第28話 空間拡張魔法の拡張
自分専用の鞄を作り始めて約3か月が経過した。ここに来て270日が経過したことになる。この3か月は自分専用の鞄を作ることに夢中だった。いくつもの容器に《ディメンションプラス》を行使し、様々な容量の空間拡張を試した。本によると1立方キロメートルが限界とのことだ。それでも私個人で持つ鞄であれば充分である。
どの程度の体積であるかは理解できるが、実際にどの程度の荷物が入るのかと言われると表現することは出来ない。
「拡張の鞄に、この拡張容器は入れられないのよね……」
『おっしゃる通りです。拡張された空間同士が干渉するので、拡張空間の内部に拡張空間を入れることは出来ません』
こんな会話をした記憶があった。そのため拡張容器はすべてラボの廃棄ボックスに処分した。
他にも拡張の鞄に付加する機能として、物品の整理を行う機能を考えた。入れたものを覚えていればすぐに取り出すことはできるが、忘れてしまった場合は探す必要がある。この時に必要になるのが、物品のカテゴリーによるフィルタ機能だ。カテゴリー指定やキーワード検索、ソート機能などを候補とした。意外にもこれは簡単に実現できた。
「私は何もしてないのにできたわね……どうして?」
『本来、空間拡張の魔法には高い検索機能が備わっています。取り出したい物品をイメージすることで物品を簡単に取り出せますが、これは「キーワード検索」と同等の機能です。他のカテゴライズやソートも本来の機能の一部となります。要は使用者のイメージ次第で柔軟に物品の検索ができるのです』
触れた物を収納する能力も空間拡張の魔法に備わっていた。あとは、取り出せる距離の限界を確認するくらいだった。自分を中心に最大3m程度の位置に出すことができた。
やはり最大の壁は認証機能だった。本に手伝いを頼みながら少しずつ構築していく。個人を認証するために必要なキーは魔力だ。この魔力は個人ごとに唯一であり双子であっても似てはいるものの同じではない。そしてこの魔力を確認するためにどうしても必要なのが魔導具で使われている魔力回路だ。
自分専用の鞄を作るために費やした時間のほとんどがこの魔導回路の作成だった。魔道具庫にある現代の魔道具を分解し、簡単な回路から学習していった。魔導回路はプログラムのようなものだった。私はPCを扱うことはできるが、複雑なプログラムを組むことはできない。学生時代に簡単なものを習っただけだ。
ただ、今回の認証は意外にシンプルなものだった。使用者の魔力を読み取る。登録された魔力と同じか確認する。同じであれば鍵を開き、違えば何もしない。現代の魔道具だけでなく古代文明の魔導回路を見せてもらい、今回使用する回路に必要な部分だけを学習していった。魔導回路のすべてを学習するには時間が足りない。
「魔導回路の簡単な仕組みはわかったけど、どうやって回路を作ればいいの?」
『一般的には、魔石を細かく砕いて作った魔導インクを使い、金属の板に回路を描きます。そこに魔力を注入することで回路を金属の板に定着させます。これで回路は完成です。起点となる部分に魔力を注入すると回路が動作するようになっています』
今回使う回路は主に3つ、登録された魔力と同じか確認する部分と、魔力を放出して鞄の解錠を行う部分、それと魔力が違った場合に無力化する部分だ。魔力の放出が確認されれば、空間拡張の魔法が自動的に解錠を行ってくれる。これは鞄を開けたり、容器の蓋を開ける行為と同等だ。そして魔力が違った場合、確実に無効化できれば問題なく機能するはずだ。
回路を定着させる板として、今回は炭化ケイ素の板を使用した。この領域にある物質で結合の魔導具を使用すれば簡単に生成でき、高耐熱性、耐薬品性、耐酸化性をもつ高性能セラミックスだ。
「ねぇ、魔石か魔導インクは用意できるの?」
『両方とも用意することができます。貴女が魔石から生成した方が純度の高い魔導インクが作れますが、今回の回路はシンプルであるため汎用品の魔導インクで問題ありません』
「それと、私の魔力を記憶させるための魔石が必要よね?それってどうやればいいかわかる?」
『魔石に魔力をためるための加工が必要です。ですがこれも汎用品があるのでそれで問題ないです。ただ認証時に少しずつ魔力が減ってしまうので、認証成功時に魔力を充填できるように回路を組むことをお勧めします』
寝室に行き机の引き出しから方眼紙とボールペンを持ってくる。ついでに短い定規も用意してもらった。ラボに戻ると回路を方眼紙に書いていく。回路がシンプルなので比較的簡単に書くことができた。
次に炭化ケイ素の板に回路を刻む作業だ。これが大変だった。炭化ケイ素はとても硬い素材だ。ケガキ針を用意してもらったが、すぐに先がつぶれてしまう。そこでダイヤモンドパウダーを生成してケガキ針の先に接着した。後で使うので接着剤も結合の魔導具で作っておいた。
登録用の魔石を貼り付け、回路に魔導インクを流し込む。魔法で定着させたら完成だ。




