第36話 原初魔法のパッケージング
シェルターに作るトイレの設計がある程度完了した。後は実物を作りながら微調整をするしかない。まずは便器部分だ。構造は把握している。恒久的に使う物ではないので、多少作りが荒くても水漏れさえしなければ問題ないだろう。
鞄から適当な量の土を出してイメージしていく。土を硬く圧縮して水を通さないようにする。表面には汚れが付かないようにコーティングを施し、満遍なく広がり水流が渦巻くように排出口を調整する。タンクには最大8Lの水が入るように、そして排水タンクに続くトラップ構造を入れる。便座は私しか使わないので固定で問題ない。
「くっ、日本のトイレは叡智の結晶ね、構造が複雑すぎる……」
後で接合するのも面倒なので排出タンクも作ってしまう。トラップの下2mにキリの良い大きさで40cm×40cm×50cmの空間、そこにパイプをつなぐ。タンクの上部から細い管を数本地上にまで延伸する。
「とりあえず、部屋の端でいいわね、発動」
一瞬にして茶褐色のトイレが完成した。土の色だが表面は滑らかにコーティングされている。貯水タンクに500mlほどの水を入れてみる。便器に水が溜まっていく。周りを確認してみるが、水漏れしている様子はない。さらに水を足して水位を安定させた。
「これで実験の準備は完了ね、後は一気に6Lの水を流して溢れないか確認しないと……」
少量の土を便器内に投入し水を汚しておく、タンクに6Lの水を流し込む、ジャーという音とともに水が流れ出した。水流も満遍なく広がり渦を巻いている。サイフォン現象が発生しトイレ洗浄時特有のゴポゴポと音が鳴った。その音もなくなると便器の中には、綺麗な水が溜まっていた。
「成功かしら?後は長時間置いて水漏れがなければ問題ないわね……」
今度はトイレの個室作りだ。大きさは幅0.9m、奥行きは1.8m、高さは2.5mでいいだろう。あまり広すぎても落ち着かない。この一番奥に先ほど作ったトイレを設置する予定だ。
「あれ?この個室も同時に作れば良かったのでは?……もう少し手順を落ち着いて考えればよかった……」
現在トイレは耐久テスト中なので、いったんトイレから思考を切り替える。空気循環の魔道具を設置した時に、地上に上がって課題を見つけた。それをどうするか考えてみる。
この空間は地下に存在する。そして地面をくり抜いて、その上に蓋をした。もともと地上部分には草が生えていた。つまり、3m四方で土が露出しており、草が生えていなかった。不自然である。
「さて、どうしたものかしら?自然な植生を再現する魔法なんてあるの?」
『残念ながらございません。植物の成長を促進する魔法は存在しますが、種か苗が必要ですし、成長も微々たるものなので偽装には向きません』
そうなると自分が入る部分だけを垂直に掘って、そこにタラップを作れば60cm四方程度の露出で済むはずだ。3m四方の土の露出よりは幾分ましだろう。
「わかったわ、それと質問なのだけど、この空間を作るときに複数回、原初魔法を使ったわよね。これをまとめて一つのキーワードで行使することは可能なの?」
『それぞれの作業にキーワードをつけ、それを一連の作業として一つのキーワードにまとめることで、一括処理が可能です。これはオリジナル魔法と呼ばれるものです』
都度イメージせずにキーワードとして扱い、その作業をパッケージングして一括処理をする。野営用のシェルターを作り出す魔法を考える人は、たぶんいないだろう。確かにオリジナル魔法だ。
「細かい修正がある場合、どうやって対応するの?」
『魔法行使前に修正箇所を設定することで対応します。例えば通常の設定が深さ4mだったとして、深さを5mや6mに変えたり、部屋の広さを一辺3mの立方体から、高さ以外の平面を5mにしたりするなど、自在に変更が可能です』
なるほど微調整はできる。拡張したければ一度作ってしまい、後から内部でゆっくり作業しても問題ない。地下野営シェルターを入口、居室、化粧室、トイレ、換気システムの5つに分けて設計していくことにする。
最初は入口だ。キーワードは《地下野営シェルター入口》で問題ないだろう。60cm四方で深さ4mにして、タラップを設置する。そして壁やタラップを硬化して固定。硬化の度合いもステンレス鋼と同等まで上げる設定にしておいた。
「ところで、オリジナル魔法に生活魔法や属性魔法の使用を混ぜることはできる?」
『可能です。使用する魔法の定義を組み込んでイメージしていただければ、何ら問題ございません』
次にメインの部屋を設計する。キーワードは《地下野営シェルター居室》にする。ここは今後家具を持ち込むつもりなので、一辺3mの立方体の空間を作るだけにしておく。壁や天井の硬化作業も忘れないように設定。化粧室も同じように空間のみだ。キーワードは《地下野営シェルター化粧室》で、先ほど考えていた幅0.9m、奥行きは1.8m、高さは2.5mで問題ない。他と同じく壁面は硬化しておく。
トイレは先ほど設計したのでそれを使う。換気システムを少し考えがあるので後にした。これで地下野営シェルターに必要なパーツがそろった。




