第76話 クラウドゴートの胴衣
革製品のお店に入ると革独特の匂いがする。私は嫌いな匂いじゃない。店の棚には高級そうな鞄や、小物入れなども並んでいる。色も豊富で、緑や赤い革製品も見受けられた。
「1階は鞄などが中心だな、2階に革の装備品がある。先に2階に行こう」
「わかった」
階段で2階に上がっていく。階段を上がると店員に声を掛けられた。
「いらっしゃいませ。今日は何かお探しですか?」
「胴衣を探しています。柔らかくて普段使いができるものがいいのですが……」
「承知いたしました。……ではご案内します。こちらへどうぞ」
店員は少し考えて、胴衣が飾られている場所に案内してくれた。
「普段使いをされるなら、このあたりの製品が中心になると思います。あちらはどちらかというと、冒険者の方たちが使うものですから」
冒険者用の胴衣を見ると、確かに丈夫そうではある。色も黒や茶色でごつい感じがして街中で着るのは戸惑われる。その点、紹介してもらった胴衣は、自然な色になっており、普通のベストにも見える。
「いろんな色がありますね、これって革に色を付けているのですか?」
「いえ、柔らかい革の上に、染色した薄い布を貼ってあります。ですから普段着に見えて、街中でも十二分に着こなしていただけます」
なるほど、布が貼り付けられているから革独特の茶色や黒ではないのか、加工に工夫がされていて見ていて面白い。その中でも、私は気になった1着を手に取った。半袖タイプの胴衣で、前面を革の紐で編み上げるようになっている。少し手間ではあるが、調節できるのは重要だ。色も少し濃い緑で、白いシャツよりも草原や森で目立たないだろう。
「これは何の革で作られているのですか?」
「そちらはクラウドゴートといって、高山地帯に棲む魔力の高い山羊の皮です。薄手に見えますが大変丈夫で、耐魔性や耐寒性にも優れています。表面の布もミストモスの糸を使用しているので、耐刃性に優れ、少しですが隠密性を高める効果もあります」
「なるほど……少し考えます」
「他に気になるものがありましたら、いつでもお声がけください」
見た目もいいし、性能も抜群だ。買いたいところではあるが、かなりの値段になることが予想できる。素材が動物ではなく魔物なのでコストも高いはずだ。迷っているとヴェニカが念話で話しかけてきた。
『気に入ったのなら、買えばいいじゃろ。足りない分は出してやる』
『確かにそうなんだけど、ヴェニカに甘えすぎな気もして……』
『その服程度の値段ならすぐに稼げる。私から見ても悪くない製品だぞ』
高ランク冒険者のヴェニカが言うなら装備として問題はないのだろう。
「あの、これっておいくらでしょうか?」
「そちらの製品は……250,000シルでございます」
高い、全財産の8割以上、買えなくはないが一気に所持金が減ってしまう。ヴェニカに借りたり、一部出してもらうのも気が引ける。昨日のポーションと薬を買ってもらうか、十分甘えな気もするが借りるよりはいいだろう。
『ヴェニカ、さすがに借りるのは気が引けるから、ポーションを買ってもらえないかな?』
『気にせんで良いのに……ミオがそれでいいなら、私は構わんぞ』
『フェシー、ポーションの卸値ってどの程度なの?』
『治癒ポーションが2,000シル、体力ポーションが4,000シル、魔力ポーションが4,000シル、解毒薬が1,200シル、避妊薬が2,000シルになります。ヴェニカに渡したポーションと薬だと、244,000シルです』
『なるほど、なら私がそれを買えば良いな?ちと足りんがそこはおまけじゃな』
『わかった。ヴェニカ、ありがとう。今回は甘えさせてもらうわ』
『なに、さっきも言ったが、気にせんで良い』
ヴェニカは金貨と大銀貨をそっと手に握らせてくれた。感謝しかない。
「すみません。この胴衣をいただけますか?」
「お買い上げありがとうございます。サイズの確認と調整をいたしますので、こちらへどうぞ。お連れ様は、どうぞ店内をご自由にご覧になっていてください」
「わかった。ミオ、私は鞄を探しておるから調整を済ませるのじゃ、サイズがなければ作ってもらうのじゃぞ」
店員に個室に案内された。革の胸当てを外しておく。今着ているシャツに合わせれば、ワンピースの時でも問題ないだろう。店員がメジャーらしきもので私の体を採寸している。
「お客様のサイズでしたら、すぐにでもご用意できます。少々、その場でお待ちいただけますか」
そう言って店員は個室から出ていった。
『ヴェニカ、すぐ用意できるって言ってるけど、それを着てみて調整すればいいの?』
『そうじゃな、胴衣は少しだけ余裕があるものにしてもらえ、ぴったり過ぎては動き辛くなる。ただ余裕がありすぎるのもだめじゃぞ、細かく調整してもらうんじゃ』
『わかったわ、他に気を付けることはある?』
『いや、特にない。あ、ついでにサイホルスターも頼んでおくと良いじゃろ。ミオが持ってる金額で十分買えるはずじゃ』
『忘れてたわ。ありがとう。そうするね』
ヴェニカと念話で確認をしていたら、胴衣を持って店員が戻ってきた。




