第80話 職人街
中央広場で串肉を食べた後、私たちは北の大通りを散策している。串肉以外にも、果実水やクッキーのようなお菓子も食べた。大森林で蜂蜜が取れるので、甘味は他の街より美味しいらしい。素朴な味で美味しかった。
北の大通りは、武器屋や防具屋が多い。冒険者もそれなりの数が歩いている。そして初めてドワーフ種を見た。ずんぐりむっくりな体型で背が低く、髭を蓄えている。これもまた異世界ファンタジーの定番だ。
「やっぱり、武器屋とかが多いね」
「そうだな、通り沿いは商店が多いが、1歩裏に入ると工房がたくさんあるぞ。鍛冶に彫金、革細工など多種多様じゃ。そこで作られた製品がこうやって通り沿いの商店で売られとる」
「少し、欲しいものがあるのだけど、商店で買える?ギルドカードくらいの大きさの金属の板なんだけど」
「そうだな、材質を気にしないなら工房で分けてもらうのが早いじゃろう。どんな材質がいいのだ?」
「魔導回路が掘れるなら何でもいい。できたら腐食しづらい金属がいいけど……」
「私の鞄の細工に使うのか……拘るのであれば聖銀じゃが、私は何でもいいぞ。それに状態維持もかけるじゃろ?鉄で問題ないじゃろ」
確かに鉄でもいいけど、せっかくヴェニカにあげるのだから拘りたい気もする。聖銀は、別名ミスリルというファンタジー金属だ。魔力と親和性が高く、銀に魔力が浸透した金属だと言われている。前にフェシーにそう聞いた。
「そうなんだけどね、ギルドカードくらいの大きさの聖銀ってやっぱり高いの?」
「そうじゃな、安くはない。ただ、加工の手間はそれ程ではないから、ほぼ材料費になるはずだ……そうじゃ、ギルドカードのレプリカは使えんか?」
「ギルドカードのレプリカ?」
「たまに魔道具屋で売っておる。古代文明で使われていたものらしく、大量に発見されるのだが、使い道がない。魔力にも反応せんし、何か動く回路があるわけでもない。大きさはギルドカードと同じだから、レプリカとして売られておる」
その話を聞いて思い出した。私は、領域で古代文明の身分証を作っている。多分そのカードがレプリカとして売られているのだろう。
『フェシー、それって古代文明の身分証では?なぜ魔力に反応しないのかはわからないけど』
『そうですね、多分そうだと思います。使用するには初期化処理をする必要があります。専用の《《魔導具》》を使うので現在では使用できないのでしょう』
「一度見てみたいわ。魔道具屋に行ってみましょう。ヴェニカはどこかいい店知ってる?」
「そうじゃな、小さいが腕のいい魔道具職人がやっている店を知っている。そこに行ってみるか……」
ヴェニカに案内されて大通りから路地に入り裏道に出た。小さな工房がたくさん並んでおり、金属を加工する音や、木材を切る音など様々な音が聞こえ、大通りとは違った喧騒と活気がある。
「商店とはまた違った活気がありますね。私はこっちの方が好きかもしれません」
「じゃろうな、ミオは薬師にして魔道具職人でもある。こういった雰囲気はおのずと体が馴染むのであろう」
しばらくしてヴェニカが1軒の工房の前で立ち止まった。他の工房と比べると少々薄汚れている感じがする。
「ここじゃ、ごちゃごちゃと汚い場所じゃが、それなりの魔道具を作っておる」
そう言って扉を開けて入っていった。
「こんな場末の工房に何の用だ?」
「ちと、探してるものがあってな。カードのレプリカはあるか?」
「レプリカならその辺に埋まっとる。勝手に掘り出してくれ」
ドワーフ種の工房主らしき人物が、少しだけ顔を上げてヴェニカと会話した。そしてまた手元を見て作業を続けている。
「だそうだ、適当に探そう。私も見たことはあるから手伝える」
「わかったわ」
2人で手分けをして、いろいろな場所を探してみる。そうしていると工房の奥から声が聞こえてきた。
「あんた、お客さんかい?ちゃんと接客してるのかい?」
「ああ、何か探しとるそうだから勝手にやってもらってる」
「またそうやって……それは接客っていわないのよ、作業してるとすぐに横着するんだから……あら、ヴェンティスさん……ではないのかな?」
「胸はヴェンティスさんだが、髪の色が違う。似た別人だろう」
「……あとで覚えてなさい……いらっしゃいませ、何をお探しですか?」
ドワーフ種の女性が声をかけてきた。体形はずんぐりむっくりで男性と同じだが、髭は無く、顔が人種より丸いので幼い感じで可愛く見える。
「ギルドカードのレプリカを探してます。それから何か便利そうな魔道具があるか、ですかね」
「うちの主人がすまないね、レプリカならその台の上にある箱に入ってるよ。魔道具は気になるものがあったら教えて頂戴、説明するわ」
工房の女将さんに言われた場所の箱を見てみると、領域で見たものと同じ鈍く光る金属のカードが入っていた。違うのは幾何学模様のようなものが見えないことだけだった。魔導回路を掘るための素材としては問題はない。だが、元が魔導具なので、どのようなことが起こるかわからない。




