動けばこれは破棄するわよ」
「フェシー、魔石以外で魔力を溜める方法はある?」
『なくはないのですが、今回の目的には合いません。魔力を溜める回路はあるのですが、一時的なものになります。今回のように永続的に魔力をためるのは魔石に勝る方法がないのです』
「なるほど、一時的に溜めて一気に放出するみたいなことしかできないのね。ありがとう。魔石を使うことにするわ」
自分の作った魔道具と同じように、魔石をカードに接着剤で貼り付ける。この接着剤は領域で作成したものを使っている。小粒の魔石をカードに貼り付けた。魔導具が完成したので簡単な検証をする。ポーチから麻袋を取り出して空間拡張の魔法を掛ける。大きさは麻袋と同じ大きさだ。
「ディメンションプラス」
これで検証の準備は整った。
「ヴェニカ、この魔石に魔力を溜めてくれる?」
「わかった」
ヴェニカに魔力を溜めてもらい、カードを受け取った。そして麻袋の中にカードを入れる。一度、口を閉じたらこの麻袋の拡張空間側はヴェニカしかアクセスできないはずだ。私は麻袋にポーションを1本入れた。
「ヴェニカ、ここに何か持ち物を入れてみて、開くときに魔力を流してね」
「わかった」
ヴェニカは懐から紐パンを取り出して何枚か入れていく。
(なぜに紐パン?)
「ふむ、確かに亜空間との接合点が見えるの、閉じればいいのか?」
「はい、それから魔力を流さずに開けてみて」
ヴェニカは一度麻袋を閉じてから再度開いた。
「ほう、ポーションが入っておるな。亜空間との接合点も見えぬ、ミオも確認してくれ」
渡された袋を開くとポーションが見えた。魔力を流して開いてみる。それでもポーションしか見えなかった。認証は成功しているとみて問題ないだろう。
「うまくいったわ。入れたものを取り出してみて、この魔導具はヴェニカ専用です。大事にしてくれると嬉しいわ。拡張の鞄にするための素体を出して」
「ああ、今日買ったやつだな。これにした」
ヴェニカは薄いパスケースのようなものを取り出した。厚さは1cmもないくらいで、蓋をしてフックで留めるようになっている。
「これは?」
「ギルドカード入れだな、裏を見てみろ透明な板になっていて中のギルドカードが良く見えるだろ?」
確かに中にギルドカードが入っていた。あらかじめ魔力を流してくれたのか、情報が見えていた。
【名前】ヴェニカ
【性別】女
【種族】人種
【所属】リデナスタ行商人(シルバー)
なるほど、そのままパスケースだ。これは私も欲しいかもしれない。後で値段を聞いておこう。
「これを拡張の鞄にするんですか?」
「それで構わない。ギルドカードはよく使うし、肌身離さず持つじゃろ?そう考えるとこれが拡張の鞄だと便利なのじゃ、蓋の開け閉めも簡単じゃしの」
なるほど、ヴェニカの服装では私みたいにポーチを着ける場所がない。そうなるとパスケースにすることで肌身離さず持つことが可能だ。そして、それを持っていても怪しまれることはない。ヴェニカの合理的な判断に感心した。
「わかったわ。中の広さはどうする?」
「そうじゃのう……一応聞くが最大だとどの程度なのだ?」
「フェシーどの程度なの?私には説明が難しいわ」
『最大だとミオさんが持つ鞄と同じで、この街の建物すべてを2回分収納しても少し余裕があるくらいですね』
まあ1立方キロメートルの空間であればそのくらいは入るだろう。さすがのヴェニカも驚いているようだった。




