第59話 遠距離攻撃の精度
地下野営シェルターで目が覚めた。このシェルターの弱点が判明する。時間がわからないのだ。今がまだ夜中なのか、早朝なのか、もしくは昼なのかそれを判別するための日の光がない。
「今はどのくらいの時間?」
『午前6時ですね、こちらの世界では3刻になります』
「ありがとう、起きて朝食にするわ」
『承知しました』
ベッドから起き上がる。硬いベッドの上で毛布に包まって寝ていたため体がバキバキに固まっている。睡眠はとれているが、質の良い睡眠とは程遠いだろう。早めにちゃんとしたベッドが欲しいところだ。
洗面所で顔を洗い、トイレを済ませる。朝食用の黒パンを取り出してモソモソと食べていく。グレプも取り出し数粒食べる。程よい酸味が更なる覚醒を促した。マグカップに冷たい水を少々入れて飲み干した。
「さて、朝食はこれでいいわね……お腹の具合は……」
特に催す感じもないので、更衣室で旅装に着替える。準備ができたので《ウィンドソナー》と《マジックソナー》を発動して外部の様子を探ってみるが、付近に生物を感知することはなかった。
「大丈夫そうね……」
『問題ありません』
頭の上にいるフェシーも確認したようで声をかけてくれた。入口の隠蔽を解きタラップを上がる。温かい朝日が私たちを迎えてくれた。
ポーチからバックパックを出して背負う。地下野営シェルターを《地下野営シェルター撤去》で埋め戻し、身体強化1.2倍をかけて、出発の準備は完了した。
「今日は大森林から離れる方向に移動するのよね?」
『そうなります。方角的には北になり、1日半程度で街道に突き当たります。なので今日は1日中草原を歩くことになります。この草原は高い草も少なく歩きやすいですが、遮蔽物が少ないので遠くからでも発見されやすいです。魔物は少ないと思いますが、十分注意してください』
「わかったわ。出発しましょう」
そういってフェシーが羽で指示した方向に歩き出した。しばらく歩くと遠くに黒い点が見えてくる。何か動物のようだ。
「何か見えるけどあれはなに?」
『あれはこの草原に生息する動物で「ブラック・ブル」ですね。基本的には温厚な野牛なのであまり近づかなければ問題ありません。』
「食べられるの?」
『もちろん食用可能です。1頭くらい討伐しますか?』
「そうね、遠距離射撃のテストを兼ねて1頭だけ確保したいわ。距離はどの程度?」
『まだ、1番近いブラック・ブルでも2,000mほどあります。《ソニックバレット》の遠距離攻撃は、現在800mが理論上の有効射程です。もう少し近づきましょう』
「そうね……」
1番近いブラック・ブルに向かって進んでいく。20分程度歩いたらだいぶはっきりとブラック・ブルが見えるようになってきた。
『そろそろ、1,000mを切りました。もう少ししたら狙撃してみましょう。ほぼ横向きなので、目と耳の間を狙えば一撃で倒せると思います。』
さらに進んでいき、約800mの距離まで近づいた。《装填:遠》を3発待機状態にし、《イーグルアイ》を発動した。丁度横向きになっているので目と耳の間を狙う。
「狙撃」
小さく呟くと、ピシッと乾いた音がし、わずかな間をおいてブラック・ブルに命中した。《イーグルアイ》で見ていたが、弾丸は完全に狙った場所を射抜いていた。ブラック・ブルは一度痙攣すると、すぐに倒れて動かなくなった。残った2発の弾丸を土に戻し、ブラック・ブルに向かって歩き出す。
「命中精度が良すぎるんだけど……こんな1発で倒せるとは思ってなかったわ。それに昨日からわかってはいたけど、火薬を使わないから音がほとんどないわね」
『そうですね、あまりぶれる様子もなく一直線に飛びましたね……《装填》時に何か弾道が安定する魔法がかかっているのでしょうか?』
「意識的にかけてはいないと思う。でも、風の影響は受けないほうがいいなぁ、とは思ったかもしれない……」
『なるほど、そのあたりが安定した原因でしょうね、有効射程内ならほぼぶれずに狙撃できるのは良いことなので、このままにしましょう』
倒したブラック・ブルの元に着いた。目と耳の間から血を流し完全に死んでいる。
「ここで解体するのは難しいわよね?」
『そうですね、魔法で吊り上げて解体しても相当時間がかかると思います。ミオさんは解体の経験はありますか?』
「いいえ、ネズミ程度の小動物を解剖したことはあるけど、実務レベルの解体はやったことがないわね……それに大型となるともっと難しいわ」
哺乳類なので大体の臓器の位置や、傷をつけてはいけない臓器もわかる。でも、肉をとる目的で解体したことはないので、時間がかかる。それに解体を習得するならもっと小さな動物、ウサギあたりからやっていった方が効率がいいだろう。
『であれば、いったん保留にしてポーチにしまいましょう』
「そうね」
まだ少し温かいブラック・ブルに触れて、ポーチに収納した。そしてブラック・ブルが倒れていた場所に土を被せ、なるべく血の匂いがしないようにしておく。周りを見渡すが、100mくらい離れた場所にいるブラック・ブルは仲間が倒されたことにも気づかず草を食んでいた。




