第55話 戦闘訓練
今度こそ出発の準備ができたのでシェルターの外に出た。時間はお昼を過ぎたあたりだろう。少しだけ太陽が傾いている。
『身体強化は、午前中と同じ1.2倍にしてください。まだ大森林に入る小道からそこまで離れていないので少し進みましょう』
私の頭の上に止まったフェシーが話しかけてきた。そこが定位置になるのだろうか?体が小さいので重さが気になることはないが、場所は少し気になる。
「わかったわ、もう少し森に寄った方がいい?それとそこに乗って移動するの?」
『そうですね、そうしましょう。薬草なども見つかるかもしれません。移動するときは、バックパックにでも止まります。後は、その時々ですね』
ポーチからバックパックを取り出し背負い、身体強化をかける。シェルターを埋め戻して歩き始めた。
1時間程度歩いただろうか、特に何かに出会うことなく進めている。時折、森の中から獣の嘶きが聞こえるが至って平和だ。何回か薬草を見つけているので魔力視眼も試している。
【薬草】
治癒ポーションや治癒軟膏に使われる薬草、どこにでも生えており成長も早い。
マグカップやポーションを見た時よりも簡素な表示だった。フェシーに伝えたが、『そんなものです』と、あっさりした返答が返ってきた。適当にそこら辺に生えている草を見たら、「雑草」としか出なかったからそんなものだろうと思うことにした。
さらに進んでいくと、前方で森の方から何かが飛び出してきた。即座に《ソニックバレット》の弾丸を待機状態にする。
『ホーンラビット、魔物ですね。頭に生えている角が特徴です。そこまで好戦的ではありませんが、すでにこちらに気が付いていますね』
「たしかに、こちらの様子をうかがってるわね、それにしてもでかくない?」
体長が1mくらいあるように見える。あの大きさで突進されたら角が簡単に刺さりそうだ。
『確かに大きいですが、通常のウサギと違い動きがあまり速くありません。それに一直線にしか攻撃してこないので、避けるのは簡単です。大人であれば何か武器を持っていれば、十分倒せる相手です。油断すると危険なのは変わりませんが』
「そう、倒してみてもいい」
『もちろんです』
待機させている弾丸をホーンラビットの眉間に向けて発射する。
「狙撃」
次の瞬間、グシャっと音がして、ホーンラビットがはじけ飛び、肉片があたりにばら撒かれた。オーバーキルもいいところだ。
『ぐちゃぐちゃですね……撃ち下ろしだったので体の中を弾丸が通過したのでしょう』
「そうね……肉は食べられるの?」
『ええ、食べられます。普通のウサギと変わらず、美味しいらしいですよ。威力は考えないといけませんね、このまま進みましょう回収できるものもないですし……』
ホーンラビットの肉片は放置して進むことにした。ここまで散らばってしまうと回収するのも現実的ではない。初めて魔物を殺したが、特に忌避感を感じることもなかった。血や肉片はもともと解剖学を学んでいたので平気だが、動物型の魔物を殺しても何も感じないのは少し不思議だった。
ホーンラビットを倒してから30分程度歩いた場所で、フェシーが声をかけてきた。
『この辺りで良いと思います。少し戦闘の訓練をしましょう』
「わかったわ。どうやって訓練するの?森に少し入る?」
『いえ、私が森から魔物を何匹か連れてきます。それを狙撃してください。弾頭のサンプルを置いていくので、他の大きさも試してみて下さい。手のひらを広げて出してください』
手のひらを広げて前に出すと、弾頭が現れた。前にサンプルとして見せてもらったものと同じだ。ただ、材質は硬化した土になっている。
「わかったわ、連れてくるときに大きさだけ教えて。それで弾頭を決めるわ」
『承知しました。それでは行ってきます。大森林側は問題ないですが、それ以外の方向の警戒は怠らないようにしてくださいね』
「ええ、今も《ウィンドソナー》と《マジックソナー》は使ってるから問題ないわ。気を付けていってらっしゃい」
大森林との距離は20m程度だ。どの弾丸で狙撃しても外すことはないだろう。今回は速度は変えずに、弾頭だけ変えて試してみることにする。しばらくするとフェシーから念話が届く。
『30秒後に1匹いきます。ホーンラビットです。体長は先ほどと同じくらいです』
「わかったわ」
《ソニックバレット》の弾丸を準備する。弾頭は一番小さい「直径9mm、長さ15mm」のものにした。木々の間からホーンラビットが飛び出してくる。その瞬間を狙って狙撃する。
ドシャっという音とともにホーンラビットが倒れた。一応、もう1発準備してから倒れたホーンラビットに近付いていく。動く気配はない。
『今度は大丈夫でしたね、頭部を貫通しています。さすがに脳を破壊されると魔物でも生きてはいけません。少し動く可能性はありますが、攻撃してくることはないでしょう』
ホーンラビットの死体をポーチにしまった。フェシーは再び大森林に向かって飛び立っていった。




