第121話 ドラゴンの背中
ヴェンティスの屋敷でエルダートレントの採取に必要な準備を整えるため、執事長のエドワードさんと相談することにした。基本的にはヴェニカに任せて、私は補足していく形になる。通された応接室のソファーにヴェニカと私は座った。エドワードさんは立ったままヴェニカの言葉を待っている。
「エドワード、座ってくれいくつか聞きたいことと相談がある」
「承知いたしました。……それでは、失礼いたします。」
エドワードさんは私たちの正面に座った。そのとき部屋のドアがノックされた。
「失礼いたします。お茶の用意が整いました。ただいまお持ちしてもよろしいでしょうか」
「入れ」
ドアが開かれて、ポットや茶器が乗ったワゴンをメイドさんが押して入って来た。テーブルの横で止まるとお茶を入れる準備を始めた。
「先に紹介しておく、私の客人でミオだ。丁重にもてなしてやってくれ……さっそくだが、ここでは何人が働いている?」
「執事はわたくし1人のみでございます。メイドは、ただいまお茶の準備をしておりますメイド長のテレーザ、ほか2名が務めております。また、厨房を預かる料理人が1名控えてございます。
そのほかに、交代制で警備に当たっている者が3名、門番が2名。庭の管理などは、わたくしたちが職務の合間に交代で執り行っております」
「わかった。私はあまりここを利用しないが、これからも頼む」
「畏まりました。万事、わたくし共にお任せくださいませ」
「ここからが、本題だが。これから我々はリデナ大森林にエルダートレントの調達に向かう。ここから飛び立ち、ここに戻ってくる予定だ。出発するときは良いのだが、戻ってきた時についてだ。一時的に調達してきたエルダートレントを庭で預かってほしい。確か私の離着陸用の広場があったはずだ。そこに置いておくので引き取り手が来るまで管理を頼みたい」
「承知いたしました。お戻りは、いつ頃を予定されていらっしゃいますでしょうか。ご帰宅に合わせて、滞りなく準備を整えておきたく存じます。
また、お品物の引き取りにつきましても、手配先がお分かりであれば私共で全て執り行わせていただきますが、いかがでしょうか」
「戻るのは明日の午前中を予定している。引き取り手は、グランバレル工房になる。親方のバルカス殿に連絡を入れれば引き取りに来るだろう。ミオと、ヴェンティスではなくヴェニカの名前で頼む」
「承知いたしました」
「せっかく入れてもらったお茶だ。飲んでから出発するとしよう」
いつの間にか配膳されていた紅茶を飲む、香りが高く仄かに甘みを感じる紅茶で、砂糖がなくとも十分楽しめるものだった。
「すみません。お手洗いをお借りしたいのですが、どこでしょうか?」
「ご案内いたします。こちらにどうぞ」
壁際に控えていたメイド長のテレーザさんがトイレに案内してくれた。朝から少しお腹が痛くなっていたので、月の物が来るのだろう。自分で作った避妊薬を飲んでいるので、ヴェニカに聞いた通りであれば月経痛が抑制されて、出血も抑えられるはずだ。布ナプキンも準備して部屋に戻った。
「戻ったか、なら出発しよう」
「離着陸用の広場へご案内いたします。どうぞ、こちらへお運びくださいませ」
玄関と反対側の庭に60m四方の広場があった。石畳で舗装されており、ここが離着陸用の広場だとわかる。正面の壁の向こう側には私たちの新居も見えていた。
「エドワード、テレーザ、ご苦労だった。ドラゴンに姿を変えて不可視になるので危険だ下がっていい」
「畏まりました。それでは、お気をつけていってらっしゃいませ」
「さて、まずは不可視になる。次にドラゴンの姿になって尻尾をミオの手に乗せる。手を前に出しておいてくれ。尻尾に触れば私の姿が見えるようになるはずだ。フェシーは飛んでついてきた方が楽だろう」
「わかったわ」
ヴェニカは広場の中心に行き立ち止まった。姿が少しブレたかと思ったら見えなくなった。目の前に大きな気配が現れるが、最初に出会った時のような圧迫感はない。
『手を前に出してくれ』
言われたとおりに手を出すと何かが触れた。その瞬間、目の前に大きなドラゴンに戻ったヴェニカが現れた。金色の目が私を見ており、エメラルドグリーンの鱗が朝日に輝いていた。
『尻尾に跨ってくれ、首元まで運ぶ。しっかり掴まるようにな』
尻尾に跨り、しっかりと掴まる。私が両手で抱えてやっと届くような太さだった。首元まで運ばれてそこに降ろされた。ヴェニカの背中はとても広かった。
『そうだな、首の付け根に座る形でいいじゃろう。それとも頭の近くに座るか?』
「行きは首の付け根でいいわ。帰りに頭の近くに乗せてくれる?」
『いいぞ、座ったら近くの鱗と鱗の間に手を入れて掴まってくれ』
近くの鱗の隙間に手を入れて掴まった。これで準備完了だ。
「飛んでくれていいわ」
『わかった、風のシールドをかける。では行くぞ』
ヴェニカは勢いよく空に向かって飛び出した。かなりのスピードで舞い上がっているがそこまでの荷重を感じない。これも風のシールドの効果なのかもしれない。私とヴェニカの空の旅が始まった。




