第78話 冒険者ギルド
革製品の店から外に出た。店の名前は「銀針工房」というらしい。私の相手をしてくれた女性店員が店主だった。また革製品が必要になったら買いに来ようと思う。その前にお金を溜めないとまずい。
「そういえば、先に冒険者ギルドによる予定だったけど、なんで革製品の店にしたの?」
「商業ギルドから近かったからじゃ、どっちが先でも問題なかったからな」
合理的ではあるが、私が商業ギルドで精神的に疲れたのを見て、買い物をすることで気分転換をさせてくれたのだろう。ヴェニカの気遣いが嬉しい。
フェシーは店で終始静かだった。私が外套を脱ぐ前に、いつの間にかブーツの先に止まっていたのは少し驚いた。
冒険者ギルドの前で私は躊躇していた。端的に言うと入りづらい。女性もいるにはいるが、数が少なく1割もいないだろう。他はヒャッハーな兄ちゃんか、むっさいおっさんだらけである。中には誠実そうな人もいるのだが、前者の方が多いので目立たない。
「なんじゃ?入らんのか?」
「これ入ったら私食べられちゃいません?」
「そんなバカはおらんよ、とりあえず入るぞ」
扉を開けて冒険者ギルドに入った。ギルドの喧騒が消え、すべての人の視線がこちらに集まる。正直怖い。私とヴェニカが受付に向かうとひそひそと話し声が聞こえる。
「あれって、翠黒の魔女じゃねえか?」
「いや違うだろ。髪が黒いぜ」
「でも、あの胸は翠黒の魔女だぜ?」
「お前そんなので覚えてるのか?殺されるぞ?」
命知らずがおる。まあヴェニカはこの程度では怒らないだろう。まだ静寂は続いているが、何とか受付にたどり着いた。
「すみません。獣魔の登録をお願いします」
「あ、はい。……ではこちらに記入をお願いします」
ギルド内で会話しているのは、私とギルド職員だけだ。静かすぎるので、声が妙に大きく聞こえる。受け取った登録用紙に、名前と種族を記入する。
「これでいいですか?」
「はい、大丈夫です。獣魔のタグについてですが、鳥型なのでこのリングになります。足にはめてください。ギルドカードをお預かりしても?」
「あ、わかりました。どうぞ」
商業ギルドで発行されたばかりのギルドカードを渡した。
「しばらくお待ちください」
職員は裏に下がっていった。いまだにギルド内は静かな緊張感が漂っている。
『ねぇ、なんで誰も喋らないの?ひそひそ話してた人達も黙っちゃったし』
『ん?私の威圧だろ?この程度で動けないなら、低ランクしかおらん。あと私たちに手を出すとどうなるかを教えてやっている』
そうですか、考えたら負けそうなので黙って待つことにした。だが、手は頭の上のフェシーを撫でまわしている。
乱暴に扉が開かれて、冒険者が入ってきた。
「お?なんだ静か……」
すぐに動けなくなっている。仲間だろうか、入ってすぐの所で立ち止まったのでぶつかって文句を言っている。
「何やってるのよ、立ち止まらないでさっさと入りなさい」
獣人の女性が立ち止まった男性の横から顔を出した。
「あれ?えらく静……」
その人も動かなくなった。もう一人いるようだが入っては来ない。
『なんか大変なことになってるよ』
『放って置け、この程度で動けないのが悪いんじゃ』
「お待たせしました。ギルドカードに獣魔の情報を記録しました」
「はい、ありがとうございます」
「獣魔のことで質問などがありましたら聞きに来てください。手続きは以上になります」
ギルドカードと足環を受け取って外に出ることにした。さっき入ってきた男性は黒目、黒髪で顔つきが日本人っぽい、女性は銀髪の狼獣人のようだ。ヴェニカには負けるがでっかいメロンが二つほどついている。
ヴェニカが2人の前に立つと、スススと横にずれた。外からピンク髪の魔法使いが入って来ようとしたが、その人もスススっと横にずれた。
ヴェニカと外に出てしばらくすると冒険者ギルドから大きな叫び声が聞こえてくる。いくら威圧を受けたからって、なぜそこまで叫ぶのだろうか?冒険者のことがいまいちわからない。
SIDE:冒険者ギルド
【テーブルに座っている中堅冒険者】
「なんだあの化け物は……」
「誰かが言ってたが、翠黒の魔女じゃねえの?」
「俺は見たことないから知らん」
「それにしても生きた心地がしなかったぜ」
「そうだな、やばいやつだってのは嫌でも理解した」
【途中から入ってきた冒険者パーティ】
「あの美女は何者だ?すげぇ怖かったけど」
「知らないわよ、さっき翠黒の魔女ってのが聞こえたけど、私は知らないわ。人相手に動けなくなったのは初めてね」
「私、翠黒の魔女なら聞いたことがあります。オリハルコン冒険者で、エメラルドグリーンの髪をなびかせ、すべてを闇に閉ざす存在だと言われています。絶世の美女なので、言い寄る男は後を絶ちませんが、全て返り討ちにあっています。殺された人もいるとか……髪が黒だったので別人の可能性もありますが……」
「隣にいた女の子は可愛かったな、翠黒の魔女の胸がすごいから気づきにくいけど……黒目で黒髪だし、体もあのバランスの良い感じがたまらん」
「あんたはそればっかりね、まあいいけど」
SIDE:冒険者ギルド(終)




