第109話 魔導力線
作り終わった洗浄便座の動作確認をしようとしていたが、ヴェニカの期待する目に負けてしまった。見ていたから知っているとは思うが、説明をしておく。
「と、まあ、操作方法はこんな感じね。後は実際に使ってみてちゃんと動くか確認してみて」
「わかった。やってみるぞ」
動作検証はヴェニカに任せて別の作業をする。買ってきた鉄インゴットを純度の高い鉄インゴットに変えていく。残った不純物も保管しておく。大部分が二酸化ケイ素などだが、少量のクロムやニッケルが入っていることもあるので破棄はしない。
薪から炭素を取り出し、高純度の鉄と結合させ低炭素鋼を作成していく。ここから魔導針金を作るつもりだ。まず魔石を粉末にする。自力でやっても良いのだが、魔石の効果がなくなっても困るので結合の魔導具を使って分解し、粉末状に再構成する。魔導具が良い塩梅にやってくれるだろう。
粉末状の魔石と低炭素鋼を素体として、魔導針金を作成する。直線で排出することはできないので、コイル状にして排出する。直径は1.2mmとして魔石の配合率はこれも魔導具任せだ。出来上がった魔導針金の長さは約120mほどあった。これだけあれば当分困ることはないだろう。
「動作確認が終わったぞ。問題ないじゃろう。自分で魔法を行使するときと何ら変わりがないように感じた」
「通信が切断されたり、変に長く続いたりすることはなかった?」
「それも見ておったが問題があると思えなんだ。魔石に触れてから水が出るまで、若干の間があったが、自分で行使してないのでそんなもんだろう。2秒以内には発動するので問題ない」
ラグがあるのは放射魔力が広がる速度の問題だろう。これを速くすることはできないので、2秒以下で反応するのであれば現状は最良の結果とみて問題ない。
後は外装を作れば良いだろう。基本の外装は、炭化ケイ素の板にリムストで薄くコーティングする。パネルの表面は魔石の粉末を混ぜたリムストのコーティングに変えることで、どこに触れても魔力が吸収されるようにする予定だ。
「なら、トイレに関してはこれで終わりね、後は新居に実際に設置するとき再度調整するわ」
「何か作っていたようだが、なにを作っとったんじゃ?」
「新しい魔力線ね、基本的な仕組みは今までのものと同じだけど、細くなってるわ」
コイル状に巻かれた魔導針金をヴェニカに見せた。
「ほう、これはすごいのう。こんなに細くて柔らかいのに折れたり、切れたり、しないのか……」
針金をイメージしていたので、細々な処理をしたうえで結合の魔導具が製品化してくれたようだ。面倒な熱処理などをしなくていいのは助かる。後は被覆が必要かどうかだ。魔力線が交差した場合に短絡して違う魔力線に魔力が移ってしまうのかを調べたい。
結果から言うと、魔導回路と接合した部分からしか魔力が外部に漏れることはなかった。要は魔力線同士が接触しても短絡しないのだ。その代わり、分岐する場合には必ず魔導回路が必要となる。
「後は効率の良い魔力タンクも欲しいわね……何か良いものはない?」
『魔力タンクですか……魔力を溜める性質があるのは、現在のところ魔石のみです。聖銀も魔力を含んでいますが、溜めているというほど量はありません』
「そう、これもすぐに解決しないといけない問題ではないから、そのうち考えましょう」
「さて、検証も終わったし今日は帰りましょう。このシェルターも引き払うわよ」
リムスト製のトイレは分解されないため、されるとしても長期に及ぶと考えられるので地中には埋められない。なので持ち帰ることにした。シェルターを片付けて私たちは宿屋に戻った。
数日後、新居の建築現場を見に行ってみた。すでに1階部分の柱が立てられており、壁部分にブロックを積む作業をしていた。
「もう形がわかるくらいになってますね」
「おう、嬢ちゃん来たな。一部床板を張ってみたから見てくれ」
千釘工房のバリムさんに声を掛けられたので、床板を見に行く。玄関になる予定の場所から1段上がった部分に床板が貼り付けてあった。
「こんな感じでどうだ?基本的には問題ないと思って作業は続けているが……」
「ええ、床下に支えのブロックも入っていますし、床板も問題なさそうですね」
「そうか、ならこのまま続けさせてもらおう。それと、キッチンだが周辺は石板にさせてもらうぞ、さすがに火を使う場所を板張りにはできんからな」
「もちろんです。なんなら竈と水場は一段下げて工房とかと同じ高さにしてもらっても良いです」
「わかった。そうさせてもらおう」
「1階部分ができるのは、後何日くらいかかります?」
「そうだな、壁積みに入っているから5日から6日ってとこだろう。内装側の壁も、となると9日程度だと思う」
「わかりました。壁に使用しているブロックをいくつかいただけます?」
「いいぞ、あまりたくさん持ってかれると困るが、10個程度までなら好きに持っていって大丈夫だ」
「ありがとうございます。今日はこの辺で失礼しますね、また来ます」
「わかった。いつでも来てくれ」
バリムさんにお礼を言って現場を離れた。外に出る途中で、壁積みをしている職人さんに声をかけてブロックを6つほど貰って帰った。




