Case8 文化祭③完
【女神様暗躍パート/女神様視点】
「………あはははははは!!」
我慢できなかった。
いや、これは無理よ。無理。
だって――
メイド服に、筋骨隆々の男。
それが物陰から真剣な顔で恋の行方を見守っているのよ?
腹筋が痛い。
目の前の光景を、私は必死で水晶に記録していた。
「これは……永久保存版ね……」
メイド服。
スカート。
フリル。
そこから覗く、鍛え上げられた腕。
割れた腹筋。
戦士みたいな太もも。
えっちさ?
そんなものは吹き飛んだ。
笑いが勝つ。圧倒的に。
「……よし」
私は満足げに頷いた。
「秘蔵コレクションに追加、と」
こうして、私の中にある
“鉄平隠し撮りフォルダ”がまた一枚増えた。
……あ、ちなみに。
今回の文化祭。
男子メイド、女子執事という謎の企画。
実は、ほんの少しだけ――
私が運命を捻じ曲げた。
ほんの少しよ?
恋愛の流れは一切触ってない。
ただ……
鉄平のメイド姿が見たかっただけ。
それだけ。
それだけよ?
私はソファーに座りながら、恋愛雑誌をぺらりとめくった。
「ふむふむ……」
ページには大きく書かれている。
恋のテクニック特集
「吊り橋効果……」
心拍数が上がると恋愛感情に変換される、ね。
なるほど。
「嫉妬で煽る……」
私は顎に指を当てた。
「……使えるわね」
にやり。
我ながら、ちょっと嫌な顔をしている気がする。
でも仕方ないじゃない。
だって私は――
神様なんだから。
♢
「はい、お疲れ様ー」
私は軽い調子で声をかけた。
「ここ座ってー」
空間がゆらりと歪む。
そこには、大きなソファー。
目の前には巨大ディスプレイ。
そしてテーブルの上には――
ゲームのコントローラー。
鉄平が座る。
「今回は順調だったわね」
私はゲーム機を起動する。
画面が光る。
「はい」
鉄平は少し照れくさそうに頭を掻いた。
「今回はメイク手伝ったくらいで、後は見守るだけでしたし」
「それでいいのよ」
私は肩をすくめる。
「本来、それくらいの温度感が理想なの」
そして、ちょっとだけ誇らしげに言う。
「……でも」
コントローラーを差し出す。
「鉄平自身が頼れる男になってきたってことよ?」
ドヤ顔。
鉄平が受け取る。
「ありがとうございます……って」
そこで止まる。
「俺がゲームやるんですか?」
私は当然の顔で言う。
「当たり前じゃない」
ビシッ。
「ギャルゲーやったことないなら、やるべきよ!」
鉄平が苦笑する。
「……女神様」
「出来れば最初の方でやりたかったです」
「次、9人目ですよ?」
私はふふっと笑う。
「それだと試練にならないでしょう?」
そして、さらっと言う。
「それに――」
少しだけ視線を逸らして。
「試練の後は、あなた自身の恋愛が待ってるじゃない」
鉄平の目が少し見開かれた。
「確かに」
ぽつりと呟く。
「やらせていただきます!」
「よろしい」
ゲームが始まる。
チュートリアル。
ヒロインたちが次々登場する。
金髪ツインテールのツンデレお嬢様。
黒髪ロングの幼馴染。
ボーイッシュで背の高い同級生。
そして――
学級委員タイプのヒロイン。
私は腕を組んで、じっと画面を見る。
「……へえ」
つい口に出た。
「鉄平くん、こういう面倒見良さそうな子がタイプなのかなあ」
ふむ。
黒髪。
落ち着いた雰囲気。
真面目系。
……外見は違うけど。
雰囲気は――
私に近い。
鉄平が慌てて言う。
「いや……強いて言うならですよ?」
「この中なら、って話です」
ふーん。
なんか、こっちチラチラ見てるけど。
まあいいでしょう。
ゲームは進む。
シナリオはどんどん重くなる。
そして――
バッドエンド。
ヒロインが泣く。
別れ。
後悔。
鉄平が真剣な顔で言う。
「女神様……これめっちゃ泣かせてきますね」
私は胸を張る。
「そうでしょう」
「涙腺崩壊させにきてるわ」
その後。
真エンド。
救済。
再会。
感動。
鉄平が深く頷く。
「バッドエンド見せてから真エンド見ると、達成感すごいですね」
「分かってくれて何よりよ」
私たちは拳を突き出す。
ガンッ。
……とはならない。
拳はそのまま、すり抜ける。
私は神。
鉄平は人。
触れられない。
でも。
それでも。
同じ画面を見て、同じ感動を共有している。
それだけで、なんだか――
少し嬉しかった。
私はゲーム画面を閉じた。
「いよいよ9人目」
軽く伸びをする。
「次はハロウィンね」
鉄平が考え込む。
「ハロウィンか……」
そして顔を上げる。
「女神様」
「次の試練で、ひとつ提案があるんですが」
私は微笑んだ。
「聞きましょう」
――さて。
次の恋は。
どんな物語になるのかしら。




