第10話 新しい魔法と魔道具
準備した小麦粉の塊に浄化魔法をかけてみる。もちろん片方だけだ。深皿に手を翳してキーワードを唱える。
「ピュリフィケーション」
深皿と小麦粉の塊が少し発光したように感じた。たぶん浄化出来たのだろう。一応水分が飛んでしまわないように平皿で双方に蓋をする。浄化魔法をかけた方の平皿にも浄化魔法はかけておく。
(これで時々温めながら放置すれば問題ないかな……)
キッチンには椅子がないので、寝室から持ってくる。ついでに本も持ってきた。本は少々重いので衣装部屋の時のように移動してきてほしいものだ。
(私が呼んだら来てくれないかな?)
本を作業台の上に置いて開いた。特に意識はしていなかったが、生活魔法のページが開かれている。
【新しい生活魔法の追加】
本日新しい生活魔法が追加されました。
名前:ウォーム
効果:対象となる物質の温度を上げる効果
詳細:物質を指定の温度まで上昇させる。生物に使用することは出来ない。
上昇最大温度、上昇時間は魔力量に依存する。
温度を降下させることは出来ない。
新しい生活魔法が追加されている。確かに難しい魔法ではない。その物体が高温になる状態をイメージできれば、比較的簡単に再現できそうだ。今までに研究した人はいなかったのだろう。まあ温めるだけなら火を使ってできるから考えもしなかったのかもしれない。ページを開きなおしてみると、今度は【魔道具について】の項目だった。
【魔道具について】
魔石を使用することで動作する構造物
古代遺跡などで発見された魔導具が複製されて現在流通している。ただし劣化複製のため古代で使用されていた状態には遠く及ばない。詳しくは魔道具の仕組みを参照
物を温める方法として魔道具を使ったものが存在する。温度の上昇上限や上昇時間は新魔法の《ウォーム》に劣るが、一部の富裕層に人気がある魔道具の一つである。
魔道具があることは小説を読んでいるので知っている。あまり細かいことには触れられていなかった。確か主人公も一つくらい持っていた記憶がある。
(魔道具か……イラストで描くことはなかったわね……)
1年(360日)という時間はあるけど、どっちつかずで進めるより今は魔法の検証を続けることが優先だろう。2つ検証を同時にやっても両方とも未知の技術だから中途半端になりかねない。それなら魔法だけでも納得のいくところまで研究や検証をした方が良いだろう。
キッチンの窓から外をうかがうとすでに暗くなっていた。パッチテストをやっていたのを思い出し、左右の二の腕を見てみる。赤くなったり腫れたりはしておらず変化はない。今まで痒みや違和感もないので問題ないだろう。
(どうせ、私の部屋から持ってきた化粧水と乳液だろう。容器まで再現しなかっただけで……)
もう一度小麦粉の塊に素早く《ウォーム》をかけて蓋を閉じる。衣装部屋から着替えを持ってきてささっと風呂に入った。あまり時間をかけると小麦粉の温度が下がってしまうので早めに風呂から上がった。
濡れた髪をタオルで拭きながら小麦粉を確認してみる。浄化魔法をかけていない方は最初と比べて少し膨らんでいる。特に酵母などを加えた訳ではないが何らかの細菌による発酵もしくは腐敗が進行しているのだろう。浄化魔法をかけた小麦粉の塊に変化はない。
もう少し様子をみたいので、再度《ウォーム》をかける。毎回髪を拭くのが面倒だ。ショートボブなのでロングヘアーよりは乾燥が速いが、タオルで水分をすべて吸収することは出来ないので、自然乾燥に任せるしかない。
(ウォームは、生物には使用できない、要は私の髪の毛にかけることも無理ね……そうなると直接乾燥させるような魔法か、風を起こしてドライヤーのような魔法を考えるか……)
とりあえず乾燥させることからやってみることにする。食器棚から深皿を1枚だす。今検証している物と同じ小麦粉の塊を作り出す。この小麦粉の塊から水分が抜けるようなイメージをする。
「ドライ」
魔法を行使すると数秒で小麦粉から水分が抜けた。ぬるま湯で練っているため元の粉状には戻らない。グルテンが結合してしまっているので元の状態に戻らないのは当たり前だ。深皿の中には乾燥した小麦粉の塊だけが残った。
自分の濡れた髪にも使用してみた。髪の内部にある水分まで抜けてしまわないか少し心配したが問題なかった。というより髪の毛が乾いていない。上手く発動しなかった。
(ああ、ウォームと同じ理由な気がする。「生物に使用することは出来ない」……とりあえず表面だけを乾かしてみるかな……)
今度は髪の毛の表面の水だけを除去するイメージで魔法を使ってみた。先ほどのようなキーワードは思いつかない。魔法が発動すると少し暖かい風が吹き抜けて髪の毛が乾いた。原初魔法を使った魔法になってしまったようだ。風と熱を使えばドライヤーのような効果の生活魔法は作れるかもしれない。本を確認すると生物不可の《ドライ》の魔法だけが追加されていた。ついでに乾燥の魔道具を紹介されたが、いらないお世話だ。




