Case9ハロウィン②
【鉄平共闘パート/鉄平視点】
「なるほどな。話は分かった」
咲也の話を聞き終えて、俺は腕を組む。
秋の空気は少し冷えていて、窓から入る風が頬を撫でた。
ハロウィンが近いことは分かっていた。だから俺は先回りして、手芸部に入っていた。採寸の仕方、布の扱い、ミシンの基本。放課後の教室で、糸の匂いと機械の低い振動を聞きながら、少しずつ覚えてきた。
準備はしてある。
「うちにもミシンあるよ」
横から声を挟んできたのは紗理奈だ。
「学校の借りるつもりだったけど……紗理奈のミシンも使わせてもらおうか」
頭の中で段取りを組み立てる。
布、型紙、採寸、衣装――
その前に、もう一段階必要だ。
「俺たちはコスプレには素人だ。だから、実際にコスプレしてる人達に話を聞きたい」
咲也が少し眉を上げる。
「ハードル高すぎない?」
「別にプロの人の時間を借りるわけじゃない。素人でも、色々工夫してる人はいる。そういう話を聞ければいい」
スマホを取り出し、イベントのホームページを開く。
画面の光が指先を照らす。
「ここで定期的にコスプレイベントやってるみたいだ」
俺は画面を二人に見せた。
――現場に行く。
まずはそこからだ。
◇
数日後。
コスプレイベントの会場になっている公園。
秋の空気の中、色とりどりの衣装が視界に広がっていた。
風に揺れるマント、煌びやかな装飾、カメラのシャッター音。
紗理奈はコスプレ姿で立っている。
俺と咲也はカメラマン兼付き添いだ。
紗理奈の衣装は、アニメ『負けヒロインはまだ負けてない』のキャラクター。
ヒロインの幼馴染の女の子。
中学と高校のジャージ、体操服を組み合わせ、ウィッグで雰囲気を合わせた。
「だいぶそれっぽくなったね」
咲也が感心したように言う。
紗理奈は少し照れくさそうに肩をすくめた。
「ていうか鉄平のメイク、どこで習ったの? 手慣れすぎでしょ」
「練習したからな」
それだけだ。
鏡の前で試して、やり直して、また試した。
マネキン使って他の人にするやり方も試した。
日々の積み重ね。
トライアンドエラー。
その時だった。
「すみません、『負け負け』のアニメですよね? 一緒に写真よろしいですか?」
別のコスプレイヤーが声をかけてきた。
――チャンスだ。
「はい、チーズ!」
シャッターを切る。
同時に、自分のデジカメでも写真を撮る。
「こちらのカメラでも撮りますね」
撮影が終わったタイミングで、さりげなく話を振る。
「その衣装、素敵ですね。私たち学生で予算なくて……皆さんどうしてます?」
コスプレイヤーは気さくに笑った。
「私も基本、既製品を改造だよ」
「なるほど」
「ポイントはね、採寸と、絵を描くこと」
「絵?」
「完成形をイメージするの。どんな姿にしたいか」
なるほど。
「100点を目指すより、いかに近づくか、かな」
その言葉が妙に胸に残った。
「ありがとうございました。大変参考になります」
頭を下げる。
それからも、何人かに話を聞いた。
布の選び方、ウィッグの整え方、小道具の作り方。
みんな最初から上手かったわけじゃない。
初心者だった。失敗して、試して、覚えて――
そうやってここに立っている。
横のつながり。
知識の共有。
少しずつ、道が見えてくる。
公園の風が木の葉を揺らした。
俺はカメラを下ろし、空を見上げる。
――よし。
「次は衣装作成だ!」




