第328話 幕間 おみやげ
ウェルギリウスの崖から飛び降りてあっと言う間に下山できた俺達。
一つ目の崖を跳んだときはミユキも若干大丈夫かな?という顔をしていたが、途中で「あ、これ行ける」と気付いたらしく最後は景色を楽しんでいた。
というわけで、俺たちは昼ごはん時には麓のカエリスの村に到着できたのである。
「さて、お土産でも見よっか」
「今日の宿も取らないとですね」
今日のうちに馬か馬車の手配を進めて、出立は明日の朝だ。
俺たちは村を歩きつつ、お土産でも見るかとまばらに立ち並ぶ商店を物色する。
小さいとは言え、カエリスは人の往来が多い村だ。
それなりに店は揃っていたし、先日俺やリリアナが入ったレストランもそこそこ客が入っているようだった。
「カエリスの名物って何なんだろう」
俺はそのうちの一つ、雑貨や生活用品なんかも売っている大きめの道具屋に入った。
「そうですね……あ、例えばこれ。ウェルギリウスお煎餅とかはいかがですか?」
現代日本でもありそうな、10枚ほど煎餅が入った箱が売られている。
なんか微妙だな。
「なんか……ティア怒りそう」
もうちょっと気の利いたものでないと文句を言われそうな気がする。
「ティアちゃんはそんなことでは怒りませんよ。では……あ、このシェオルペナントはいかがですか?」
真っ赤な山々と黒い城の影が描かれたペナントを手に取るミユキ。
デカデカとシェオル!と書かれているのが面白い。
今時現代日本でもこんなペナントを探すのは難しいような。
「いやこれ絶対なんか言われるよ」
断言してもいいが、これは皮肉を言われる。
いやむしろ「へえ……」と無言で仕舞われる未来しか見えない。
「そうですか? ……では……」
「と、とりあえずお昼食べてから考えない?」
ミユキのお土産選びのセンスに若干不安を覚えた俺は、一旦仕切りなおすことにする。
本人にそのまま言うとショックを受けそうなので、もちろん言わないが。
「そうですね……ふふ」
「え、何々?」
突然クスッと笑みを零したミユキ。
帰りの道中、以前にも増して彼女の笑顔が見られることが増えて嬉しい。
「あ、いえすみません。何だかこうしていると、一緒に旅行に来たようで楽しいなと思って」
「確かに。そういえば言ってなかったけど、ティアとも約束してるんだ。復讐が終わったら、みんなで戦いの無い楽しい旅をしようって」
人はそれを旅行と呼ぶ。
ただ、恋人を差し置いて他の女性とそんな約束したって言ったら嫌だっただろうか?
いや、でもミユキのことだから。
「わあ、いいですね。どこがいいでしょう」
この通りである。
本当に知らない女性だったら嫌だろうけど、ティアだし、他のみんなも一緒なら大丈夫だとは思っていた。
そもそもこれまでの旅もそれなりに楽しんできたミユキだ。
意外と楽しいことには積極的なのである。
「この世界のメジャーな旅行先ってどこなの?」
京都とか箱根とかみたいなベタな旅行先はあるのだろうか。
「ティアちゃんと話したことがあるのは、ゴルドール北部のアダブという温泉街でしょうか。他にもアレクサンドラの王都も芸術の都として人気ですし……」
この世界は移動手段が限られていて、気軽に旅行に行きにくそうだと思ったが、街道も整備されているし列車もあるので大丈夫そうだ。
旅行は計画を立てている時が一番楽しいとはよく言ったもんだ。
ワクワクした面持ちのミユキを見ているとこっちまで楽しくなってきた。
彼女は自然に手を繋いできて、すっかり自然な恋人関係になれて俺もホクホク顔である。
「あれ、お前ら……」
そんな俺たちが仲良く道具屋を出ようとしたところ、ちょうど店に入って来たスキンヘッドはドレンだった。
「あ、ドレンさん。まだ村にいたんだ」
俺とリリアナがドレンに登山用品を揃えてもらってから、もう結構経つのに。
暇なんだろうか。
「まだとはご挨拶だなおい。仕事だから仕方ねぇだろ」
俺の内心を知ってか知らずか、ドレンの太い腕が俺の首に絡みつく。
俺は苦笑してタップするフリをしていると、ミユキに視線が移った。
「クリシュマルド……お前」
「ど、どうも……」
慌ててペコリと頭を下げるミユキ。
エルルのクエストでひと悶着あった二人なので、やや気まずい空気が流れる。
が、すぐにドレンはニッと歯を見せて笑った。
「なんだよ無事帰ってこれたみたいじゃねえか。良かったなフガク」
再び俺の首に回した腕をゆすって弛緩した空気が流れる。
俺がミユキと恋人関係だということも、彼女を助けるためにシェオルに向かったことも知っているドレン。
