第82話 魔導具の使い方
宿屋に戻る途中で商店に寄って籠を買った。洗濯物を入れるための籠だ。ヴェニカに洗濯魔法を使えるようにするか聞いたが、「使えるようになっても多分使わん」と言われたので、私が洗濯することにした。その時に洗濯物を集める場所として洗濯籠を用意したのだ。これで一括で洗濯しやすくなった。
「今は何時くらい?」
『8刻を過ぎたくらいです』
「夕食にはまだ早いわね。ヴェニカの鞄を作ってしまおう」
「先に魔導回路を作るから、さっき買った結合の魔導具を出してくれる?」
「わかった。作業しながらでもいいから、この魔導具について説明をしてもらえるか?」
テーブルの上に魔導具を置いてもらい、ポーチから砂岩を取り出して下の扉の中に入れる。この砂岩は領域から持ち出したものだ。特に持ち出した意味はないのだが、重りとして使ったり、投石としても使えると思って持ち出していた。
「今、下の段に入れたのは、砂岩と呼ばれる岩の塊ね。ちょっとわかりづらいかもしれないけど、この砂岩にはいろいろな物質が含まれているわ。鉄鉱石に鉄が含まれているようなものよ。見えるものであれば……この砂を見てもらえる?」
ポーチから砂岩を砕いて作った砂をヴェニカに見せた。
「よく見ると、白い粒や透明の粒、茶色い粒なんかが見えるでしょ?」
「確かにあるな、この1つ1つがさっき言ってた物質と言うことか?」
「大雑把に言えばそうね、細かく言うともっと難しい話になっちゃうから、その理解で問題ないわ。それで、この結合の魔導具は素体、今入れた砂岩からある特定の物質だけ抜き取って再度結合することが可能なの」
「うーん、難しいのう。実際にやってみてくれ」
「わかったわ。今回は、石英を抽出して再結晶化するわね。出てくる素材はヴェニカでも見たことあるものだと思うわ」
魔導具に石英だけを抽出して結晶化して排出するイメージを与えて魔力を注入する。上の扉を開けてみるが何もなかった。
「何もないぞ?失敗か?」
「いえ、魔力は通ったから失敗ではないと思う」
『上下が逆なのでは?』
その可能性はあるかもしれない。できれば同じインターフェースで作っておいてほしかった。砂岩を上の扉の中に入れなおしてもう一度魔力を注入する。
下の扉を開けると、長さ5cm程の透明な六角柱が入っていた。水晶の完成だ。
「はいこれ、上に入れた砂岩から水晶の成分だけを抜き出して作った物よ。上の扉の中を見ればわかると思うけど、岩がボロボロになっているでしょ?これは水晶の成分だけが抜かれたのでこんなふうになっているの」
「おお、確かに水晶じゃ。私も見たことがある。しかもこの品質なら大銀貨2、3枚の価値がありそうじゃ」
「この魔導具はそういったことができる魔導具なの、今回はこれを使ってヴェニカの鞄で使う魔導回路を定着させる板をつくるわ」
「なんじゃ、レプリカは使わんのか?」
「ええ、この魔導具がなかったらレプリカを使うけど、これがあるなら私が使っているものと同じ素材が作れるから、それで作るわ」
上からボロボロになった砂岩をポーチにしまい、新たに3つほど砂岩を入れた。前は一度水晶を経由してケイ素を作り出したが、今回は砂岩から直接ケイ素を作り出す。ケイ素のみを抽出するイメージで魔石に魔力を注入する。
扉を開くと、暗灰色の金属光沢がある塊になっていた。ケイ素の抽出に成功した。
「これが、魔導回路を作るために必要な素体ね」
「ほう、金属のようじゃが見たことはないのう」
「そうね、この形で存在することはないわね。次の作業をするわ」
ポーチから箱に入りそうな小さな薪を取り出して数本入れた。炭があれば効率が良いのだが、ないので薪から直接炭素を取り出す。これも炭素のみを抽出して結晶化しておく。
「これで、材料がそろったわ」
「この黒い塊は何じゃ?」
「炭ね、薪を燃やして残るものとほぼ同等、まあ純度が高いと言えばいいのかな?」
「ほう、それを薪から作り出したわけか……」
炭素は有機物であればほとんどのものに含まれているので、素体はなんでも良かったのだが、薪もたくさん持っているのでこれにした。
『薪なんていつの間に持ち出したんですか?気が付きませんでしたよ?』
「そうなの?キッチンにも割ったやつが少量あったし、玄関にも丸太状でかなりの量があったから収納してたわよ」
作り出したケイ素の塊と炭素の塊を入れて、最終的な魔導回路を定着させる板をイメージする。大きさはギルドカードと同じだ。魔力を注入してから扉を開けると、黒いカードが出来上がっていた。
「これが魔導回路を定着させるためのカードね、一度見せたことがあるでしょ?あれをこれで作るの」
「なるほど、あの板はこうやってつくったのか。確かに便利な魔導具ではあるけど、これだけではあそこまで欲しがる理由にはならないと思うのだが……」
「そうね、その説明はすごく難しいの、後で実演するから今は鞄に使う魔導具を先に作るわ」
そう言って、魔導具作りの作業を再開した。




