第60話 エンシェントドラゴン
遠距離攻撃の精度も確認できたので、また北に向かって歩き出す。気持ちの良い午前中の日差しが私たちの背中を押してくれる。しばらく歩いていると、急にあたりに不穏な空気が立ち込める。鳥や虫の鳴き声が一切聞こえなくなり、風が草を揺らす音のみになった。
『ああ、面倒なのが来ました。索敵の魔法を切ってください』
「わかったわ」
フェシーに言われて索敵魔法を切った。次の瞬間、嵐のような風が吹き荒れ、突如地面がドーンと揺れた。周りを見ても何もいないが、目の前に強大な気配を感じる。
『よっこいしょ』
突然綺麗な女性の声が頭の中に響いた。でも「よっこいしょ」?何が起こっているのかさっぱり理解できない。
「どうなってるの?」
『そのうちわかります。危険はないので大丈夫です』
『なんじゃ、小娘だけかと思うたが、変なのもおるのう。奴のお使いか?』
『ミオさんが混乱してるじゃないですか、さっさと姿を出したらどうです?それとお使いではありません』
私は完全に蚊帳の外だ。目の前に何かがいるのはわかる。それとフェシーが会話していることも、それにしてもどうなってるのだろうか。
『おお、すまんすまん。これでどうじゃ?』
目の前に巨大なドラゴンが現れた。普通にびっくりしたけど、ちょっとカッコいいとも思ってしまった。現実離れしすぎていて、慌てることもなかった。ドラゴンは首をもたげて私の目の前に頭を近づけてきた。
『なんじゃ?固まっとるぞ』
『そりゃそうです。急にドラゴンが現れたら誰でもびっくりします。腰を抜かさないだけでも立派だと思ってください』
「あのー、鼻息が不愉快なので、離れてもらっていいですか?」
『ん?そうか、それは悪かった。少しずれよう』
ドラゴンは頭の位置をなおして、私に鼻息がかからないようにしてくれた。頭が真横にあるので少し見上げると金色の目がよく見えた。
「何か御用ですか?」
『物おじせん小娘じゃのう。おぬし名前は何という』
「私に聞く前に先に名乗ってはどうですか?それが礼儀ですよ?」
『そうか?そういうもんか?なら、私はエンシェントドラゴンの「ヴェンティス・エメラルダ」という。巷では翡風竜と呼ばれていたりするな』
「ご丁寧にありがとうございます。私は「ミオ・カンザキ」しがない野良薬師です。それでヴェンティスさんは、どのようなご用件で?」
『いやな、立て続けにこの世界に異物が紛れ込んだので確認に来たのじゃ、前は確か2年くらい前か?その前は300年前とかじゃったから、興味を持ってな』
2年前は多分、私がイラストを描いた小説の主人公だろう。フェシーも領域からさっさといなくなったって言っていた。その1年後に私が来て、1年間籠ってから領域の外に出た。実際は1年の間隔しかないことになる。
「なるほど、何を確認しにきたかは、存じ上げませんが、用がお済みでしたらお帰りいただいて結構ですよ?」
『くっくっくっくっ』
フェシーが笑っている。念話を使ってまで笑いを届けなくてもいいのに、何か不思議な感じもする。
『ふむ、ミオとやら、おぬし面白いのう。他の爺どもを相手にしているより、よっぽど楽しそうじゃ。どれ私も一緒に行って良いか?』
「その姿でですか?もう少し人の常識を考えてください。そんな姿で現れたらどの街でも大混乱ですよ?」
『それはそうじゃの、なら人の姿になってついていくとしよう』
そういうと目の前からドラゴンが消えた。人の姿になるとは言っていたけどどこに行ったのだろう。周りを見渡してみると50mくらい先から小さな子供が駆けてきた。黒いとんがり帽子に黒いローブ、長い杖を持っている。緑の髪のおさげが走るたびにぴょんぴょんと跳ねていた。
(……ロリ魔女っ娘??)
「これでどうじゃ?この姿ならかまわんじゃろ」
「うーん、却下します。私の子供だと思われるのは心外です。どう見ても5歳くらいじゃないですか……」
「ふむ、やはりダメか……いつも使っている姿にするか……」
魔女っ娘が一瞬にして姿を変え、背の高い絶世の美女になった。装備は変わらないが、緑の長い髪の毛をなびかせている。絵になる姿ではある。ローブの一部が外からでもわかるくらいに盛り上がっている。嫌味か?
「先ほどよりはマシですが、女の2人旅やパーティって余計な虫がたかってきませんか?」
「この姿なら大丈夫じゃ、多少はいると思うが撫でてやれば良い。それに私がいるとギルドや貴族どもの余計な煩わしさがなくなるぞ?」
「ギルドや貴族が私に何も言わなくなるということですか?なぜ?」
「私はなこの格好だとベテラン冒険者なんじゃ、ランクは「オリハルコン」で一応この世界に3人しかいないうちの1人じゃ、王族、貴族の当主、ギルドマスターあたりなら私がドラゴンであることも知っている。ほれこれがギルドカードじゃ」
薄紅色の鈍い光を放つ金属プレートを見せてくれた。確かに名前は、ヴェンティスになっており、冒険者ギルドのオリハルコンであると表示されている。
「うーん、確かにかなり安全に活動できることは理解しました。でも、それって私もかなり目立ちません?オリハルコン冒険者の庇護下にいる薬師って……」
私は困り果ててしまった。




