第12話 魔法研究と製薬の日々(魔法製薬)
今では研究室の棚に数百本のポーションが保管されている。失敗作を破棄してもこの本数になってしまった。一級品が多いが、二級品や三級品も存在する。一級品は抽出率90%以上で、最大99%に達する。二級品は70%~89%、三級品は50%~69%となっている。本曰くなので目安として受け取っているが、流通しているのはほぼ三級品らしい。
このポーションだが使用法と効果を本で確認してみたところ、なかなか面白い。基本的な使い方は傷口にかけるか、飲むかだ。傷口にかけるとその傷口を修復する。小さな傷であればすぐに治る。それに飲用することで体の内部にある傷も修復可能である。修復される傷がどの程度なのかはあいまいだったが、それでもすぐに治るのは驚異的だ。
それといくつかの効果が違うポーションが存在する。作り方は使用する薬草が違うのと、手順にいくつか追加があるくらいだ。すぐに製薬する必要はないだろう。
半月を費やして一級品のポーションを作れるようになったが、成果の大半はこの研究ラボのおかげである。《ドライ》での乾燥と、《ウォーム》による加熱攪拌で高確率で二級品は作れる。ただ分離の魔導具がないので、一級品は無理だろう。
そこで考えたのが魔法での成分抽出だ。どのような形で薬効成分が抽出されるか分からないが、成功すれば一級品も製薬可能になるだろう。
さらに30日が経過した。この世界に来て60日が経過したことになる。魔法による製薬は未だに成功していない。乾燥した薬草から魔法を使って成分の分離を試みているが、上手くいっていない。確かに不純物の除去などは浄化魔法などを使ってできているのだが、成分の抽出ができないのである。
魔法の要素は無いが、水の代わりに食料棚にある油や、お酒を使って試してみたがそれも失敗だった。お酒から分離の魔導具を使ってアルコールが抽出できたのは収穫だった。
近頃の私は本に向かって話しかけている。ある程度こちらの思考を読み取っているのか、適当に本を開くと必要な情報が記載された部分が開く。なら、話しかけても同じことだろう。それに誰にも会わない領域で、何日も喋っていないと言葉を忘れそうだからだ。
ただ、客観的に見れば本に向かって話しかける、気味の悪い女が爆誕していることになる。
話しかけるようになってからだろうか、本を開いたときに記載されている文章はだんだん質問に的確に答えるような内容になってきている。まるで本が自我を持っているように感じた。
「ねえ、何か薬効成分の抽出に効果的な魔法はないの?」
『ありません』
本を開くと無慈悲な答えが返ってくる。もう何日もこのやり取りを繰り返している。本の言う通り、成分の抽出を行う魔法がこの世界に存在するとは思っていない。ただ、原初魔法を使えば可能性はあると思っている。成功していないだけだ。
分離の魔導具を使えば、加熱抽出された成分が水分と共に出てくる。不純物を除いた状態でだ。当たり前だが、分離の魔導具を使うときに真ん中にある回路にどういう分離をするか、魔力を込めながら指示している。かなりあいまいな指示でも分離はできていた。
「薬草ってそのまま食べても効果はあるの?」
『あります。ただしポーションのような強い効果は見込めません』
抽出することで濃度を高めて、魔力で増幅する。たぶんこれがポーションだろう。そのまま食べても効果があるのは、この世界の人は体内に魔力を持っているので、その魔力と薬草に含まれる成分で微弱だが効果を発揮しているのだと思う。
(科学的にやろうとするのが間違いなのかな?でも加熱抽出は科学的よね?)
もう一度、分離の魔導具を使ってみる。この魔導具は、液体の分離に特化している。分離したい液体をセットする場所と、分離後の液体が出てくる場所、残りの液体が出てくる場所、計3か所に容器をセットする。そして分離する内容のイメージを回路に魔力を込めながら指示する。すぐさま反応して液体が分離される。これだけだ。
「やっぱり訳が分からないわ。なんなのこれ?」
『古代文明の魔導具です。名称は分離の魔導具になります。効果は……』
「知ってるわよ……」
ここを出るまでまだ300日ある。でも300日しかない、何とか魔法と今流通している魔道具だけでポーションを作りたい。すでに自分がイラストを描いた小説の世界であることはどうでも良くなっていた。主人公とヒロインが魔物を討伐したり、イチャイチャしながら旅をするそんな話だ。魔法やポーションの話もあるが、細かいプロセスなんか描かれていなかった。主人公たちに会ってみたいという気持ちは残っている。
この一か月間ポーションの製薬研究ばかりやってきた。さすがに煮詰まってきているので、少しくらい別の事をやっても問題ないかもしれない。気分転換は必要だ。ちょっとだけポーションの魔法製薬から離れてみることにした。何をしてみるか考えてみる。私はイラスト描いたりするより科学実験をする方が好きらしい。




