第106話 魔力の無線通信
同種族の魔石を使うことで、同種族であれば違う個体の魔石も認識はできそうだ。だが、一度認識した魔石の記録をどうするかが思いつかない。同じような仕組みは認証の魔導具で実現しているが、これはあらかじめ魔石に個人の魔力を注入しているので可能となっている技術だ。
「また大きな課題にぶつかったわね……1つずつ解決していくしかないのだけど……」
「同種族とはいえ違う個体の魔石を使ってるから認識できんのじゃろ?同じ個体の魔石を使えば良いのではないか?」
「それって、魔石を割って使うってこと?そんなこと可能なの?」
『魔石は形が整っていれば使用可能です。今回使用する魔石も1cm程度の小さなものですが、形さえ整えれば5mm程度でも魔石として使用できます。それに魔力を溜める必要もないので極小で問題ありません』
「そうだったのね、割ったら使えなくなるイメージしかなかったわ。加工は可能?」
『ええ、私が加工できます。やってみてもよろしいでしょうか?』
フェシーに頼み、ホーンラビットの魔石を2つに割って加工してもらった。風魔法を使っているようで、綺麗な形に研磨され整えられた2つの魔石が完成した。
「おお、寸分違わず同じ大きさの魔石になったわね、小さいけど」
魔石が出来たので魔導回路のイメージを構築していく。魔石から注入した魔力を使い、同じ魔石を探す。そこに向けて《マジックシールド》のトンネルを形成して、繋がったら、トンネル内に魔力を放出する。送信側の魔導回路を炭化ケイ素の板に定着する。
「エングレイブ・サーキット」
受信側は、魔力を感知したら光るような簡単な魔導回路にして作成しておいた。
「これで準備ができたわ」
受信側の魔導具をテーブルの上に置いた。その隣に光る魔導具を置く。これで上手くいけば《マジックシールド》のトンネルを形成した受信側の魔導具のみが光るはずだ。少し離れた場所に立ち、送信側の魔導具に魔力を注入する。《マジックシールド》のトンネルを形成するために魔力が必要なので多めに注入していく。受信側の魔導具だけが光った。
「成功ね、ヴェニカ、間に立ってみて」
「こうか?」
ヴェニカに間に立ってもらうと受信側の魔導具の光が消えた。人の身体は流石に透過できないようだ。
「なるほど、私の身体が邪魔をして《マジックシールド》のトンネルが塞がったのじゃな、移動したら……また光ったな。ふむ、ならこれではどうだ?」
どこからか木の板を取り出して、送信側と受信側の魔導具の間に差し込んだ。受信側の魔導具の光が消えることはなかった。
「ある程度のものは透過できるようね、これはどうかしら?」
土の壁を作り出してみる。厚さは20cm程度だ。それでも魔導具は光ったままだった。人の身体のような魔力を多く含む物体は透過できずに、魔力を含まないものであれば透過が可能なのだろう。まあ、あまりにも分厚ければ無理かもしれない。
「検証はこれで大丈夫ね、あとは魔導回路の細かい仕様を決めれば洗浄システムを完成させることができそうね」
いくつか追加で検証をしたが、《マジックシールド》のトンネルを形成するのにそれなりの魔力が必要だった。そして《ウォッシュシャワー》などの魔法も同様に魔力が必要で、放射されている魔力はトリガーとしてしか利用できなかった。あらかじめ大きめの魔石に魔力を溜めておくことで、そこから魔力を引き出し発動させることが可能だった。それぞれの魔導回路に外部から魔力線を使って魔力が供給できるような設計にしておく。
「魔力線がないから今日の検証はここまでね、トイレは明日まで漏水しないかテストしたいから、シェルターはこのままにして宿に帰りましょう」
まだ夕方には届いていない時間なので、職人街へ行き魔力線を購入する。魔力線は金属に魔石を砕いた粉末を練り込んで作ったものだった。なるべく薄くしようとしているのだろうが、幅が1cm、厚さが3mm程度あり、重くなるので購入は50cmにしておいた。
「これは改善の余地があるわね……、針金みたいなものが作れれば良いのだけど……」
「針金?なんじゃそれは」
「細い金属の糸ね、糸のように細くすることで、軽くなり自由度が上がるわ」
「すぐに切れてしまわないか?」
「使う金属の問題ね、粘りのある金属を使えばそれなりの強度を保てるわ。細いといっても本物の糸のような細さじゃないから」
「ふむ、強力な防具とかで使われるミスリル繊維みたいなものかの?でもあれは繊維にミスリルを定着させているから違うものか……」
ついでに鉄のインゴットを購入しておく。結合の魔導具があるので何かに使えるかもしれない。確か、新居の見積もりには魔力線などの項目は無かった。普通にランプなどが照明として使用されるのだろう。壁の中や天井に配管を通せば細い魔力線を使って、魔導具の照明が使えるかもしれない。
「今日は時間がないから行かないけど、明日魔道具工房に行こう。ちょっと確認したいことができたわ」
「そうじゃな、もう夕方だし、今日は帰ろうかの」
職人街の商店を出て宿屋に戻った。




