Case9 ハロウィン④完
【女神様パート/女神様視点】
「あ、女神様こっちです!」
人で賑わう商店街の中、鉄平が手を振っている。
ハロウィンの飾りが揺れ、子どもたちの笑い声と甘いお菓子の匂いが夜の空気に溶けていた。
鉄平はコスプレ姿だった。
タンクトップの上に軽く羽織ったパーカー。
迷彩のボトムスに、安全靴。
まるで戦場を生き抜いてきた傭兵のような、無骨で実戦的な格好。
そして――
(……いい筋肉ね)
肩から腕へ、自然に浮き上がる筋肉のライン。
服の上からでもわかる身体の厚み。
(ここに合わせて仕上げてきたとは)
嬉しい誤算だった。
思わず視線をもう一度滑らせてしまう。
鉄平は少し照れたように笑った。
「女神様、今日はハロウィン。いつもの姿でもこの祭りを楽しめる日です」
周囲を見れば、魔女や吸血鬼、天使や悪魔。
どんな姿でも“仮装”として紛れてしまう夜。
つまり――
私が、私の姿のまま歩ける日。
「ふふ、気遣いありがとう」
自然と笑みがこぼれる。
(やるじゃない鉄平。女性の誘い方、合格よ)
鉄平は少し真面目な顔になった。
「俺、試練が終わって……次の人生は美容師とかスタイリストの資格を取ろうかと思ってるんです」
夜の灯りの中で、彼の瞳がまっすぐこちらを見ていた。
「やりたい事が見つけられて……女神様には本当に感謝してるんです」
その言葉を聞いた瞬間、胸がじんわりと温かくなる。
――ああ。
この人間は、ちゃんと前を向いている。
試練を通して、自分の人生を見つけている。
目の奥が少しだけ潤んだ。
(試練やってて良かった……)
本当に。
「あと……」
鉄平は少しだけ言葉を詰まらせた。
「デートの練習に付き合っていただきたく」
一瞬、沈黙が落ちる。
私は腕を組み、少し考えるふりをする。
「うーん」
そして、くすっと笑った。
「合格ね」
(“練習”って言わなければ満点だったけど)
鉄平の顔がぱっと明るくなる。
「じゃあエスコートお願いね、鉄平」
「はい!喜んで!!」
その声は、少しだけ弾んでいた。
私はこの人間――鉄平に恋している。
神である私が、人間に。
でも今、この夜だけは。
仮装に紛れて、誰にも咎められずに。
私が私のまま、鉄平の隣を歩ける。
灯りに照らされた商店街の道を、二人で並んで歩く。
それだけで――
胸が、満たされていく。
私は幸せだった。
◇
【咲也&紗理奈視点】
「おおお!鉄平、金髪美女と歩いてるよー」
咲也が思わず声を上げる。
「マジだ……」
紗理奈も目を丸くする。
「鉄平のあの格好、あのアニメの主人公って言ってたな」
「確か……」
咲也はスマホを取り出して調べる。
「『天国に一番近い死神、幸せについて本気出して考えてみた』」
「何それ」
「暗殺と諜報技術で“死神”と呼ばれた暗殺者が、一度死んで転生するんだって」
画面を見ながら説明する。
「前世の記憶は全部消えたはずなのに、暗殺諜報スキルだけ残っててさ」
「へえ」
「女神様から善行の試練を受けて、人を助ける喜びに目覚めていく――ドタバタスローライフらしい」
紗理奈が遠くを見ながら言った。
「なんかお似合いだねー」
咲也は画面をスクロールする。
「あ、これアニメ化されてない部分だけど」
「何?」
「最終的には、女神様が人間になって」
少し笑う。
「主人公に恋するらしいぞ」
紗理奈は小さく笑った。
「昔話みたいでロマンあるじゃん」
遠くで、鉄平と金髪の美女が並んで歩いている。
ハロウィンの灯りの中で、
まるで物語の一場面みたいに見えた。




