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自分が描いたイラストの異世界に転移してしまった  作者: マホロ
第1章 隠遁(いんとん)

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第50話 最後の言葉

 ここに来てから359日が経過した。明日の朝にはここを出なくてはならない。日付が変わる前であれば何時でも良いのだが、夜にリデナ大森林に出るのは大変危険で自殺行為である。なので今日が最終日と言って問題ないだろう。


 すでに準備はできており、旅装に着替えれば出発することはできる。私は寝室の椅子に座り、机の上に据えてあるプロフェッサーを見ていた。359日もの間、私に知識を授け、いろいろな研究を一緒にやった存在だ。プロフェッサーをこの領域から持ち出すことはできない。この事実が私に重くのしかかっている。私は本を開いた。


「いろいろあったわね、長いようで短い1年だったわ」


『そうですね、貴女がここに滞在するのも今日が最後になります。明日の朝には貴女はここを出るでしょう。新たな冒険の始まりです。いつもの貴女のまま出発することを私は願っています』


 私の瞳から涙がこぼれ、プロフェッサーを濡らした。プロフェッサーの背中を押す言葉が温かい。そしてその言葉で、もっと一緒に居たい気持ちが膨らんでいく。叶わない願いだとわかっていたとしてもだ。


「そうね、笑顔で旅立ちたいわ。例えもう会えないとわかっていても、涙の別れにはしたくないわね……」


『はい、貴女はここに訪れた誰と比べても、研究熱心で一生懸命でした。失敗してもくじけず前向きに努力していました。私は貴女が私の事をプロフェッサーと呼んでいることは知っています。その名前を貰った時から私はただのインテリジェンスブックではなく、プロフェッサーとしての自我を得ました』


 私は少し顔が赤くなっているのを自覚した。やはり気づかれていた。でもプロフェッサーはそれに言及することもなく私と変わらず接してくれた。


「そう……確かにそのころから貴方の話し方は変化したわ。丁寧な話し方は変わらなかったけど、言葉に丸みがあるというか……文章なのに何を言ってるのかしらね」


『いつしか私にとって貴女はかけがえのない存在になっていました。私が言ってはいけない言葉なのですが、貴女と一緒に旅をしてみたい。貴女と一緒に研究を続けたい。そういう思いを持ってしまったのです。ここの管理者としては失格ですね』


 私は涙でプロフェッサーの言葉が見えなくなってしまった。その思いは私も同じだ。プロフェッサーと旅をしていろいろな街に行き、そしていろいろな研究を一緒にしたかった。まだまだ聞きたいこともたくさんある。話したいこともたくさんある。その思いが涙と共にあふれ出してしまった。


「私も同じ思いよ、貴方の知識は私に未来をくれたわ。そして何よりもの励みになったわ。孤独な時間を耐えられたのも貴方が支えてくれたおかげよ。貴方が人であれば私は恋に落ちていたと思う……プロフェッサー、大好きよ」


『ありがとうございます。ですが貴女がここを出れば私はインテリジェンスブックに戻ります。貴女が滞在した記録は残りますが、この感情を残すことはできません。ですが、貴女には私が存在したこと、そして私と貴女の思い出が残ります。どうかそれを忘れずに前に進んで欲しいです』


 私はプロフェッサーの最後の言葉で泣き崩れた。プロフェッサーの思いも理解した。でも今はこの思いに浸らせてほしい。これが最後の時間なのだから……


 私は泣き止むことができず、そのまま泣き疲れて眠ってしまった。





 目が覚めると私はベッドに横になっていた。窓から明るい朝日が差し込んでいる。椅子に座って寝てしまった私をプロフェッサーが移動してくれたのだろう。研究者としてどうやったか聞きたい気持ちもあるが、そこは言及しない。


「プロフェッサー、おはよう。今日もいい天気ね」


『ミオさん、おはようございます。リデナ大森林も快晴です』


 初めて名前を呼ばれた。少し驚いたが出発の準備を始める。衣装部屋に行き旅装の装備に着替えていく。少々重くなったバックパックを背負い、玄関から外に出た。


 いつもと同じように柔らかな日差しが降り注いできた。玄関の横に机があり、そこにプロフェッサーも移動してきていた。


「おまたせ、準備できたわ」


『いえ、問題ないようですね。では最後になりますが、ここに滞在した証として貴女に餞別があります。これはここに滞在した方が全て受け取るものなので、遠慮せずに受け取ってください。《開眼》』


 目に少し痛みが走った。


『目に少し痛みがあったと思いますが問題ありません。特殊能力の魔眼になります。種類はわかりませんが、きっとミオさんの役に立つものになります。使用するときは左目に魔力を集めれば使用できます。ここで使うと周辺の魔力が多すぎて焼き切れてしまうので、外に出てから確認してください』


「わかったわ、ありがとう」


『そしてこれは私からの最後の特別な餞別です。この後私は消えてしまいますが、気にせず外に出てください。今までありがとうございました。私もミオさんの事が大好きですよ』


 そう言い残すとプロフェッサーは光の粒子となって消滅した。それを確認した私は、外の世界に向かって歩き出した。もう私が振り返ることはない。


これにて第1章『隠遁』編が完結となります。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!


閑話を1話挟み明日からは、ミオが外の世界へと踏み出し、エンシェントドラゴンのヴェニカと遭遇する第2章『邂逅』編がスタートします。

新しい生活、そしてモノづくりが本格化するミオの活躍を、ぜひ引き続き見守っていただけると嬉しいです。


応援(ブックマーク・評価★)も引き続きよろしくお願いいたします!

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