第79話 散策と屋台
冒険者ギルドでの獣魔登録も終わった。今日の予定は全て終わったので、あとは、自由時間だ。
「どうする?予定は全部終わったよ」
「ミオは何かしたいことはないのか?」
「市場調査はしたいけど、慌ててやる必要もないし……」
「なら、適当に散策でもするか?確か中央広場には屋台も出てるぞ」
「いいわね、簡単でいいから何処に何があるか教えてほしいわ」
中央広場に向かって歩いて行く。今歩いているのは西の大通り、商業ギルドや冒険者ギルドがあって商業が盛んな地区だ。大通りから数本入ったところまでは、小さな商店なども並んでおり人通りも多い。そこから先は住宅街が広がっている。城壁の際まで行くと、スラム街のような少し治安の悪い場所も存在する。
「基本的には大通りにある商店で買い物が済むが、掘り出し物や拘りの品を見つけるなら、小さな店も悪くない」
「へぇ、いろいろあるのね、私は薬屋や魔道具屋に興味があるわ。それはどこにあるの?」
「この通りの大きな商店でも扱っているが、種類を見たいのであれば、北側の職人街じゃな」
中央広場の北側には北の大通りを中心に職人街が広がっている。鍛冶や木工、薬師などの工房や、倉庫街なども北側だ。
「結構歩くわね、さすがにこれだけ大きな街だと、簡単には全部回るのは無理そうね」
「そうだな、でも通り沿いの店を見るのも楽しいだろ?特にこの通りは店の種類が豊富だからな。今日は散策がてら歩いているが、他の地区に行くなら乗合馬車の方が早い」
「乗合馬車?」
「たまに人がたくさん乗った馬車が通り過ぎていったじゃろ?あれが乗合馬車で1回銅貨3枚で乗れる」
「なるほど、他の地区には何があるの?」
「南側は行政が中心の地区だな、領主館や領軍の駐屯地も南側にある。これはリデナ大森林への対策も兼ねているからそちらに配置されているのだろう」
中央広場の南側は南の大通りを中心に行政地区になっていて、さらに南に進むと貴族や富裕層が住む地区があり領主館になっている。領主館は中央広場と南の城門の中心に建っていて、領主館から南は領軍の駐屯地を含めた関連の施設が多い。
「最後に東側だが、住宅が多いな。商店も小さいものが多い」
東の大通りに面した商店は、領民が普段の買い物をする場所になっていて、肉屋や八百屋、日用品の店なんかが多い。他にも小さな食事処や喫茶店のようなところもある。領民の生活を知るにはもってこいの場所だ。
「ほら、中央広場が見えて来たぞ。広場の周りに屋台が見えるじゃろ?」
「おお、たくさん人がいますね。丁度お昼だし何か食べない?」
「そうだな、適当に屋台を回ってみるのも悪くない」
中央広場の周りにはたくさんの屋台が出ていた。いろいろな食べ物が売られており、中には野菜や果物、民芸品を売る屋台もあった。
(……異世界ファンタジーといえば、屋台の串肉よね。小説の主人公が購入して頬張っている挿絵を描いた記憶がある。冒険者ギルドで見た黒目黒髪の男性、どこかで見たことある気が……)
「何の肉かわからないけど、あそこの屋台の肉が美味しそう。いい匂いがしているわ」
「この匂いはオークじゃな。見た目は醜悪だが肉は美味い」
(……またしても、異世界ファンタジーの定番オーク)
興味が湧いたのでオークの串肉を食べてみることにする。屋台に行き注文をした。
「すみません。2本ください」
「嬢ちゃん、毎度あり。2本で600シルだ。ちょっと温めるから待ってな」
店のおじさんがオークの串肉を火であぶっている。肉から脂が垂れ落ちジュウジュウという音と共に香ばしい匂いをあたりにまき散らしている。
「ほい、できたぞ。熱いから気をつけな」
600シルを渡して串肉を受け取った。1本をヴェニカに渡す。息を吹きかけて少し冷まし一口かじってみた。
口の中に甘い脂の香りが広がり、続いて肉の旨味が広がった。単純な塩味だが、脂の甘みが引き立てられている。これは高級豚バラにも負けない味だ。
「美味しいね、オークは見たことないけど、こんなに美味しいんだ」
「これは普通のオークだが、上位種のオークはもっとうまいぞ」
「へぇ、強くなると美味しくなるんだ」
「魔力が関係しているらしいぞ、魔力の凝縮された肉はうまくなる」
『ドラゴンの肉もうまい。ドラゴンは豊富な魔力を持っているからな、私も食べたことがあるが美味かったぞ。ちなみにちゃんと調理されたやつだからな』
『それって共食いじゃないの?』
『弱肉強食の世界だ。そんなことは気にせん。魔物の世界では弱い奴が食われるだけだ』
(厳しい世界ね。わからなくはないけど……)
中央広場の各所にはゴミ箱が設置されており、そこに食べ終わった串を捨てる。街中でも思ったが、比較的道が綺麗なのだ。馬車が通るのでどうしても馬糞などは落ちているが、それも長い間落ちている様子はなく、すぐに片付けられている印象だ。
「あまりゴミが落ちてないわね、ゴミ箱が多いから道端に捨てないのかしら?」
「そうじゃな、それもあるが、掃除人がおる。孤児院の子供たちや稼げない冒険者たちだ。ほかにも軽犯罪を犯した罰としての掃除があったりする」
なるほど、そういう仕組みで街の顔である大通りの景観を保っているのだろう。




