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恋愛請負人・鉄平 ―ギャルゲー主人公の友人として恋を請け負っていたら、女神様が筋肉(からだ)目当てで距離を詰めてくるんだが  作者: 強炭酸
Case9 ハロウィン 主人公 咲也

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Case9 ハロウィン③

【鉄平共闘パート/鉄平視点】


衣装制作に取り掛かる。


机の上に布、メジャー、ハサミ、メモ帳。

ミシンの油の匂いと、切り取った布の柔らかい感触が指先に残る。


「ところで、テーマは何で行くんだ」


俺が聞くと、咲也は少し照れくさそうに頭をかいた。


「俺はアニメ『天下無敵のサムライ、魔界剣士として魔王を目指す』の主人公のサムライでいこうかと」


「ああ、あれか」


頭の中でキャラクターの姿を思い浮かべる。

割れた鬼の面で片目を隠す様にしている。

鎧はない。動きやすい服装の剣士だ。


「このキャラ、鎧とか着てないしな。甚兵衛を改造して袴で合わせれば、それっぽくできそうだ」


低コストでいける。

学生の予算でも十分再現できる。


「お!私も同じアニメのキャラにするよー」


紗理奈が机に肘をついて笑う。


「主人公のライバル女戦士?面白そうじゃん」


咲也が言うと、紗理奈は小さく笑った。


「ふふふ、お楽しみに」


その笑い方が、妙に意味深だった。



数日後。


紗理奈が、俺の机に身を乗り出してきた。


「そういうわけで、メイクは本気モードでお願い!!」


両手を合わせて、勢いよく頭を下げる。


「自分でやるより鉄平の方が上手いし」


「ははー」


俺は大げさに礼をしてみせた。


「でも、紗理奈はそのままでも十分映えると思うけどな」


そう言うと、紗理奈はむっと頬をふくらませる。


「違うの。ギャップが大事なの!」


その時だった。


咲也が椅子を引いて立ち上がる。


「……飲み物、買ってくる」


「あ、俺も――」


言いかけた俺を、紗理奈が目だけで制した。


「鉄平はいい。ちょっと相談あるし」


咲也は一瞬だけ足を止めたが、すぐに「そう」とだけ言って部屋を出ていった。


扉が閉まる。


さっきまでの勢いが少しだけしぼんで、紗理奈は机の上の紙束を抱え込んだ。


「……ねえ、鉄平」


「ん?」


「本気で、可愛くしてくれる?」


珍しく弱気な声だった。


俺は少しだけ目を丸くする。


「そりゃ、やるなら全力でやるけど」


紗理奈は視線を落とし、指先でデザイン画の端をなぞった。


「きっかけがほしいんだよ」


「きっかけ?」


少し間があってから、紗理奈は小さく息を吸う。


「……咲也に、ちゃんと見てもらえるきっかけ」


その言葉で、ようやく全部つながった。


ただ仮装をするだけじゃない。

ただ可愛くなりたいわけでもない。


咲也に、“いつもと違う自分”を見てほしいのだ。


「私の衣装、咲也には最後まで見せない方向でいきたい」


「徹底するなあ」


「中途半端に見られたくないの」


そう言って、紗理奈は抱えていたデザイン画を胸元に引き寄せる。


「当日、最初の一目で見てほしいから」


少しだけ声が小さくなる。


「……ちゃんと、“おっ”て思ってほしい」


その言い方で十分だった。


俺は「見せてみ」と手を差し出す。


紗理奈は一瞬ためらったあと、そっとデザイン画を俺に渡した。


目を落として、思わず頷く。


「なるほどね。意外性狙いか」


紗理奈が選んだのは、ライバルの女戦士じゃなかった。


――魔界の姫君。


黒いドレス。

悪魔の意匠。

魔王の娘らしい、ゴシックで妖しい姫。


普段の紗理奈はショートカットでスポーティーだ。

バスケ部で、ジャージ姿が似合うタイプ。


だからこそ、この衣装は強い。


ギャップがある。

しかも、かなり本気だ。


「メイクも衣装も、全部込みで勝負したいの!」


さっきまでの弱気を打ち消すように、紗理奈は言い切った。


俺は思わず笑った。


「あー、なるほどな」


それなら話は早い。


「任せろ。咲也の腰、抜かせてやる」


紗理奈が吹き出す。


「そこまでは求めてない!」


そう言いながらも、耳は赤い。


その時だった。


扉の向こうに、かすかな気配があった。


閉まりきっていない扉の隙間。

廊下の角に、ほんの一瞬だけ見えた制服の袖。


(おいおい)


戻ってきたのか。

それとも、最初から気になって足を止めてたのか。


どっちにしろ――聞いてる。


俺は気づかないふりをしたまま、小さく息を吐いた。


(似たもの同士だな、ほんと)


「わかったよ、協力する」


そう言うと、紗理奈はほっとしたように笑った。


その笑顔は、いつもの勝ち気なやつじゃなくて、少しだけ少女っぽかった。


そして俺は続けて言う。


「……あと、途中で俺、先約あるから抜けるよ」


紗理奈がすぐ反応した。


「おおー、鉄平も隅に置けないねえ」


ニヤニヤした顔で肘をつついてくる。


「別に、そんなんじゃないって」


「はいはい。で、誰と?」


「恩人にハロウィン案内するだけだよ」


そう言い切った瞬間、紗理奈の目がますます面白がる色になる。


「ふーん。“だけ”ねえ」


嘘は言ってない。


けど――

なぜか、顔が少し熱くなった。



そして、ハロウィン当日。


商店街は人で溢れていた。

子供の仮装、かぼちゃの飾り、甘いお菓子の匂い。

笑い声と音楽が、秋の空気に混ざって広がる。


その中で――


挿絵(By みてみん)



サムライ姿の咲也。


そして、


魔界の姫君の姿をした紗理奈。


黒いドレスに赤い装飾。

角のアクセサリー。

普段のショートカットの少女が、まるで別人のように見える。


挿絵(By みてみん)


咲也が息を呑んだ。


「……めっちゃ良いよ」


紗理奈は少し視線を逸らしながら言う。


「……お、ありがと」


その声は、いつもより少し小さい。


咲也が一歩近づく。


「あのさ……」



▶︎好きだ

 …………やっぱ恥ずい



喉が鳴る音が、ここまで聞こえそうだった。


そして、決意するように言った。


「……好きだ、紗理奈」


空気が一瞬止まる。


「……ほんとは、ずっと前から」


咲也は笑った。


「きっかけが欲しかっただけなんだよ」


紗理奈は少しだけ目を丸くして――


そして、小さく笑った。


「……私も」


遠くからその光景を見ていた俺は、静かに頷く。


二人の距離が、ようやくゼロになった。


「……今度は俺の番かな」


そう呟くと、秋の夜風が少しだけ冷たく頬を撫でた。

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