第29話 魔導回路の構築
認証用の魔導回路が完成した。これを拡張の鞄に入れておけば、私しか解錠ができない拡張の鞄になる。登録用の魔石に別の人の魔力を充填すればその限りではないが、そんなことをするつもりはないし、誰かにさせるつもりも毛頭ない。
それに拡張の鞄の中にこの回路を入れておけば、空間拡張の魔法が自動的に回路に魔力を流し、魔力の放出をもって解錠処理してくれるのはとても都合が良かった。外部に露出させないと動かないようでは、セキュリティとして一歩劣ってしまう。
どうやってその仕組みを確立しているかは気になるところだが、そこまで解析するのは流石に時間が足らないし、解析できるとも限らない。時間の無駄である。
「さて、まずはこの回路の動作確認ね、魔力放出の検知はお願いしても大丈夫かしら?」
『承知いたしました。回路からの魔力放出の確認は、わたくしが行わせていただきます』
魔石に魔力を充填する。炭化ケイ素の板に貼り付いた魔石が鈍く赤く輝いた。そして魔導回路の起点に魔力を流した。
「……どう?魔力は放出された?」
『いいえ、魔力の放出は確認されませんでした。回路を確認します。もう一度魔力を流して下さい』
もう一度魔力を流してみる。
「……何かわかった?」
『魔導回路の途中が断線しているようです。もう少し回路を深く刻まないと魔導インクが全体に行き届かないようです』
「そう、この回路の断線している部分を深くすれば大丈夫?」
『いいえ、一度定着させた魔導回路を加工することはお勧めできません。魔導回路の不具合のもとになってしまいます。再度新しく作り直すことを強く推奨いたします』
「あれをまたやるのね……私の力だとどうしても刻み込みが浅くなっちゃう。何か解決方法はない?」
『身体強化の魔法はいかがでしょうか?魔力で部分的に筋力を強化する魔法です。発動自体は簡単なのですが、万遍なく筋力を強化しないとバランスが崩れ、かえって筋力が落ちてしまいます。一部の強者はそれを自然とやっているようです』
確かに一部の筋力だけを強化しても周りの筋肉や、それを支える筋肉などが弱ければ意味がない。幸い私は薬剤師なので、体の構造などはすべて学習済みだ。もちろん筋肉の構造なども知っている。
新たな炭化ケイ素の板を用意して、右手の指先から順次筋肉を強化していく。このとき、骨や腱の強化も忘れずに行っておく。右側の広背筋あたりまで強化したところで、バランスがとれている感じがした。右腕を見てみると筋肉質な腕になっていることが見て取れる。
ケガキ針を使い、炭化ケイ素の板に魔導回路を刻んでいく。先ほどよりスムーズにそして深く掘れている。
「おお、力が強くなるってこういう感覚なんだ……」
少しの驚きとともに魔導回路の刻み込みが進んだ。先ほどより短い時間で魔導回路が完成したので、身体強化の魔法を停止した。登録用の魔石を貼り付け、魔導インクの定着も問題なくできた。
「ふう、これで問題ないかな……あとは検証ね、魔力放出の検知をお願いするわ」
『承知しました。では、魔力を流してください』
ゆっくりと魔導回路の起点部分に魔力を流した。認証が完了することで動作する魔導回路が鈍く光っている。
『魔力の放出を確認しました。魔石への充填も良好です。放出されている魔力も貴女の物で間違いありません』
「ありがとう。これで魔導回路は完成ね、あとは実際に空間拡張された場所での確認だけど……鞄の用意はまだないから、何か蓋つきの容器で代用しよう」
備品棚から大きめのプラスチックボトルを取り出した。まずは容器に《ディメンションプラス》する。1立方メートルで十分だろう。そこにボールペンを入れてみた。半透明のボトルなので通常であればボールペンは見えるはずだが、影も形もない。次に作った魔導回路を入れる。そしてケースの蓋を閉めた。
「これで準備は完了ね、まず魔力を流して蓋を開けよう……」
魔力を流しながら蓋を開ける。ケースに手を入れてボールペンをイメージする。すぐに手の中にボールペンが現れた。拡張された空間から物品を取り出すことに成功した。ボールペンを作業台の上に置き再び手を入れる。今度は魔導回路の板をイメージする。これもすぐに現れた。
「問題ないわね、次は鍵がかかった状態にしてみよう……」
そのまま魔導回路を拡張空間に戻して蓋を閉める。魔力を流さないで蓋を開ける。手を入れて魔導回路の板をイメージしてみたが変化はない。今度はボールペンをケースの中に入れてみる。コトっと音がしてボールペンがケースの底に触れた。蓋をして確認してみると、ケースの中にボールペンがあるのが確認できた。
「よしっ!成功ね!予想通り魔力を流さなければ通常の容器として使える。あとは……」
再び魔力を流して蓋を開けてみると、ケースの中からボールペンが消えた。手を入れてイメージしてもボールペンは現れなかった。これは拡張空間が現れたことにより通常空間が上書きされたことを意味している。推測では蓋を閉めれば再びボールペンが現れるだろう。私はさらに検証を続けた。




