Case9 ハロウィン①
【主人公/咲也視点】
夏休みが終わり、空気が少しだけ乾いた秋の朝。
駅のベンチに腰を下ろし、電車を待ちながらマンガ雑誌を読んでいた。ページをめくるたび、紙の匂いがふわりと立ちのぼる。
俺は咲也。高校一年生。
マンガとアニメが好きで、新刊の発売日はだいたい把握している。
「お、咲也。今日《週間マジンガ》発売日じゃん。私にも見せてよー」
後ろから聞こえてきた声に振り返る。
そこにいたのは幼馴染の紗理奈だった。
ショートカットにバスケ部のスポーツバッグ。中学からずっと変わらない、活発で男勝りな雰囲気。昔はよく男子に間違われていたけど――高校に入ってから、なんだか急にスタイルが良くなった。
正直、最近は視線のやり場に困ることがある。
「魔界剣士、サブスクで見たよ。結構面白いじゃん」
そう言いながら、紗理奈は俺の手から雑誌をひょいと取り、ページをぱらぱらめくる。髪が揺れて、ほんのりシャンプーの匂いがした。
「だろ?単行本貸すよ」
「お、まじ?ありがとー」
紗理奈の口癖の「お、」。
昔から全然変わらないその声を聞くと、なんだか安心する。
――ぶっちゃけ。
俺は紗理奈が好きだ。
子供の頃から一緒にいて、気づいたら好きになっていた。
紗理奈も、俺のことを少しくらい意識してくれてたらいいな、なんて思っている。
ただ――
きっかけがない。
「そう言えばさ、うちの商店街でハロウィン仮装祭やるみたいだよ」
紗理奈が雑誌をめくりながら言う。
「あー、聞いた。有名コスプレイヤーも呼ぶらしいじゃん」
SNSで有名らしいけど、俺はその界隈に詳しくない。
いまいち凄さがわからない。
「でも、フォロワー一万超えらしいよ」
「そう聞くとなんか凄そう」
どの界隈でも、そこそこ名前が知られてそうなラインだ。
▶︎ハロウィン仮装…これだ!!
俺たちには
一瞬、頭の中で何かがつながった。
きっかけ。
これかもしれない。
俺は少しだけ息を吸ってから、紗理奈に向き直る。
「紗理奈、ハロウィン仮装やらないか」
紗理奈は目をぱちくりさせた。
「お、やるの?意外」
その反応に、胸の奥が少しだけ熱くなる。
――よし。
そうと決まれば、鉄平に連絡だ。
あいつは不思議なやつだ。
見た目は普通なのにやたら情報通で、ファッションとかダイエットとか、妙に詳しい。
俺はポケットの中で拳を握る。
(……きっかけがほしい)
(力を貸してくれ、鉄平)
電車がホームに滑り込んでくる音が、遠くで鳴った。




