第4話 この小屋は素晴らしい(風呂)
脱力とともにトイレの確認を終えて次は本命のお風呂だ。すでにお風呂の扉がプラスチック製のすりガラスになっている時点で諦めてはいる。お風呂は好きなので快適であればなんでも良いと思っている。扉を開けて中を見た瞬間に、私は言葉を発せざるを得なかった。
「はい!アウトーーー!!!」
自宅の風呂がそのままこの世界に来ている。中身もそのまま、いつものシャンプーやコンディショナー、ボディソープや洗顔料もある。私の自宅は一般的なマンションで使用されているシステムバスだ。風呂桶や椅子は磁石で壁に張り付いているし、剃刀などの小物も壁にくっつけている。
シャンプーとコンディショナーは自作だ。薬剤師の知識を生かしてアホみたいにこだわって作ったらアホみたいな値段になった。それが使えるのは嬉しいけど、それなら寝室も私の部屋と同じにしてくれと言いたい。言っても仕方がないので風呂に栓をして給湯器?のスイッチを入れる。
ピロン♪という音とともに液晶が光った。給湯温度は42℃になっているので、少し下げて40℃でお湯を張る。自動ボタンを押して様子をみる。給水口からお湯が噴出してきた。
(もういいや、風呂入ろ)
衣装部屋にタオルがあったはずなので取りに行く。ちなみにチェストは引き出しを開けると今必要なものが出てくるらしい、最初に下着が入っていた引き出しを開けるとバスタオルとハンドタオルが入っていた。便利だけどこの引き出ししか開けなくなりそうだ。
一応汚れないとわかっていても下着は替えたいので、タオルを取り出した引き出しを再度開ける。ちゃんとショーツとブラジャーが並んでいたが、私が普段使っている物だった。ああ、それはいらない、今着けてるやつと同じので良い、再度開けると先ほどの白一色の下着になった。
風呂が沸くまで時間もあるので、タオルと着替えをもって寝室に戻った。少し期待していたが部屋の様子は変わっていなかった。ベッドだけでも自分の物に変えてくれたら嬉しいのだが、ベッドに座り窓から外の様子を眺める。太陽がかなり高い位置まで来ていた。部屋を調べている間に結構時間が経過していたようだ。
(やっぱり空腹感はないわね……昨日の朝?から何も食べていないのに)
しばらくすると聞き慣れたメロディとともに「お風呂が沸きました。」という音声が耳に入ってきた。この瞬間だけは日本に居る気分になる。風呂に行くと湯船から湯気が上がっている。バスタオルと替えの下着を棚に置き、今着ている服は近くにあった籠に入れた。
(衣類の汚れはないだろうけど洗濯くらいはするか……洗濯機はさすがにないから、外に洗濯場があるのかな?)
風呂に足を踏み入れるとそこからはいつもの手順と同じだ。顔洗って、頭洗って、体洗って風呂に浸かる。
「はぁぁぁ~、やっぱり風呂は気持ち良いわ~」
10分程度お湯に浸かってから風呂から上がる。さっぱりした私は新しい下着を着けて、さっきまで着ていたワンピースを手に取ろうとした。だが入れたはずの籠には何も入っていなかった。
(今度は消えたかぁ……どうせ回収されて綺麗になってチェストに戻ってるんでしょ?そこらはこの空間に任せるわ……)
さすがに安全とわかっていても下着姿で本を読んだりウロウロする趣味は無いので、衣装部屋にワンピースを取りに行った。チェストを開けるとワンピースが畳まれた状態で入っているが、元の枚数なんてわからないので一番上のワンピースを取り出し着替えた。
寝室に戻り次に何をするか考える。本を読むか、外の様子を確認してみる。【魔法】の項目はもう読んだので外に出て少し試してみたい気もする。
『火属性』なんてのもあるし部屋の中で実験するのは少々危険だと思う。まあ小屋は破壊しても勝手に復元されそうな気もしているけど、私が危険なので部屋ではやらない。
髪をまとめて外に行く準備……髪をまとめるゴムなんか持ってない。さてどうしたものか、ショートボブとはいえ肩上まであるので動くには少し邪魔だ。どうしようか迷っていると机の上の本が勝手に開いた。開いたページには【小物】と書かれていた。
【小物】
机の引き出しに生活に必要な便利小物が入っています。滞在中は活用してください。また、この小物類は持ち出し禁止です。持ち出した場合は『領域』から出た時点で消失します。
そう、なら便利に使わせてもらおう。机の引き出しを開けると黒い髪ゴムが無造作に入っていた。後ろ髪をなるべく高い位置でポニーテールにしてゴムで留める。ハーフアップにしても良いが、活動するならこっちの方が良いだろう。
特に持っていく物はないので手ぶらのまま、開けていない扉の前に立った。たぶんこの扉が外への出入り口だろう。この小屋の周りはある程度の範囲が安全であると本に書いてあった。さっきの【小物】に書いてあった『領域』という言葉が、その安全圏を指しているのだろう。
外がどのようになっているか不安を覚えるが、小屋の近くに居れば安全と書いてあったのでそれを信じて外に出てみることにした。




