Last Case 間幕
【モノローグ/女神様視点】
恋愛とは、エゴとエゴのぶつかり合いだ。
静かに触れ合う祈りのようなものではない。もっと、生々しくて、もっと不格好で、もっと人間くさいものだ。
自分はこうなりたい。
自分はこれが好きなんだ。
そんな小さな主張の積み重ねが、
人という存在の輪郭を作る。
譲れないもの。捨てられないもの。
譲歩してしまう弱さ。
そういうものが混ざり合って、ひとりの人間になる。
そして、その輪郭が――
ときに、魅力として誰かを惹きつける。
エゴとエゴがぶつかり合い、
傷つき、迷い、それでもなお互いに手を伸ばす。
それが、恋愛というものだ。
鉄平は、ここまで完璧だった。
普通の人間なら、こうはいかない。
人はもっと不器用で、もっと自分勝手で、もっと間違えるものだ。
なのに彼は――できてしまう。
なぜか。
それは、彼にとって全てが「自分ごと」ではないからだ。
鉄平は、他人事に介入することに長けている。
人の恋。人の悩み。人の人生。
第三者としてなら、彼は誰よりも的確に動ける。
冷静で、優しくて、的外れにならない。
それは、最初の人生が原因だ。
鉄平は、虚無を抱えて生きていた。
欲しいものが分からない。
好きなものが分からない。
何を選べばいいのか分からない。
エゴが――なかった。
だからこそ、彼は人のために動けた。
自分のためではないから、迷わない。
自分の傷ではないから、躊躇しない。
けれどそれは、同時に――
彼自身の人生が空っぽだったということでもある。
そんな彼が、転生のときに望んだ願い。
「転生したらハーレムがいい」
その言葉を聞いたとき、私は少しだけ笑った。
もちろん理由は単純だ。
愛されたことがないから、愛されたい。
でも、それだけじゃない。
彼は――
特定の誰かを、愛したことがない。
だから「ハーレム」なのだ。
誰か一人を選ぶ覚悟がない。
誰か一人を好きになる経験がない。
恋を知らない。
だから私は思った。
だったら、教えてあげよう。
恋というものを。
誰よりも近くで。
最初の試練では、鉄平を失敗させるつもりだった。
死んだら終わりだと焚きつければ、
きっと泣きつくだろうと思っていた。
「助けてください」と。
神にすがる人間は、私は何度も見てきた。
けれど――
彼は泣きつかなかった。
それどころか、試練を乗り越えながら少しずつ変わっていった。
人の恋を助け、
人の背中を押し、
人の幸せを、自分のことのように喜ぶ。
気づけば、彼は魅力的になっていた。
そして、気づけば――
私自身が、彼に恋をしていた。
忘れられない言葉がある。
あのとき、鉄平は少し照れながら言った。
「将来、美容師かスタイリストになって、人の背中を押してあげたい」
その瞬間、胸がいっぱいになった。
ああ、と思った。
彼のエゴが生まれたのだ。
「成りたい自分」
それが、やっと見つかった。
私も、自分のことのように嬉しかった。
神である私が、
人間の未来をこんなにも喜んでいる。
――おかしいわね。
でも、それでもいいと思った。
だって、それが彼だから。
そして、最後に残ったピース。
人を好きになること。
恋をすること。
誰か一人を、選ぶこと。
……その相手が、私であってほしい。
それが、私のエゴだ。
私は今、学級委員「凛」としてこの物語の中にいる。
人間として。
女子高生として。
鉄平のすぐそばで、
彼の人生を観測し、
ときどき、少しだけ介入する。
ハーレムは選ばせない。
私を選んでほしい。
それが――最後の試練。
※注意
女神様は自分の恋愛に関してはポンコツであり、立てた作戦の尽くが裏目に出ます。