無事二人で村に降りて来たのだと知って喜んでくれたのが、俺も何だか嬉しかった。
「あ、そうだドレンさん。この村って何か良いお土産ない? ティアや他の仲間にも買って行こうと思って」
プロの道具屋のおっさんをやっているドレンなら、何か気の利いたアイテムでも紹介してくれるだろう。
「あー? んー、そうだな……お、これなんかどうだ? ウェルギリウスグースの防寒ジャケット。厳冬期でもこいつさえありゃ寒さは平気だ。数が獲れねえからこの辺でしか見かけない逸品だぞ」
ドレンは道具屋の衣類コーナーにかかっていたダウンジャケット風の防寒着を取って見せた。
これから冬が来るし、カラバリも豊富だし、ありだな。
価格は1着2,500ゼレル。日本円換算で5万円くらいか。
お土産としては高いが、まあダウンジャケットを買うかと思うとそうでもないな。
幸い俺はそこそこ金持ち冒険者である。
特にロングフェロー王都の事件解決ではかなりの報酬がもらえたので、全然払える額だ。
普段必要な物以外散財しないので、ここらでパーッと使ってもいいだろう。
「これにする? でもこういうのって自分で選びたいんじゃないのかな」
服とか小物って好みが違うし。
「実用品ですし、いいと思います。ティアちゃんの好みから外れてるということも無さそうです。あ、私ももちろん半分出しますので」
正直ありがたい。
というわけで、ミユキからのオッケーも出たので、ティアとレオナのジャケットを色違いで購入する。
その後、一緒に売っていた防寒用のブーツと手袋をゼフィドに、胡蝶蘭には魔獣の毛皮のマフラーと工芸品の髪飾りを買った。
店としてはかなりの売上になったようで、おまけで色々と食料や薬草なんかもつけてくれた。
あとはシグフリード達に菓子折りでも買っていけばいいだろう。
「ありがとうドレンさん」
「おうよ……つーかお前ら、恋人同士だって? 何だよ青春だなコノヤロー!」
ニヤニヤとそんなことを言ってくる。
楽しそうで何よりだが、このおっさん意外とそういう話好きなのだろうか。
ミユキも少し頬を赤らめて何と答えようか迷ってるようだ。
「そうだよ。デート中だからもう行くねー」
ドレンに惚気ても仕方ない。
俺が軽くそう言うと、ミユキは少し驚いたような顔をしつつも俺に寄り添い店を出ようとした。
「はいよ、オッサンは退散するとするかね。じゃなフガク、またうちの店にも寄ってくれや」
「うん、またね」
俺はドレンにもう一度お礼を伝え、道具屋を後にする。
どうにかティア達へのお土産は用意できた。
適当に昼食をとって宿を探すかと思っていると、おずおずとミユキが俺の服の袖を摘んだ。
「……フガクくん」
「ん?」
モジモジしているので何事かを首を傾げる。
すると。
「フガクくん、実はこれ……」
すると、ミユキは俺に輝く白い紐で結われたブレスレットのようなものを差し出してきた。
いや、手首に着けるにしては長いので、アンクレットだろうか。
「これは?」
魔獣の毛で作られたアクセサリーのようだが、その毛並みの色には見覚えがある。
「フェンリルの毛から作られたアンクレットだそうです。こっそり買っちゃいました。お揃いでどうですか……?」
まさかミユキからプレゼントをもらってしまった。
店で何やらこそこそ買い物をしていたので、下着でも買っているのかと思っていたが、どうやらこれだったらしい。
「え、い、いいの?」
「はい。足に着けることで、旅人が道に迷わないというジンクスがあるそうです。よろしければぜひ……」
少し恥ずかしそうに、しかし真っ直ぐに俺の目を見て微笑みかけてくる。
「ありがとう! うわ、後で宿で着けよう」
ウェルギリウスでは実際フェンリルに助けられたし、ご利益がありそうだ。
何より、ミユキからもらったものだから俺としては値千金の価値がある。
「しかも足なら普段は靴で隠れているので、レオナとかにからかわれません!」
ドヤ顔でそう言うミユキ。
確かにお揃いのアクセサリーなんてしようもんなら、小学生男子くらいの勢いで囃し立ててきそうだ。
今は静かに眠っているが、目を覚ましたときのことを想像して思わず苦笑する。
俺は彼女と手を繋いで再び歩きだす。
「それはめちゃくちゃ重要だ」
そう笑い合いながら、俺たちはカエリスの村を歩く。
こうして、聖庁への帰還前にお土産を物色する一時を楽しんだ俺たち。
いつかまたこうして、ミユキと二人で旅行でも行ける日を楽しみにしておこうと思うのだった。




