Case8 文化祭①
【主人公/新一視点】
――「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
秋晴れの空に、男の絶叫が突き抜けた。
雲一つない青空。
文化祭準備で賑わう校舎。
そして、そのすべてを切り裂くように響き渡る慟哭。
犯人は、もちろん。
俺の友人――鉄平だ。
「……いや、そこまで叫ぶ?」
俺は呆れながらも、つい笑いそうになるのをこらえた。
改めて自己紹介しておこう。
俺は新一。とある高校に通う、どこにでもいる高校一年生だ。
好きな人は居ないけど、中学の時…可愛い後輩はいた。
俺は写真部に所属していて、当時妹みたいに後ろをついてきて、デジカメの使い方を教えてあげたっけ。
卒業式の見送り、何か最後に言い掛けてたけど…なんだったのか。
話は戻るが、さっき、校庭の真ん中で魂の叫びをあげていたのが、俺の友人の鉄平。
普段はわりと冷静なやつなんだけど――今日は様子がおかしい。
理由は単純だ。
文化祭。
俺たちのクラスは、文化祭の出し物を決めていた。
最初の案は、みんな大賛成だった。
鉄板焼き。
焼きそば。
文化祭屋台の王道である。
しかも鉄平は、なぜかこの企画に異常なほどやる気を出していた。
鉄板を振るう未来を想像していたのだろう。
ヘラを振る姿が似合いそうではある。
――だが。
「……まあ仕方ないじゃん。今年は鉄板焼きとか許可降りなかったらしいし」
俺が言うと、
鉄平はヘラをひっくり返すジェスチャーをしたまま固まった。
「……いや、だからといってこれはないだろ」
その視線の先には、黒板に書かれた文字。
第二候補
メイド&執事喫茶
理由はシンプル。
火気使用NG。
つまり屋台系は全部アウト。
代わりに、
コーヒー
個包装のお菓子
ならOK。
そこまではいい。
問題は、その次のルールだった。
男子がメイド
女子が執事
「変化球すぎない?」
鉄平が心の底から言う。
「本当にやると思わんでしょ」
まだ鉄板を返す仕草を続けている。
未練がすごい。
「流石に男子女子全員がやるわけじゃ無いよ」
俺は説明した。
仮装するのは、くじで当たりを引いた人だけ。
残りは裏方。
つまり――
運命。
箱の中に紙が入っている。
そこに書かれている文字は二種類。
当たり
はずれ
ただそれだけ。
「……」
鉄平はじっと箱を見ている。
焼きそば屋の夢がまだ捨てきれないらしい。
「先どうぞ」
そう言われて、俺が先に手を入れる。
箱の中は、紙の感触がいくつも触れる。
――さて。
箱の手前を取る
▶︎箱の奥から取る
なんとなく奥の方を掴んだ。
折られた紙を開く。
「……」
“当たり!頑張れー!”
「……え?」
クラスがざわつく。
「新一当たりじゃん!」
「メイド確定!」
「うわー似合いそう」
似合うとか言うな。
「……マジか」
俺は紙を見つめたまま固まった。
そして次。
鉄平が箱に手を入れる。
沈黙。
紙を開く。
「……」
鉄平も固まった。
クラスメイトが覗き込む。
「お前も当たりじゃん!!」
教室が爆笑に包まれる。
鉄平はしばらく、無言だった。
やがて。
ゆっくり顔を上げる。
そして――
「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
再び、魂の叫び。
秋晴れの空に、第二波が響き渡った。
こうして。
焼きそば職人になるはずだった俺たちは――
メイドになった。




