第108話 技術革新の種
ドリュス・マテリア工房のガドルさんに魔力線の現状を確認できた。今の状態であれば急激な技術革新は毒になるだろう。一度新しい素材を渡して、それで試してもらい自然に技術革新が進むのを待った方が良いのかもしれない。照明の魔導具も渡したから魔道具の進歩も少しは促せるだろう。
「わかりました。技術的に厳しそうですね……ガドルさんも魔力線を作ることはできますか?」
「鍛冶場はあるから可能だ。鉄を溶かすほどの温度は出ないがな」
「ちょっと試してほしいインゴットがあります。これで魔力線を作ってください。幅は5ミリグ、厚さは1ミリグです。厚さについては2ミリグ以下であれば問題ありません」
「そんなに薄くすると簡単に折れるぞ?それでもいいのか?」
「はい、かまいません。インゴットはこれです」
昨晩、結合の魔導具で作った「低炭素鋼」だ。炭素を0.15%配合したものだ。配合率はフェシーに聞いた。これであれば薄くしてもある程度強靭な魔力線になると思う。使いやすいように複数個に分けて作っておいた。
購入した鉄インゴットは不純物が多く、10kgほど購入したのに作れたインゴットは1kgが6本だけだった。帰りに職人街の店で鉄の追加購入を考えている。
「わかった。やってみよう。焼き入れや焼き戻しは必要か?」
「必ずやってください。温度などは私は素人なので、ガドルさんにお任せします。いくつかあるので失敗しても構いません。インゴットが足りないようであれば、翡翠風詠館の212号室に伝言をお願いします」
「わかった。完成した時も伝言を入れよう」
「お願いします」
照明の魔導具代である金貨5枚を受け取って工房から出た。種は蒔いたので、これでどこまで技術が進むかだけだが、今回の新居には間に合わないだろう。照明の魔導具と魔力線は自前で作った方がいいかもしれない。
午後から昨日作成したリムスト製のトイレの様子を見に行った。隠蔽してある入口を開けて中に入りトイレの周りを確認する。特に水が漏れている様子はなく、封水の量も減っていない。
「トイレの作りは問題ないわね、魔導具を設置して調整してみようかしら……」
「上手くいけば新居に設置すんじゃろ?楽しみじゃ」
「そうね、ここで作ったものをそのまま使うわけじゃないけど、ほぼ同じものを付けることになるわね」
まず、便器側に取り付ける魔導具を作成する。これは、放射魔力を感知したらスイッチが入り、魔力線を通して供給された魔力で各種魔法を発動する魔導具だ。
《ウォッシュシャワー》と《ウォッシュシャワー・ビデ》を発動するものには、停止用の放射魔力を感知するまで連続で動作するようにする。《ウォータドライ》は1度きりの発動にする。
魔導回路を定着させる魔導基盤の大きさは10cm四方にした。魔石を四隅に配置して、感知回路を作成する。次に発動の切替回路を作成、《ウォッシュシャワー》と《ウォッシュシャワー・ビデ》は開始信号を感知すると魔力を流し、停止信号を感知すると魔力を遮断する。《ウォータドライ》は信号を感知すると魔力を流してすぐに遮断される回路にした。最後に魔法発動回路を作成して完成だ。
「これを貯水タンクの横に設置して魔力線を繋げるようにすれば問題ないわね。実際は壁から魔力線を伸ばす必要があるけど、今は仮設置だからこれでいいか……」
魔力線は、魔石を嵌める突起を作った短いものにしてある。魔石を嵌めて魔導基盤を手に持ちトイレに座った。《ウォッシュシャワー》の感知回路に魔力を流すと、魔法が発動した。発動位置も問題なく、正常に動作している。停止回路に魔力を流すと魔法が止まる。
次に、《ウォータドライ》の感知回路に魔力を流し、濡れた部分の水分を除去する。これも問題なく動作した。続けて《ウォッシュシャワー・ビデ》も動作確認をして、全ての回路が正常に動くことが確認できた。
今回はまだ仮の設置なので、貯水タンクに魔導基盤を立てかける台を作りそこに置いた。新居に設置するときは魔導基盤を隠すような蓋も作りたい。
「次は操作パネルね、触れると魔力を少量吸収する回路って作れる?」
『可能です。魔石に触れることで魔力を吸収し、吸収した魔力を溜めたり、回路に流すことができます。イメージレベルで十分作れる回路です』
操作パネル用の魔導基盤を作り出す。大きさは12cm×5cmにしておく。魔石を4つ配置して触れると魔力をごく少量吸収し、その魔力が回路に流れるように魔導回路を作った。
切替回路は少し工夫をして、魔力線を通して供給された魔力に、吸収して流された魔力を統合する。その中に含まれる魔石の情報で《マジックシールド》のトンネルを形成するようにした。これで《マジックシールド》の魔法発動部分は1つにできる。
短く飛び出た魔力線の端に魔石を嵌めた。壁にパネルを置く台を作って、これで準備ができた。後は動作確認をして完成となる。動作確認しようとすると私の前に目をキラキラ輝かせてこちらを見ているヴェニカがいた。




